第37話 妹合宿 初日
「いきますわよ〜!」
「いつでも来い!」
「ロッカ、見せてやりな!」
「どんなサーブでも受け止めてみせますわ!」
ロッカとサンキ、イクスとチセはビーチバレーを楽しんでいた。
「それっ!」
ヒュ、ドンッ!!
「甘いですわ!!」
ドスッ! ポヨーン。
「決める!!」
シュッ。ボイン、ドシューン!!!
「甘いよイクス!!」
ザッ!! ポヨン、バガーン!!
少し俺の知っているビーチバレーとは違うようだ。響力使い放題なのでボールが弾丸のような速度で飛び交っている。だが、そんな異次元バレーボールよりも目がいってしまう部分がある。どことは言わない。妹達は成長している。
「これなんてどう? 綺麗じゃない?」
「そうですね……兄様にピッタリ……です」
「上げるなんて言ってないわよ!!」
「おい見てよ!! 城できたぜ!!」
ジーコとシロは砂浜で貝殻を拾っていて、ウドは砂でお城を作っている。湖の砂浜に何故貝殻が? とも思ったがかわいいからなんでもいいか。ウドは大雑把だから砂のお城も子供が作ったようなクオリティだ。だが、味があってそれがいい。
「……zzz」
ハーピは砂浜で横になってスヤスヤと寝息を立てている。自分の両腕を枕にしているので……これ以上は考えてはいけない。本来であれば俺膝枕をしてあげたいところだが、今はそれが叶わない状況だった。
「兄さん、他所見しないでください」
「はい、すみません。全然見てないです。反省してます」
俺の目の前にはキュウカが腰に手を当てて立っている。俺はキュウカの足元で正座をして説教を受けさせて頂いているところだ。
「妹達にこんな……下着みたいなものを着せるなんてどうかしてます」
「でもかわいいから……」
「何か?」
「いえ、なんでもございません」
こうなるとキュウカには敵わない。だがそうしてでも目にしたい景色があったのだ。仕方ないだろ? そこに山があったんだから。決して登山をするわけではないが、山頂を見上げて想像するくらいは許してほしい。
「はぁ……まぁ反省しているようですし、みんなもなんだかんだ楽しんでいるみたいなので許します。ただ、今後は気を付けて下さい」
「はい、わかりました」
まぁ怒られて当然だろうな。妹に水着を着させてウヒャヒャしている兄なんて幻滅されてもおかしくないはずだろうし。許してもらえるだけでも有り難い。なにせ俺はこの光景を……独り占め——
「お、いたいた。第さ——」「きえぇぇぇええええええええい!!!」「って痛っ!? 砂が目に入った!!」
何故、お前がここにいる——ランブル。
こいつに妹達の素肌を見させてはいけない。妹達の素肌を見ていいのは将来の旦那か兄の俺だけだ。こんなどこの馬の骨ともわからない男が拝んでいいような物ではない。こいつはわかっていないようだな。
「ルド様、遅くなりました」
「あぁクラリネットか。二人で来たの?」
「不本意ながら……」
「ちょ、何してくれてんですか第三位!! とりあえず水! 水ください!!」
「少し待て、一旦眼球を取り出して洗うから」
「怖っ!! 無くなっちゃいますよ!!」
クラリネットには合宿を行うことは伝えていた。事務仕事を終えたら向かうと聞いていたが、まさかこの男が付いてくるとは……普通に考えれば俺の監視役だからそりゃ来るか。そこら辺の事情を言われるとクラリネットも無下には出来ないのだろう。
「まぁまぁ、男同士仲良く狩りにでもいこうじゃないか。今日の夜はお前が大好きなお肉だ」
「待って! 目見えてないから腕引っ張んないでくださいよ!! というか俺のこと狩る気じゃないですよね!?」
誰がお前の肉なんて食うか。やるとしても精々、意識を刈り取る程度だ。妹達をこの目に収めることは出来なくなってしまうが、それよりもこいつの対処をする方が優先される。何者にも侵されてはいけない領域だ。絶対に守らなければ——
「クラリネット、そういうことだからよろしく」
「はい。あ、あの……」
「どうしたの?」
なんだ? クラリネットが珍しくモジモジしている。トイレでも近いのかな?
「その……私にも、皆さんが着ているものをお貸し頂けないでしょうか?」
————————————————
日が暮れ始めた頃、ゴミ処理を終えた俺が湖へ戻ると妹達は砂浜でバーベキューの準備をしていた。
ゴミ処理と言ってもそこら辺に捨てるわけではなく、ちゃんと王都にあるランブルが響協会から借りている家のベッドに寝かせてきた。馬車で五時間の道のりでも、俺一人が響力を使って走れば往復一時間で済む。
ランブルが次に目を覚ました時、『知ってる天井だ。あれ……俺は何を……ウッ!! ママ……?』と思うことだろう。
とにかく平和は守られた。一歩間違えたらランブルの目は妹達の素肌を見たことにより焼かなければならなくなるところだったのだ。人一人の視覚が無事に済んだことを思えば、いい結果だったといえるだろう。
「あ、ルドだー! おーい!」
「お帰りなさい兄さん。あれ、ランブルさんは?」
「用事が出来たから帰るって」
「……そうですか」
賢いキュウカだ。何かを察したのだろうがそれ以上は何も言わなかった。
「ルド様……その……」
妹達に合流すると、一緒にバーベキューの準備をしていたクラリネットが声を掛けてきた。
「ん? どうしたクラリネット」
「どうでしょうか……?」
「どう? 何が?」
クラリネットは何を言っているんだ? 主語がないから何がどうなのかも答えようがないじゃないか。
「兄貴、そりゃないぜ……」
「クラリネット先生、私は魅力的だと思いますよ?」
あれ、ウドとロッカがクラリネットのフォローをしている。
「うぅ……やはり私には魅力が……」
何故だろう、俺が悪いみたいになっている。と思ったがそうか。水着か。
う〜ん……普通に胸もあるしくびれもあるし、女性としては魅力的なんじゃないかな? うん。男は好きそうだね。
「あ〜、似合ってるよ」
「本当……ですか?」
「うん。綺麗だと思う」
「そうですか……ありがとうございます」
そういえばクラリネットは結婚とかしないのだろうか? 言い寄ってくる男もいるはずだ。学校でも人気あるし。俺としては過去に色々あったとはいえ今まで妹達の世話もしてくれているし、このまま一緒にいてくれると有り難いが、流石に結婚した後も同じようにとは言えない。
まぁ何かあれば本人から言ってくるか。
「よかったね、先生」
「はい……安心しました」
ん……? 何に安心したんだ?
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