ギャル、異変が起きる。 part2
「いやいや、正直な所マジで焦っていたんだよ。勇者サマには毒も効かないのかってね」
「ど、毒……?」
体の芯から凍えるような震え、脳ミソを直接鈍器で殴られているような痛み。さらには大量の発汗を引き起こした
毒。
確かにヒドラはそう言った。
だが、毒を受けた場面などあっただろか、と回らない頭で必死に考えながら一つだけ可能性に思い当たった。
「最初の……あの一撃……?」
「ほぉ、まだそうやって正常な思考ができるなんて驚きだね」
足に、ほんの僅かだが受けた爪による一撃。皮膚の、薄皮一枚と言った程度の傷だが確かにヒドラの攻撃は喰らっていた。
もう血は止まっているが、一筋赤い線が走ったのも事実。
しかし、たったそれだけでここまでの症状を引き起こすような毒を打ち込めるものなのか。
「いや、ホントはさぁ……毒を受けた時点でキミは死ぬはずだったんだよ。ほんの僅か。それこそ薄皮一枚程度のキズだろうと即死するような、猛烈な激毒。オレが扱うのはそういう代物なのに、まさかここまで耐えられるとはね」
返ってきた言葉は、想像以上に残酷だった。
致死性の猛毒。
恐らく耐えられているのは、『勇者』だから。確証はないが、
だが、それも長くはない。症状が体に現れているのがその証拠。
もう、あと幾ばくも持たないだろう。
そして、それはヒドラもわかっているのか、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらこう言った。
「あとは逃げ回っているだけで、オレの勝ちなんだけどさぁ……ま、それじゃあつまらないよな」
ヒドラの姿が一瞬ブレた。
そう思った瞬間、
それは、ヒドラの体が眼前に迫っているのだと気が付くのに時間がかかってしまった。いや、かかり過ぎてしまった。
「マナッ!!」
鋭く叫んだセシリアが、風の刃でヒドラへと斬りかかる。
耐えきったとはいえ、ヒドラも灼熱のレーザーを受けて大きく消耗している。
防御魔法の範囲も、先ほどのそれと比較して幾分か小さくなっていた。
「人間の攻撃が、オレに通るわけないだろう?」
だが、元々の基礎魔力に差があり過ぎる。
セシリアの一撃は軽く防がれて、周囲に風が拡散してしまう。
それでも、セシリアは悔しがることはなかった。むしろニヤリと挑発的な笑みを浮かべている。
「これでいいんだよ。マナをお前から引き離せればな」
「うん? チッ……面倒なことをするオンナだよ」
拡散した風は、フラフラの
「そんなことをしたって、どうせ死ぬのが少し遅くなるだけなのにさぁッ!!」
イラついたように、ヒドラは毒球をいくつも発生させてセシリアへと撃ち放つ。
それぞれが複雑な軌道を描いて、回避不可能な空間を形成して襲い掛かる毒球。
勇者ではないセシリアでは、その一発でも掠れば即、死が待っている。
「甘いな。私が無策で突っ込んだとでも思ったか?」
一言言うと、セシリアは剣を地面へと突き刺して魔力を込める。
すると、周囲が一気に冷え込んでいきあっという間に毒液ごと凍り付いていく。
その温度は、マイナス四〇度を下回る。
「むッ……人間のクセに生意気だな、オマエ」
「闇の力とは言え、大元が魔法である以上は干渉ができるはずだからな」
毒の魔法。
それは、闇の魔力によって毒性を先鋭化させた魔法である。
その先鋭化させた魔法、それは土属性の魔法。
大地というのは、その中に様々な成分を含んでいる。命を育む栄養素も、そして命を蝕む毒も。
ヒドラが操るのは、その毒性である。
普段ならば影響のない微量の毒。それを極限まで先鋭化させることで致死性の激毒にまで昇華させた強力無比な魔法。
しかし、それが魔法であるならば、同じ魔法で対抗できるのもまた事実。
水属性の魔法から派生した氷属性の魔法。
その強烈な冷気によって、毒魔法の持つ僅かな水分を凍結させたのだった。
「貴様も生命体である以上なら、これは喰らうんだろ?」
剣を振りかざして、超低温の斬撃を繰り出すセシリア。
一振りごとに大気が凍り付いていき、どんどん周囲の気温も低下していく。
斬撃が当たらずとも、その攻撃は着実にヒドラの体力と魔力を奪っていく。
「我慢比べかい? でも、それじゃあ勝ち目はないと思うけど?」
確実な消耗の中でもヒドラは余裕を崩さない。
確かに、吹き荒れる冷気はヒドラを追い詰めてはいる。しかしそれはセシリアにとっても同じ事。
魔力によって冷気を防がなければ自身の方が凍り付いてしまう。
「誰がそんな消極的な戦い方をすると思う?」
しかし、それでもセシリアの斬撃の速度は変わらない。むしろ、その威力をさらに上げていく。
自身の体力と魔力が尽きるよりも早く。ヒドラを氷の力で凍死させる。
「はぁああああああ!!!!!」
マイナス六〇度にも届きそうなほどの斬撃が高速でヒドラへと命中する。
氷の刃が触れる、その瞬間から傷口が凍り付いていき動きが鈍っていく。なので、その後の攻撃もすべてが命中していってしまう。
「こ、これは……!?」
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