Nem’oubliez pas

紅野素良

プロローグ

 これは暑い夏の話だ。



 人にとって、印象に残る夏は、それほど多くない。

 宇宙人が侵略に来る訳でもなく、不思議な力に目覚める訳でもないのだから。

 ただ暑いだけ。


 それでも、この夏だけは違った。


 そうだな。例えるなら、人魚のようなものかもしれない。口にすると、今にでも消えてしまいそうな。そんな泡沫な夏だった。


 これは、シンデレラのようなハッピーエンドな話ではない。人魚姫のようなバッドエンドな話でもない。






 これは、あついなつのはなしだ。


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