騎士、揺れる。 part3

 「はぁ……探すのはいいけど、アテはあるんでしょうね」


 そう言って、クアージャの街中をキョロキョロしながら歩く真愛まな

 王城を出てから三〇分。どうも適当に歩いているような気がしてならなかった。


 「一応はな。エドワードが直近で目撃された箇所へと向かっている。まぁ、それで見つかれば苦労はないんだが……」


 抜き身の両刃剣を持って街を夜な夜なうろつくエドワード。

 あまりにも異質な行動だが、それ以上に何かをしているわけではないらしかった。

 ただ、目撃した人物の証言では、聞き取ることはできなかったが何かをずっと呟いているらしかった。

 そうしてあっけに取られている間に、路地裏なんかに入ってしまって姿が見えなくなってしまうそうだった。

 

 「だけど、一体何を考えてんのかしらね。ヘンなヤツ」


 「うむ……確かに、少し鼻につく奴ではあったが、いくら何でもこんな変な行動を起こす奴ではなかったんだがな」


 高慢な態度が、多少目立つ男ではあったが部隊長を勤め上げるだけあって有能な人物ではあった。

 腕っぷしもそれなりにあり、『騎士の誇り』を重んじることもあって職務にも非常にまじめだった。

 それだけに、今回の奇行がセシリアには余計に信じられなかった。


 「さてと……昨夜はこの辺りで目撃されているみたいだが」


 たどり着いたのは小さな路地裏。

 薄暗く、人通りのない閉じた通路。


 「都市開発の中で、閉じてしまった通路の一本だがすでに使われなくなって久しい。本当にこんなところで目撃されたのか……?」


 報告によれば、目撃したのは酩酊状態の男女二人組。

 正直、あまり信頼できるような情報とは言い難かった。

 しかし、ここでの目撃情報が違ったとしても、抜き身の剣を持つ男がうろついているのは事実。

 そんな危険な人物を放っておくわけにもいかない。

 かと言って、そうそう簡単に見つかれば苦労はしないのだが。


 「ねぇ、あの行き止まりのとこでうずくまっているヤツ、あれってそのエドワードなんじゃない?」


 「うん? あれは……」


 確かに、五〇〇メートルほど先で男がうずくまっていた。

 調子でも悪いのか、腹を押さえているようにも見える。

 そして、その足元には何かが転がっている。まるで、抜き身の両刃剣のような何かが。


 「よし、私が見てこよう。マナはここで待っていてくれ」


 腰から下げた剣の柄に手をかけながら、ゆっくりと男へと近づくセシリア。

 男は、それにも気が付かないようにずっと腹部を押さえてうずくまっている。

 近づくと、小刻みに体が震えているのが確認できたので死んではいないようだった。


 「おい、お前大丈夫か?」


 およそ一五メートルほどの距離を保って、セシリアは声をかける。

 転がっていたのは、確かに両刃剣。それも、騎士団で正式採用されている物だった。

 つまりは、この背中を向けてうずくまっている男こそが――


 「お前、エドワードだな?」


 「うぅ……うぁああああ!!!!!」


 いきなり男が飛び掛かってきた。

 目を血走らせ、髪を振り乱しながら襲ってきた男は確かにエドワードその人だった。

 だが、セシリアの目にはそれがエドワードだとすぐには理解できなかった。

 まるで野獣のような咆哮をあげながら襲ってくる目の前の男が、あの部隊長を務めていたエドワードだとは到底思えなかった。


 「ガァアアアアア!!」


 狭い通路。

 その壁を蹴りながら、縦横無尽に跳び回るエドワード。

 複雑な軌道を描きながら、転がっていた自身の剣を拾い上げると、逆手に持ってセシリアへと突き立てようとする。

 野獣の様相であるにも関わらず、その動きは洗練された騎士のそれだった。


 「ハカイ……ハカイ……ガァアアアアア!!」


 「くッ……! エドワード、やめろ!! 気を確かに持てッ!」


 真っ直ぐに突き立てられた剣の一撃を、殴りつけて軌道を逸らす。

 古ぼけた石造りの地面に、深々と剣が突き刺さる。石畳の隙間ではなく、石そのものに。

 凄まじい膂力。

 人間のそれを遥かに上回る、異質な膂力にセシリアは戦慄する。


 「いつまで乗ってんのよッ!!」


 その時、横から真愛まなの蹴りが炸裂してエドワードの体を思い切り吹き飛ばす。

 そのまま追撃をかけようとして、拳を力強く握りしめた時だった。


 「待ってくれ! 私に任せてくれないか?」


 「え? 別にいいけどさ、二人でやった方が早くない?」


 それでも、セシリアは真愛まなの前に立ち一人でエドワードと戦おうとする。


 「ちょっと……!」


 「悪いな。キミの力ではアイツを殺してしまうだろうからな。流石に、キミも殺したいほどではないだろう?」


 人智を超えた力を有するのはエドワードだけではない。

 真愛まなも、同様に人のそれを大きく超越した凄まじい力の持ち主。しかも、その力は底が一切見えないものである。

 そんな力をぶつければ、いくら様子のおかしいエドワードとはいえ、簡単に死んでしまうだろう。


 「ま、そりゃ……いくら何でも人殺しはカンベンだけどね……」


 そうまで言われてしまっては、真愛まなも握った拳を開く。

 確かにエドワードのことは嫌いだが、殺してしまいたいほどではない。

 かと言って、殺さない程度に力をセーブすることはまだ難しい。


 「任せろ。部下を救うのは騎士団長リーダーの仕事だからな」

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