ギャル、超える。
圧倒的なまでの、凄まじい凍気。
その勢いは、ヒドラの体を包み込み巨大な氷塊の中へと閉じ込めていった。
「はぁ……はぁ……ッ、動きは封じたが……」
決して倒せたわけではない。
ただ、身動きを取れなくしただけに過ぎない。
それでも、時間ができたというのは非常に大きかった。
セシリアはすぐに、
「これは……どうしたら……」
高熱で顔が真っ赤に上気しているのに、体はずっとガクガクと凍えるように震えている。さらに、全身が嫌な汗でびっしょりと濡れて息もか細くなっている。
そして、毒を撃ち込まれた直接の傷口は赤紫色に変色して、痛々しく疼いていた。
「セシリー、ゴメンね……」
「何を謝る必要がある。大丈夫だ、ミシェルに見せればすぐに治るさ」
そう言って、ミシェルがまだ残っている地下への穴の方向へと足を進めようとした時だった。
「いいの。多分、あーしはもうダメだから治療はいいわ。だけどね……」
そう言いながら、ボロボロの体を無理やりに動かしながら立ち上がる。
「お、おい……何をする気だ?」
「まだ、あのクソバカ魔人をぶッ殺してない。アイツだけは絶対にあーしが倒す」
残り少ない命の灯。
それを、燃やし尽くしながらも
それと同時に、魔人を封じ込めていた氷塊も毒々しい色へと変わりながら溶解していく。
「あぁッ!! 舐めやがってクソアマがァ!! だからイヤなんだよ、人間風情が調子こいてくんのは! 遊ばずにとっととぶッ潰すべきだったぜ!!」
今までの余裕の態度は一切消え、粗暴で野蛮な本性を露わにしたヒドラが吼える。
竜の力を解放したのか、爪や角はより鋭く尖り、翼も魔法による毒の翼でなくしっかりと強靭な物が背に広がっている。さらに、全身が強固な黒い鱗に覆われていた。
「あぁ? なんだ、テメェ。死にかけのガキがなんで立ってんだよ?」
「……簡単な話よ。アンタの毒が……、弱っちいってコト」
その言葉に、歯をギリリと鳴らしながら激昂するヒドラ。
その怒りに呼応するかのように、手に毒液で構成された爪を纏わせながら飛翔する。
「ざけんな、ゴミが!! 勇者だ、なんだと言われても結局はしょんべん臭ェ人間のガキじゃねェか!! 少しばかり特殊な力を持ったからって、イキってんじゃねェ!!」
毒爪を伸ばして、まるでムチのようにしならせるヒドラ。
だが、しなっていても元は鋭い爪。触れた建物などがいとも簡単に斬り裂かれていく。さらに、強烈な猛毒の効果でシュウシュウと溶け始めている。
物質を溶かす強烈な溶解毒。
だが、そんな死の群れが迫ろうとも
フラフラと力なく。だが、決して止まらない歩み。
「……今のあーしに、そんなモン効くはずないっしょ……」
言葉を発するだけでも猛烈に体力を消耗していく。
口の中は、嫌な熱を帯びた唾液で塗れ、だというのにいやに乾燥している。
足元もおぼつかず、狙いも上手く定まらない。
それでも、腕を伸ばして纏った火焔を迫る毒爪へ向けて撃ち放つ。
「な!? これは、なんだ……ッ!?」
その一撃を見た瞬間。
ヒドラは全力で以て身を翻す。
放たれたのは太陽――いや、そうと見紛うばかりの凄まじい烈火球。
表面部分があまりの高温にプラズマ化しかけているほどの火焔は、一瞬ですべての毒爪を飲み込み蒸発させていった。
あとほんの少し。僅か〇.一秒でも遅れていたら一緒に飲まれていた。
その恐怖が、ヒドラの全身を包んでいた。
「(なんだ……!? ただの人間、しかも死にかけの小娘にあれだけの威力が出せるというのか?)」
久しく感じていなかった、恐怖と焦燥に身を震わせるヒドラ。
それを悟られまいと、自身に毒液を纏わせていく。それが虚勢だと気が付かないままに。
「人間風情が舐めるなよ!! オレ様は魔人だ!! この世界の頂点に立つ崇高なる種族、その中でも最も強大なる竜人族のな!! それをたかが人間のガキにいいようにされてたまるかよ!!」
咆哮と共に、夥しい量の毒液を全身に纏わせ巨竜の形を成すヒドラ。
巨大な体に四本の太い脚。背には空を覆わんばかりの一対の翼。さらに、胴体から長く伸びた二本の首。
毒で造られた不気味な双頭の竜。
その鋭い毒牙が、うねりながら
「もう毒の影響でほぼ動けまい!! これだけの毒量、あの炎でも焼き尽くすには数秒かかる。オレ様の勝ちだなッ!!」
そう叫ぶ間にも、どんどんと毒竜の肉体は肥大化し続けている。
対して
完全に勝敗は明確。
誰がどう見ても、ヒドラの勝利は揺るがないことを確信させただろう。
「マナァアアア!!!」
竜の毒牙が荒れ狂いながら街を破壊していき、その中でセシリアの悲痛な叫び声が響き渡る。
それと同時に
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