第39話 妹合宿 三日目 課題曲
「よし、みんないけそう?」
「う、うん! 多分大丈夫……?」
「こりゃ難しいぜ? 歌うところがごちゃごちゃだ」
「でも……私たちにしか歌えませんわ」
昨日は具体的な目標を妹達に見せたが、その後は課題曲をみんなに教えた。俺が妹達のためだけに作った専用歌法陣だ。もちろん歌法陣にあう奏法陣、舞法陣も用意してある。
目標までの具体的な道筋。これが出来れば、俺が見せたお手本と同じことを実現することが可能だ。
俺の算段では、ノネットシンクロ率を高めるながらこの歌法陣を完璧に歌いこなし、かつ連携が必要な舞法陣を踊れば到達出来ると思うが……果たして歌舞奏対抗戦に間に合うだろうか? ギリギリのラインだな。
とにかく、考えて立ち止まっていても仕方がない。こういうことはまずやってみて、ダメならダメで方向転換すればいい。
「兄上が過去に世に送り出した歌法陣はこの五年間で訓練していましたがどれも難しいものばかりでした……ですが、やり切ってみせます」
「私は……楽しみ……です!」
「よ〜し! 思いっきり歌うぞ〜!」
「あんた達! 遅れんじゃないわよ!」
「いよいよ特訓の始まりですわ!」
「足を引っ張らないように……しなきゃ!」
妹達も思い思いの意気込みを持って取り組んでくれているようだ。新曲ってテンション上がるよね。
「それじゃ、いくよ?」
響力で生み出した弦楽器を一度鳴らし、最初の音程をみんなに伝える。この曲は歌法から始まる——
♪イ、サ、チ〔きっと〕
♪ジ、ロ、キ(きっと)
♪シ、ウ、ハ〔届く〕
♪イ、サ、チ(届け)
♪九〔この思いは〕
♪ジ、ロ、キ〔幾年も〕
♪シ、ウ、ハ(千年も)
♪イ、サ、チ〔空も〕
♪ジ、ロ、キ(海も)
♪九〔超えて〕
♪ウ〔あなたの元へ向かう〕
♪イ、ジ〔流星になる〕
♪九〔レッツ スターライト ハーモニー〕
妹達の響力が重なって発生した虹の響力が辺り一面を優しく包み込む。
——あぁ、やっぱり妹達の歌声は最高だ。
————————————————
アウトローの最後の音を響かせ、残響が鳴り止む前のベストなタイミングで弦を押さえる。
妹達の演奏。実に五年ぶりだ。
「ふぅ。楽しかったね。どうだった?」
妹達の様子を伺うと、皆どうやら納得がいっていないという表情を浮かべていた。
「盛り上がりの部分での迫力が今一足りないですね……」
「やっぱり少しだけズレてるのも気になるわ。基準となる人を決めないと」
「どの部分で誰の主張が強くなるかはっきりさせた方がいいかもね」
「組み合わせも……少し考えた方が……良さそうです」
「確かになぁ。あたしとジーコは高音強めだから同じにならない方がいいか?」
「それで言いますと私とチセは相性が良さそうですわ」
「そうですわね。ほぼ同音と言っても過言ではないですわね」
「ハーピももう少し頑張るねっ!」
「私……足引っ張ってないかな?」
歌い終わったそばから反省会が始まった。自分達でどこが足りていないのか、何が良かったのか、どうすれば良くなりそうかを理解しているだけでもやはり妹達は天才なのだと思わせられる。
普通歌いながら自分の声を客観視なんて出来ないし、ましてやそれが9人も同時に歌ってるんだ。全ての声をしっかり聞けている証拠だな。
とりあえず妹達は輪になって会話を始めてしまったので、今はそっとしておこう。俺の助言なんてみんなが行き詰まってしまったときに少しあげるだけでいいんだ。
「クラリネットはどう思った?」
とりあえず顎に手をあててブツブツと呟いているクラリネットに声をかけてみた。
「あそこの四小節はツートントンツーツートントンのリズムでその後はトントン……あっルド様。すみません集中していました」
「歌いたくなったか?」
「正直、誰かの歌でここまで心踊らされたのは歌武姫オーダー様以来です。あ、ルド様の奏法は別ですよ? 今もほら」
そう言って視線を下に向けたクラリネットの足元には、少しだけ色の違う砂達の姿があった。聖水を浴びたんだね。
「安心してください。水着を履いていますので問題ありません」
「そういうことじゃないと思うけど……今日は俺、控えめだったよな?」
「はい。今日に関しては彼女達の歌による影響が大きいですね。この五年で私も含めて切磋琢磨してきた技術が、見事に発揮された結果かと思います」
確かに。五年前よりもノネットシンクロの質は上がっているし、歌い終わりで反省会をすぐに出来るという点でも、習慣付けて実践してきたことが伺える。
妹達の成長を間近で見られるいい機会だ。この合宿を行って本当によかったな。
「気分がいいし、せっかくだから一曲弾いてあげるよ。歌ってみるか?」
「いいの……ですか?」
まぁここまでクラリネットにも世話になった。響力を調整すればクラリネットでも歌うことが出来るだろう。
「着替えた後ならな」
「また濡らすことになると思うのですが……」
「その場合は中止だ。自分の体くらい自分で制御してみせろよ」
「……はい! 今着替えてきます!」
クラリネットはダッシュでコテージに向かっていく。やはり天才と呼ばれても歌が好きなんだろうな。
さぁ、クラリネットが着替えているし妹達の邪魔も出来ない。少し時間が出来てしまったな。
せっかくだ。
今朝から感じている視線の正体でも探りに行くか。
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