第35話 運命、過去? 小せぇなぁ。俺を殺したければ、妹でも連れてこい
人間が生きていた存在を消される。
果たしてそんなことが可能なのだろうか?
「私も薔薇組の班長は全員記憶しておりますが、ブルレさんという方は存じ上げません」
「イクスの言うとおり……です。私も……知りません」
班長をある程度、把握しているイクスとシロも知らないということであれば、本当に記憶から消されているのか。
「そういえばロッカは一度ブルレ達から俺を助けてくれたけど、ロッカは覚えてる? 五年前の合同訓練」
「兄様がまだお力を隠していた頃ですわね? 確かに五班の方と当時小響二年の方に囲まれて痛ぶられていたのは覚えていますわ。ですがそこにブルレさんという方はいなかったかと……確かリーンさんという方が筆頭になり事を起こしていたはずです」
関わりがありそうなロッカもダメ。だが、少しヒントもあった。
「なるほど。やっぱり存在が消えた上でみんなの記憶が捏造されているようだね」
「たしかに、記憶から消えるだけだったら、誰かはいたけど思い出せないってなるもんね」
サンキの言うとおりだ。人々の記憶から消えるということであれば、その人がそこにいたという事実は変わらないはず。ゆえに思い出せない誰かがいたという発言になるはずだ。
その程度であれば俺でも可能だ。響力で干渉して記憶を改変すれば、誰かの存在をその人の記憶から消し去ることも出来る。
だが、ブルレに関してはこの世界の歴史から存在を消されていた。合同訓練が終わって家に帰ってくるまでの間に、同年代の入学者の名簿や選考時の資料、試験の履歴や成績も確認してみたが、ブルレに関するものは一切見つけられなかった。
実家の方についてはタルトに調査を依頼しておいた。タルトは響協会王都支部に所属している女性だ。こういう調査は響協会に頼んだ方がスムーズに進む。
せめて身内だけでも覚えていてほしいと願うばかりだが、難しいだろうな。
「それでお兄様は、どうして私たちに隠そうとしたわけ?」
「それは……怖くなったからさ」
「怖く……?」
「そう。みんなが世界から消えてしまうかもしれない可能性があるなんて、俺には耐えられなかった」
「兄さん……」
ミュートの無響力の影響を受けすぎた結果、存在が消えるということであればほとんど問題はない。俺がミュートに遅れをとることはほぼほぼない。
一番危惧しているのはミュートや無響力を浴び続けた結果ではない場合だ。例えば……意思を持ったミュートなど、特殊形態や変異種が関わるとか。知覚した者の存在を消してしまうような奴だった場合、今もその存在が明らかになっていない可能性もある。
そんなのが俺のいない間に妹達を襲ったら? あるいはミュートの対処に駆り出された妹達の元に出現したら?
そう考えると足がすくんでしまう。
「兄上、私は消えません」
「ふん。そうよ! 私達が消されてたまるもんですか」
イクスとジーコは強い。
「そんなのを放っておいて、明日の夢を見られる気がしないしね」
「はい……人の歴史は……一人一人が主人公です」
サンキとシロは未来を見てる。
「兄貴も守ってやろうか? へへっ」
「そうですわね。いつまでも守られてばかりではありませんわ」
ウドとロッカは包み込んでくれる。
「まずは特訓ですわね! 五年も待たされたのですから覚悟してください!」
「アイドルする〜?」
チセとハーピは背中を押してくれる。
そしてキュウカは——
「兄さん、私たちもご一緒します。こんな残酷な運命から世界の人々を救うという使命は、兄さん一人では重そうですからね。私達にも少しくらいは持たせてください。それに、どんなことがあっても兄さんが助けてくれると信じています。仮に私達の中で存在を消されてしまうことになっても……兄さんは覚えていてくれるようですしね」
勇気をくれる。
俺の最高で最強で超絶な妹達だ。俺が逃げたとしても自分たちだけで立ち向かうだろう。優しいこの子達はこんな残酷な運命を放っておけるはずがない。
だから俺がこのクソッタレな運命をぶっ壊して、妹達が何も気にせずに暮らしていける世界を作るんだ。
それが妹のために出来る、数少ない兄の使命だろうが。
かつて、俺が師と仰ぐ最強の兄と界隈から呼ばれていた人は言った。
『運命、過去? 小せぇなぁ。俺を殺したければ、妹でも連れてこい』
今なら師が言っていた意図がわかる気がする。俺を止めたければ、妹を連れてこい。逆に妹が俺の背中を押すならば、俺は未来をも超えてみせる。そういうことだろ? 師よ。
「ありがとう。絶対にみんなを守るから、一緒に戦おう。この理不尽な運命と」
「もちろん……です!」
「ほんっとに世話が焼けるお兄様ね!! しょうがないから付き合ってあげるわよ……」
よし、俺の腹も決まった。となるとやることは一つだ。
「とはいえもう少しで歌舞奏対抗戦だし、謎の力に対応出来る力を身につけなきゃいけないんでしょ? 何からしたらいいんだろうね」
「サンキ、それについては突然だけど提案があるんだ」
「提案? そういうこと言ってまたどっかに消えたりするなよ?」
前科があるからな。ウドの言葉は耳が痛いを通り越して刺さりまくりだ。
「今回は大丈夫だよ。みんな、合宿に行こう」
「合宿ですか……?」
合宿……いや、
これは訓練だ。訓練なのだ。そう、訓練だからな。
「そう。唐突だけど、明日からとある場所で泊まり込みで訓練して、歌舞奏対抗戦までの仕上げをしようか」
もちろん、海だろ海。決して何も企んでいない。水着なんて用意してない。
いくぞ、
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