王国動乱 part3
相変わらず、石田畳の上を走行するバスの乗り心地は最悪の一言だった。
そもそもが、
一時間も、そんなバスに揺られて到着したころにはすでに
「うぇ……気持ちわる……」
もはや化石に等しいレベルでレトロな形状のバスが走り去るのを見送りながら、
帰りも、あんなものに揺られなければならないかと、考えただけで気が滅入りそうだった。
「ハハ、なんだなんだ? 勇者ともあろう者がそんなことでどうするんだ」
「よくセシリーは平気でいられるわね……あんなサイアクの乗りモンに」
まったく応えた様子もなく、セシリアは釣り具を抱えて歩き出す。
目的の場所は、すぐそこにあった。
「へぇ……キレイな
広がるのは湖だった。
それほど大きくはないようだが、澄んだ水が太陽に光を反射してキラキラと輝く美しい湖だった。
時折、魚が跳ねるのが見えている。
「さて、準備をするか」
釣り竿を片手に、セシリアは湖のすぐそばの小さな商店へと入っていく。
そこもどうやら釣具屋のようで、セシリアはバケツの中に何かを入れてもらっていた。
「なぁに、それ? ……うっ!?」
セシリアの持つバケツの中を覗きこみ、思わず口を押える。もしも、あと数秒遅れていたら確実に吐いていただろう。
嗅ぎなれない臭いが、鼻孔の中を蹂躙していった。
甲殻類の持つ特有の臭い。それを何百倍にも濃縮したような臭いがバケツの中を満たしていた。
「うぇ……ちょっと、もう少し離れてよ……」
鼻をつまみながら、セシリアから距離を取る
いくら人の趣味に口出ししないと言っても、限度はある。
あまりにも訳のわからない物に、つい言葉尻も強くなってしまう。
「そう邪険にするなよ。これがあると、ないとでは釣果がだいぶ違ってくるんだぞ?」
そう言われても臭い物は臭いのだ。
一緒についてきた柄杓で、バケツの中身をかき混ぜるたびに不快な臭いが広がっていく。
「これをこうして、少し撒くとだな……」
柄杓で少しだけ中身を掬うと、それを湖に向かってばら撒いた。
薄ピンク色で、水っぽい物体がバラバラになりながら湖面へと広がる。
すると、今までどこにいたのか何匹かの魚が、そのばら撒かれた物体へと群がってきた。
「うわ、スゴ……」
「魚をおびき寄せる撒き餌だ。私一人なら釣果はあまり気にしないんだが、せっかくやるなら釣れた方が面白いかと思ってな」
そう言って、セシリアは二本持ってきた釣り竿の一本を
ふと、その中を覗きこんだ
「ヒ…………」
言葉も出なかった。
十数匹もの、毛の生えたミミズのような生き物が木箱の中を所狭しと這い回っていたのだ。
ウネウネと互いに絡み合いながら身をよじるその光景に、
今想像していることを口にしたくはないと考えながらも、それとは裏腹に口が勝手に動いていた。
「まさか、それを触れって言うんじゃないでしょうね……?」
「うん? 当り前じゃないか。竿に餌を付けなくて、どうやって釣りをするんだ」
「ムリムリムリムリ!!!」
そんなこと、とてもではないが出来るはずなかった。
見ただけで卒倒しそうな光景の中に、手を突っ込まなければならないなど絶対に不可能だった。
「あーし、そんなウネウネしたものを触るなんてできないわよ!」
「別に大したことないぞ? ほら、一匹になればそれほどだろ」
セシリアは、
人に触れられたことで、慌てたその
「……セシリーが付けてくれるんなら、やる」
やはり無理だった。
最大限に譲歩して、それが絶対の条件。
「情けない」、とセシリアが呟きながらエサを竿に取りつけ、再び
針に括りつけられ、身をよじる
長くは見ていられないと、セシリアの動きに合わせて
リールのない、簡単な作りの竿は小気味よく湖面へと針を飛ばし小さな着水音を立てる。
「あとは釣れるのを待つだけだ」
「なんだか疲れたわ……」
まだ何もしていないというのに、すでに疲労困憊。
とてもリフレッシュに繋がるとは思えないが、セシリア本人はとても楽しそうだった。
「(ま、あーしもコスメショップ巡りで友達に疲れるだけだって言われたこともあるし、似たようなモンか……)」
どこまでいっても所詮は他人の趣味。
同好の士でもなければ、その楽しさの本質を理解するのは無理だということだろう。
だが、理解できないからと言って否定はしない
「せめてちゃんと釣れるならまだマシ……って、いきなりあーしにヒット!?」
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