第52話 六女ロッカ、七女チセの暗躍?


「それでは……会議を始めますわ」



 薄暗い部屋にはテーブルが一つ。その中央には響具と呼ばれる響力で動作する道具が置かれている。それはランタンのような見た目をした照明だ。



 テーブルを取り囲む様に座る四人の影。



 一人は口の前で手を重ね合わせ、肘をついている。まるでどこぞの総司令のような雰囲気を放っていた。



 その男が、この会の進行役である女性の声に応答する。



「ふむ……始めよう」



「今回皆様に集まっていただいたのは、他でもありません。試作機が……完成しましたわ」



 進行役の女性と瓜二つの見た目をした女性が、今回の会議の主旨を話し出した。



「それは……本当かい?」



 男は驚いたといった声色で応える。それはそうだ。男が試作機の製造を依頼してまだ数日しか経過していない。まさかそんな短期間で試作機が上がってくるなんて誰が想像出来ただろうか。



 やはり天才だな……と再認識をした時——




「ねぇ、いい加減暗いから明かりつけてもいいわよね? 全然見えないわ」



 あぁっ!! 折角暗闇で暗躍する謎の暗黒集団ごっこしてたのに!! せっかくナレーションまで入れてたのに!



「ジーコ……うん。いいよ」



「何しょげてるのよ。それより見なさい!! ロッカとチセと共同で作ったイクスの鎧よ!!」



 そう言ってチセが持っている服を指差すジーコ。



「この形にするのに苦労しましたわ。兄様が響力を注いだ素材が思いのほか加工が難しくて……」



「本当ですわ! もう少しどうにかなりませんでしたの!?」



 それに関しては本当に申し訳ないです……イクスの鎧って考えたら、妥協したくなくて……



「まぁいいじゃない! こうして一応試作品は出来たわけだし! それでどう?」



 どう? と聞かれたらもう答えは一択しかない。



 最高だ——



「イクスによく似合うと思う、これなら歌舞奏対抗戦でもすごく映えるね。最高に可愛いし」



 最高だが、一つ気になる点はある。



「ですが……可愛すぎませんこと?」



「私も……気になっていましたわ」



 そう。可愛すぎるのだ。



「え? 似合うわよね!! 絶対に似合うわよ!!」



「いや、もちろん似合う。オーダー通りだし、何よりイクスが着たら超絶に似合う。ただ……」



「イクスは普段から落ち着いた雰囲気の服を好む印象ですわ」



「だ、だからこそじゃない! 普段とは違う一面が垣間見えるのがいいんじゃない!」



 確かに。それは美味しい。恥ずかしがっているのもいいし、堂々としていてもそれはそれでいい。なるほど。そこまで見ていたかジーコよ。



 だが、本人が好んで着てくれるかは別問題か? 俺達がイクスのためにと言えば断ることはないだろうが、果たして本心からこの鎧を身につけたいと感じてくれるだろうか。せっかくならば可愛い姿が見たい——じゃなくて強者の風格を見せつけて欲しいが、イクスが目指している歌舞伎への道に支障が出てはいけない。




「であれば……こういう案はどうですの?」



 突然ロッカが俺の真似をして手を重ね、肘をテーブルに乗せて言った。



「私達が……皆で着ればいいのですわ」



 な……に?



 そんな……そんなことってありえるのか? 確かに、妹達が皆で出る響部門集団歌法の衣装は決まっていない。いや決まってはいたのだが、どう実現しようか悩んでいたのだった。



 だが……この衣装ならばそれが可能かもしれない。



 曲中の曲調や妹達の虹色の響力に合わせて姿形を変える衣装という構想が——



「ふむ。異議なし」



「異議なし……ですわ」



「異議なし、ね」



「では、この鎧は皆んなで着るということで」



 方針が決まったな。実に有意義な会議だった。やはり足りない部分を補い合える関係というのはいい。前世に「三人で食えるもんじゃはうめぇ」とかそんな感じのことわざがあったと思うが、まさにそういうことだろう。




「それで、結局イクスの武部門個人歌法で身につける鎧はどうするのよ」





 ……




 ふぅ。ジーコ。





 気付いてしまった様だな。




 まさにシュレリンガーのなんとかだ。




「呼ぶしか……ないだろうな」



「まさか……呼んでしまうのですか?」



「それでは兄様の目論見も……意味を為さなくなるのでは?」



「仕方がないだろう? 私の考えが……甘すぎたのだ」



「ねぇ、それさっきからなんなの? ロッカとチセはなんで伝わってるの?」



 プレゼントというのは相手を思ってするものだが、それが相手にとって望んでいることかと言われると難しい。結局相手に喜んで欲しいという気持ちの押し付けになってしまう可能性も否定できない。



 ジーコは最高のデザインを考えてくれた。ロッカとチセも最高の鎧を仕上げてくれた。足りなかったのは、俺の配慮だ。



 イクスに任せておけと大見得を切ったくせに、このザマだ。



 だが、やはりイクスの意思を反映しないままに鎧を仕上げてしまうのは違うと気付いてしまった。そう思ってしまっては、その思考を切り離すことが出来なくなってしまったのだ。




「ジーコ、イクスを呼んできてくれ——」




 俺はもう妥協しない。最高のものを作り上げるために一から本人の意思を反映させた最高のものを作り上げる。



 そうだ。必要なのだ。




 採寸が——







 その夜、会議は遅くまで続いた。



 イクスを交え、ジーコやロッカ、チセが持っている服をああでもないこうでもないと意見を出し合い、イクスがより実力を発揮できる鎧のイメージが固まっていった。



 俺はその声を、廊下でドア越しに聞き続けていた。







 ってなんでぇぇぇぇぇぇぇ!?








 三時間前「お兄様? まさかイクスの着替えの場にいるわけじゃないわよね? 採寸? 怒るわよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る