歌舞奏対抗戦編
第44話 団長ヒュトラ・アシュレイ
「それでは歌舞奏対抗戦運営委員会の会議を始めます。進行は委員長である私が取り仕切ります」
響学校にある講堂には、各響年、各組の代表が集められていた。その壇上でマイクを右手に持ち話し始めたのはヒュトラ王国響学校高響四年、現薔薇組総帥のクラウス・バーホンだ。
響学校の最上位学年は高響五年だが、五年生は一年掛けて自分の進路を決めるため響学校の行事や集団での活動は四年生が響学校の代表をすることになっている。
「今年は優秀な響法士に恵まれているため、総合成績国内一位も夢ではありません。ですが、そのことに胡座をかいていてはその野望も弱者の戯言に過ぎなくなるでしょう。ですので、過去の委員会には無い特別な役職を彼に与えることにしました。楽聖第三位、ルド・シスハーレさん。前へ」
クラウスさんに呼ばれた俺は座席から立ち上がり壇上へと上がる。少し生徒達が騒ついてるな。
「静粛に。ルドさんには、【参謀】として今年の代表者達に助言をして貰うことになりました。ルドさん、一言お願いします」
クラウスさんからマイクを受け取る。言いたい。これ俺が開発したんだよ〜って言いたい。そして妹達に褒められたい。
俺が座っていた席の方を見ると、空席の隣に座っているキュウカの姿が見えた。キュウカは高響一年の代表、つまり妹達の代表としてこの運営委員会に参加していた。可愛い。
「あ、あぁ、ルドです。よろしく」
……
…………
「それだけ……ですか?」
え、まだ何か言わなきゃいけない? そうか……長話は好きではないが——
「え〜、歌舞奏対抗戦で勝って、君は何をする?」
唐突に前の席に座っている生徒に声をかける。
「え!? えっと……強さの証明? でしょうか」
「それは勝っていく過程で証明されるものじゃない? その先に何を望むかだよ。君は?」
「そうですね……賞賛を浴びることでしょうか? 将来まで誇れるものが欲しいです」
「誇りが欲しいか。なるほどね。でも今聞いてるのは、その誇りを手に入れて何をしたいの? 何を目指すの? ってことを聞いてるんだ。みんなにも言えることだけど、歌舞奏対抗戦は目標であっても目的じゃない。勝つこと自体が目的であることは果たして正しいのかな?」
そんなことを言われたって、この響学校にいる以上は歌舞奏対抗戦で名をあげることが最上とされているのに、急に何を口走っているんだと思うだろう。
「歌舞奏対抗戦は未来への通過点だ。歌舞奏対抗戦を勝てるだけの目的を、君が人生をかけて何を成すのかを考えて欲しい。もし自分の中に確かな物があって、それを叶えたいと思うなら、きっと今よりも強くなれる。それが強くなるための近道だよ」
なんかそれっぽいことを言ってみたが、こんな説教みたいな話は面白くないだろうな。
と思っていたが意外と刺さる人もいたらしく、話し終えてからは何故か拍手が湧き上がった。
まぁ一応参謀なのでそれっぽいことは言えたかな。何故参謀になったかと言えば……それはいいか。
そんなことよりも大事なことがある。
キュウカが拍手してくれてる!! 微笑みも教科書のような笑顔だ!! 話した甲斐があったな。それだけで俺の言霊が生まれた意味を持った。
「ありがとうございます、ルドさん。続いて副団長二名を紹介します。高響四年、現紫陽花組総帥、セスラ・オーディル。同じく現紫向日葵組総帥、ホルン・バーミリオン。前へ」
俺の挨拶が終わり、続いてクラウスに紹介されたのはセスラと呼ばれた制服が張り裂けそうなほど筋骨隆々な男子生徒と、誰かさんとは違って明るさが個性と言わんばかりの雰囲気を纏ったホルンと呼ばれた女生徒だ。
ホルンの家名はバーミリオンだが、クラリネットの妹とかではないらしい。一応本家の娘と分家の娘みたいな関係ではあるとのことだ。
「セスラだ」
「ホルン・バーミリオンだにゃ」
にゃ……と来たか。妹かどうか調べる必要があるな。クラリネットに聞けばわかるか。
「お二人は副団長として代表達の模範となることを期待しております。最後に団長ですが……今回、ヒュトラ王国の要望により編入生を団長とすることが決まりました」
へぇ。編入生がそのまま団長に大抜擢とはこれまた思い切ったことを。国の要望とはいえ生徒達からの不満は出てこないのか? まさか……それを言わせないための存在として俺を参謀にしたんじゃないんだろうな……
「お入りください」
クラウスの声を合図に、講堂のドアが開かれた。ドアの奥から入室して来たのはこの国で知らぬ人はいない超有名人だ。
透き通るような白いロングヘアーとエメラルドグリーンの瞳が浮世離れした存在であることを証明しているそれは、ひらりと長い高貴なスカートの裾を両手で持ち上げ、優雅に挨拶をする。
「初めまして皆様。ヒュトラ王国第一王女、ヒュトラ・アシュレイと申します。以後、お見知り置きを」
どうやら、第一王女が団長になったらしい。
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