第45話 王女の茶会

「以上で本日の歌舞奏対抗戦運営委員会は終了となります。既に校内予選は始まっておりますが、担当の方は引き続き事故のないように注意して運営を行なってください。それでは、解散」


 クラウスの挨拶が終わり、委員会が終了した。今日は俺の紹介と国内戦代表組の副団長、団長を紹介するのが主な目的だったようだ。その他は校内予選の進捗確認などよくある会議が進行されていった。


 なんというか、サラリーマンになった気分だ。いや前世はサウンドエンジニア兼作詞作曲家だったので、ガチな会議なんて経験したことは無いけれども。


「兄さん、お疲れ様です。この後はどうしますか?」


 生徒達が講堂を出ていく中、一人の超絶美少女女神天使が俺に至上の言葉を賜ってくれた。


「お疲れ様、キュウカ。この後はみんなと合流して訓練の仕上げをする予定だったよ」


「そうですか。であればご一緒に実習室まで行きませんか?」


 なんと……超絶美少女女神天使キュウカから同伴の許可が降りた……これが神々の遊びってやつか? くそ……どこまで俺をもてあそぼうというのだ。


「もちろん。一緒に行こ——」


「すみません、楽聖第三位のアルファ……いえ、ルド様でお間違い無いですか?」



 やったぁ〜天界行きのチケットゲットだぜと浮かれているのも束の間、他の女生徒が俺の名前を呼んだ。彼女は……ヒュトラ・アシュレイ。この国第一王女だ。


「そうですが……どうかなさいましたか?」


 正直苦手なんだよな……立場のある人間とか気を使わなきゃ行けない相手って。敬語も使わなきゃいけないし。まぁ世界的にみたら楽聖の方が地位が高そうにも見えるが、この国の中では流石に王族と対等というわけにはいかないし。


「そんなに畏まらないでください。今この場においては同じ学生という立場——」


「そういうことならよろしくねアシュレイさん」


「……はい、よろしくお願いします」


 ラッキー。面倒だと思ってたら相手から気を遣わないように言ってくれるなんて。キュウカ、あんまり睨まないでよ。ドキドキしちゃうだろ。


「それで、何か用? この後訓練の予定があって」


「そうなのですか? よろしければ少しお茶でもしながらお話を聞かせて頂きたいと思っていたのですが」


 うん。嫌じゃ。妹達の元へ行きたいのじゃ。


「そっか……それはざんね——」


「兄さん、訓練は私達だけでも進められますので、是非殿下の有り難いお誘いをお受けさせて頂いてはどうでしょう?」


 なっ!? キュウカ……どうして……


 と思っていたらキュウカが俺の側まで来て、顔を近づけてきた。まさか……いってらっしゃいのキ——


(この時期に団長に抜擢された王女様ですよ!? 何かあるかもしれません……兄さんに接近した理由もわかるかもしれませんし、ここは行くべきです)


 スではなくて耳打ちだよね知ってたよ。響力の音波でいいはずなのに耳打ちしてくれるあたり最高です。元気出ました。


「まぁ、よろしいのですか?」


「……そうだね。折角だから受けようかな」


「ありがとうございます。それではご案内しますね」



 ————————————————



「セドル、準備は出来ていますか?」


「はい。済んでおります」


「ルド様、こちらは私の執事のセドルです」


「お会いできて光栄です。楽聖様」


 学校の中庭に準備された茶会用のセット。こんな物まで持ち出して一体何の話があるんだ……


 セドルと呼ばれた白髪混じりの初老の男が一礼する。何十年の重みを感じる洗礼された礼だ。俺もそれなりの会釈で返答しておいた。


 セドルは礼を終えると、そのままアシュレイの側に行き近くの椅子を引いた。アシュレイも当然かのように椅子に腰掛ける。なるほど、これが王族か。


 俺は近くにある椅子を引いて座ろうとしたが、セドルがそれをさせてくれななかった。郷に入っては郷に従うというやつか。むず痒いが受け入れよう。


「ルド様、発表した論文は全て読ませて頂いてます。どれも興味を惹かれる素晴らしい論文ばかりですね」


「そうなんだ。ありがとう」


「最近流行っている言葉でいうと"ファン"というのが合いますかね? あ、この言葉もルド様が流行らせたと聞いております」


 歌法士や奏法士を熱狂的に信仰したり応援する人をファンと呼ぶようにしようと言ったら、それが何故か人伝に広まってしまった。楽聖の影響力……恐ろしい。


「流行らせたってわけじゃ無いよ。勝手に広まっただけ」


「それでもすごいです」


 う〜ん。普通の会話だ。別にこんな話をわざわざ初対面のときに茶会に誘ってやらなくてもいいと思うけど。


「ごめん。単刀直入に聞くけど、何か話があるんじゃないの?」


 こういうのは素直に聞いた方がスムーズに行くな。早く妹達の元へ行きたいし。


「……回りくどいのは私も本意ではありませんね。すみません、本日はルド様に聞いて頂きたいお話があってお茶会に誘いました」


「いいよ。聞かせて」


「ありがとうございます。その前に一つお聞きしたいのですが……」


 質問に質問で返すスタイルなのか、聞いてほしい話があると言われて話を聞いたら話を聞かせてくれと言われてしまった。腹痛が痛くてトイレでトイレを済ませるみたいだな。




「ルド様には……婚約者の方はいらっしゃいますか?」





 まさかこいつ……







 狩人か!?

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