第53話 八女ハーピの下着

「ハーピ……外すよ」



「いいよ……ルド」



 俺はハーピの背中にそっと手をかざし、ハーピの巨大なものを押さえつけているそれに優しく触れる。



「あっ……」



 留め具を外すようにゆっくりと、ゆっくりと……




 ハーピの響力を制御していた奏法陣を解除した。



 その瞬間、ハーピの響力がダムから放流された水の如く流れ出す。




「ふぁ!! すごい……大きいっ!!」



「落ち着いてハーピ、練習どおり制御するんだ」



「わかったよルド! のうまく……しっちりや——」



 決してやましいことなんてしてない決してやましいことなんてしてない決してやましいことなんてしてない!



 それにしても、よく育ったなハーピ。豊満な胸——じゃなくて、膨大な響力だ。幼い頃もすごかったが更に増している。あと数年もすれば俺の響力を軽く超えてくる成長速度だな。



「ふぅ……ルド、どう?」



「うん。まだ少し溢れてるけど悪くないね。流石だよハーピ」



「えへへ〜ありがと!」



 うむ。ハーピは同じ空気を吸っているという事実だけで癒しをくれるな。心が穏やかになっていく。これもハーピの響力の性質なのだろうか。



 ハーピが本来の力を発揮できるようになったことで、妹達のノネットシンクロの幅も広がるだろう。ハーピだけで制御できるようになるまで時間はかかってしまったが、この先が楽しみだな。



「でも疲れた〜」



「響力が想定よりも多かったから大変だったね。少し寝る?」



「ううん! 眠くはないよ!!」



 ぐっ! そうか……ハーピが自分で制御できるようになったということは……眠くならない……ということは……俺膝枕の機会が……減る……



「だからね、お出かけしよ!!」



 グッバーイ俺膝枕!! ハロー妹デート!! そうか! ハーピの活動時間が増えるということは……一緒に何かをする機会が増えるってことだ!! なんて天才的な発想!!



 もちろんノネット俺膝枕を忘れたわけじゃない。だが、今は別々の道を歩むべきだ。俺たちの道は互いがそれぞれの道で成長した先で必ず交わっている。そうだろ? ノネット俺膝枕。



「そうだね。久しぶりにお出かけしようか」




 ————————————————




 街に繰り出した俺とハーピは、他愛もない会話をしながら並んで歩く。



「ハーピは何か欲しいものとかないの?」



「欲しいもの? 買ってくれるの!?」



 ふふっ。おじさん、お金持ちなんだ。



「あぁ。なんでも好きなものを言ってごらん」



「やった〜! ルドのプレゼント! ん〜、枕も欲しいし……お布団も欲しいし……う〜んう〜ん……」



 おぉ、ハーピは意外と物欲があるんだな。どれもこれも買ってあげるぞ。遠慮せずに言いたまえ!!



「あっ!! そうだ!!」



「決まったかい?」



「うん! 来て来て!!」



 ハーピはそう言うと、俺の腕を引いて走り出す。かわいい小走りだが、たゆんたゆん……げふんげふん、かわいい小走りでいいじゃないかこの煩悩め。



 それにしてもこの道……既視感があるような、ないような……まるで以前もこの道を妹と通ったことが……



 あ、この道、ロッカとチセと一緒に歩いた道だ。



 あれ……ということは目的地って……



「とうちゃ〜く!! ここだよルド!!」



 下着屋だ。な、なるほどな。



「ハーピ、お金をあげるから好きなのを買って来ていいよ」


「なんで? ルドも一緒に選んでくれるでしょ?」



 ブッシャバブフォラ!? ゲホッゲホッ!! 何を仰いますか、ハーピさん!!









 ——いいんですか?





「ほらっ!! 一緒にいこうよ!!」



 むぅ〜!!! これは仕方がないんだ!! 俺はダメだと言っても妹が!! 妹が行こうって!! 



 いや、待て。妹に擦りつけるのは良くない。ハーピは純粋な心で俺を誘ってくれているはずだ。それを俺の都合で勝手に解釈するなんて言語道断。



 その道に荊棘や毒沼が広がっていたとしても、行かせて頂きましょうマイロード。



 ハーピに手を引かれるがまま、初めて入った女性用の下着屋の店内は薔薇の香りがした。



 右を見ても下着、左を見ても下着。上は知らない天井、下は普通の床だ。



 流石にただ陳列された下着を見て変な妄想をしたりはしない。興奮することもない。何故ならば、下着は身につけられて初めて下着となるからだ。あ、あの下着ジーコに似合いそう……ぐへっへ。



 この中に——ハーピのハーピを守る役目を授かる者が……いる。確かにいる。



 俺は兄として、兄としてそれの実力を見定めなければならない。



「ルド〜! これなんてどう??」



 そう言ってハーピが手に取ったのは、ピンク色がベースで花の柄が入った下着だ。デカイ・デカスギルだ。



「色はハーピのイメージにピッタリだね」


「かわいいよね〜!! でも少し小さいかなぁ? 最近また大きくなったから大変だよ〜」



 えぇい!! お前はチイサスギルじゃないか!! 俺の目は誤魔化せないぞ!! ピッタリスギルをどこにやった!! 黙ってないでなんとか言え!!



「そ、そうなんだ。成長期だもんね」



「うん! あ、こっちは合いそう!! 可愛いし! どう??」



 おっふぉ……キング・デカスギィ……



 お前なら……任せ……られる……!!



「うん。それも可愛いね」


「そうでしょ?? ちょっとつけてみるね!!」



 そう言ってハーピは店員さんに声をかけ、試着室という名の花園へと旅立ってしまった。俺は花園から顕現されるのを待つだけだ。



 さてさて、下着屋に男一人の状況が出来上がってしまった。どうする、幸い今いるお客さんは俺がハーピの連れだということを知っているので変な目で見られないが、これから来る新しいお客さんには疑いの目を向けられかねない。


 誤解を生まないためにも一度店を出るべきか、ただ試着を終えたハーピがすぐに感想を言いたかったらどうしようか。


 ん〜まぁ俺がどう見られようと関係ないか。とりあえず妹達に似合いそうな下着でも——




「な、に、し、て、る、の? お兄様」




 ふぅ。タイミングがいいとはこのことだな。




 ジーコよ。



「や、やぁジーコ」



「ねぇ、ここって何のお店か知ってる?」



「えっと、下着屋さん?」



「そうね。女性物の下着のね?」



 あははは、ジーコ。笑顔なのに目が笑ってないよ? 



「ルド〜! どう? あ、ジーコだ〜!」



 シャーという音を立てて、試着室のカーテンが開かれた。そこに顕現したのは、キング・デカスギィだけを身に纏った麗しの女神、ハーピだ。



「ねぇ。お兄様」




「どうしたんだい、ジーコ」




「妹に……何させてるのよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」





 誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!


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