ギャル、戦う。

 時間は、セシリアが目覚める二時間ほど前まで遡る――


 「キミも意外と言っては失礼だけど、義理堅いね」


 「別にそんなんじゃないけどね」


 未だ目を覚まさないセシリアを尻目に、真愛まなはミシェルの研究所(と言っても、外観はほぼ跡地のようになっているが)を後にする。

 セシリアの手術が終わって十日ほど。


 

 その間に、このデアマンテ王国は何度となく人形の襲撃を受けるようになってしまった。

 騎士団を束ねる者が倒れた故か。はたまた、元々そういった計画でタイミングが重なっただけなのか。

 真実は攻めてくる人形を操る者にしかわからないが、指導者たちは前者だと考えた。そして、その原因となった者――すなわち『勇者』へと責任を追及し始めたのだ。


 ――騎士団長リーダーセシリアが倒れたのは、勇者のせい


 ――勇者がいるから、この国が襲われる


 大体は陰口のように囁かれるものだったが、中には面と向かって言ってくる者もいた。

 騎士団員たちは、特にその傾向が強かった。

 真愛まなだけが言われるのならば、まだ我慢もできたが、時には治療を手掛けたミシェルをも悪しざまに罵る者まで出る始末。

 当然、そうなれば口よりも手が出る方が早い真愛まな。騎士団たちと殴り合いに発展してしまうのも当たり前と言えた。


 「申し訳ありません、マナ殿」


 暗い顔で、アルメリアが謝罪を口にする。

 現状のデアマンテ王国内で、数少ない真愛まなの味方をしてくれる人物。

 しかし、いくら王女と言っても限界はあった。

 『勇者は悪』という方向に流れていく国政を変えるのは中々難しかった。


 「あーしの方こそゴメンなさい。せっかく王女サマが庇ってくれてんのに、また問題起こして……」


 「いいえ、謝らないでください。もう少しわたくしに力があればいいのですが……」


 そう言って、俯くアルメリアを見て真愛まなはある人物の言葉を思い出していた。


 ――バケモノを利用して、最終的には全てを失くすんだ!!


 そう言って、凶行に及んだこの国の宰相ドル。

 彼の言葉が、耳鳴りのように響いて離れなかった。


 「あーしが絶対にこの国を守って見せますから……!」


 「マナ殿!? どちらへ……?」


 自信を『希望』と呼んでくれたアルメリアを後悔させない。

 その決意を胸に、真愛まなは王城を飛び出して幾度となく攻めてくる人形と戦いを始めたのだった。



 「はぁあああ!!!!」


 灼熱の閃光が、もう何体目になるだろうか、人形の頭部を吹き飛ばす。

 それでも、人形の動きは止まることなく手には漆黒の閃光が収束していく。


 「させるかぁあああ!!!」


 その漆黒が放たれるよりも早く、振り下ろされた拳が人形の腕を砕く。

 行き場を失くした闇の魔力が、逆に人形の体を傷つけていく。

 そのまま、追撃の拳が人形の腹部を鋭く貫き、解放された灼熱の火焔が人形の体内を灼き尽くしていった。


 「はぁ……はぁ……ッ次!!」


 人形は、一度に一体だけとは限らなかった。

 まとめて二、三体。時には五体以上の数で攻めてくることもあった。

 一か所にまとめてくるならラッキー。だいたいは別の場所に攻めてくるので、余計に面倒だった。


 まだ上手くコントロールできていない風の魔法を使って、一気に人形のいる場所へと飛翔する。


 「やっぱまだムリだってぇ!!」


 誰にともなく叫びながら、空を翔ける真愛まな

 コントロールできない、と言ってもそこは『勇者』。飛翔する速度は優に時速三〇〇キロを超えていた。

 時間にして約一〇秒ほど。空の旅を楽しむと、すぐに人形と交戦している騎士団たちが、ブレブレの視界に映る。


 「ここ……っでぇえ!!」


 落下の勢いを利用した垂直蹴りが、今まさに漆黒の閃光を放つ瞬間の人形、その頭部を直撃する。

 モウモウと上がる土煙の中から、髪や服についた埃を払って立ち上がる真愛まな

 ここ数日で剣呑な雰囲気となってしまった騎士団たちを睨みつけながらも、すぐに視線を人形へと移す。


 「どーせアンタたちじゃあ、人形に勝てないっしょ。ここはあーしがやるから帰ってていいよ」


 別に仲違いをする必要はないのだが、やはり恩人でもあるミシェルを貶されたことが気に入らない真愛まな

 背を向けたまま、ぶっきらぼうに告げるとゆっくりと立ち上がった人形へ向けて駆ける。

 直前に、「ならそうさせてもらいますよ、勇者サマ」という嫌味を込めた言葉を受けながら。


 「(ふん、好き勝手言ってればいいわ)」


 イラつく感情をぶつけるように、普段よりも乱暴に人形へと上段蹴りを放つ。

 加速のついた蹴りは、人形の頭部を大きく揺らしガクガクと千切れそうなほどである。


 「とっととブッ壊れなさいよッ!!」


 燃える拳が、追撃のラッシュとなって繰り出される。

 オレンジの軌跡を描いて、人形の体を幾度も叩いていく。

 魔法にしろ、物理にしろ、どちらかの障壁は有しているはずの人形。

 だが、真愛まなの拳はそんなものは関係なく人形の体を焼き、砕いていく。

 まさに瞬殺。

 騎士団たちが束でかかって、それでも苦戦は免れなかった人形を真愛まなはものの五分とかからぬ内に倒してしまった。


 「じゃ、あーしはもう行くから」


 そう言って、真愛まなはすぐさま別の場所へと飛んでいく。次の戦いへと向かうために――

 

 この十日間は、ずっとそんな調子だったのだ。

 ヘトヘトになるまで戦って、体力の限界が来ればミシェルの所でしばし休む。

 『希望』として、デアマンテ王国を守るために。

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