第32話 昼に妹の手作り弁当を食える奴は幸せ者だ。

「ということらしいんだよね」


「なるほどねぇ……で、お兄様はどうするわけ?」


 現在、屋上で妹達と昼食をとり終えたところだ。なんと昼食はキュウカの手作り弁当だ。自分達の家を購入してからは昼食は弁当を持参しているらしい。


 ということは、俺は毎日昼食にキュウカの手作り弁当を食べれるということになる。




 もしかして……死ぬのだろうか?




 おっと、思考の渦に飲まれる前にジーコの質問に答えなくては。これ以上考えるのはまずい気がする。


 ジーコがどうすると言っているのは、俺がマインを妹として扱うかどうかだろう。


 何故マインが俺の妹になりたいと言ったか。それは亡くなってしまった兄の姿を俺に重ねてたから、らしい。俺のように冗談が好きで、おちゃらけていて、ユーモアがあって、妹を大切にしてくれる兄だったと言っていた。妹思いということ以外は全然合っていない気がする。


 正直、願いを叶えてあげたいという気が無いわけではない。妹属性を持っているマインは俺の中で価値ある存在だ。そんなマインの扱いを適当にすることは本意では無い。


 ただ、それが果たしてマインのためになるのか。俺が本心を聞き出した手前、正直に言い辛いが、俺は俺としてマインの兄になることはできても、マインの本当の兄の代わりにはなれない。


 マインがもし、亡くなった兄のことをまだ引きずっていて、その代わりや拠り所を探しているのであれば、それを叶えてあげることは不可能だ。


「すぐに返事を決められるようなことじゃないと思ってるよ。マインは俺の数少ない友人で、何かあれば手助けをしたいと思えるくらいには良好な関係だと思ってる。だからこれが本当にマインが望んでいることなのか、マインのためになるのかをしっかり考えようと思ってるよ」


「流石、兄上です。普通であれば他人に妹になりたいと言われた場合、変人とみなして聞く耳を持たないでしょう。ですが兄上はマイン様の思いと向き合おうとしているのですね」


「大事な友人だからね。それに、初めて聞いたんだ。マインの思いを」


 マインは普段から自分の考えを押し付けたりしない。故にみんなから好かれている。マインは合わせるのが得意なので、一緒にいて嫌になるということが無いのだ。


「あたしは少し複雑だぜ? 兄貴がそのマインって人を妹にしたら、私たちと同じ立場になるってことじゃんか。そんなの急に言われても受け入れられないっつ〜か? ただでさえあたし達は9つ子だからさ。別の妹が増えたって気まずいだけだと思うけどな」


「もちろん、この考えを一人でも受け入れられない人がいたら、マインには別の方向で手助けをすることにするよ。なんか巻き込んでしまってるみたいでごめん」


「ウドは別に嫌だからって怒ってるわけじゃ無いよ? ただ、そのマインって人のことはロッカとチセしか会ったことがないからさ。わからないだけなんだよね」


 ウドやサンキが言うことは御尤ごもっともだ。急に言われてはい、そうですかと受け入れられる話ではないからな。


「そういえば兄さん、午後の合同訓練、高響一年から五年の合同じゃない? その時にマインさんに会わせてよ!」


「そうだな。まずはみんなにマインを紹介するよ」



 ————————————————



「注目! 本日の午後は高響生の合同訓練だ。主に歌舞奏対抗戦前の実技訓練となる。気を抜いて下手な怪我をして対抗戦を辞退することが無いように注意しろ」


『はい!!』


 修練場に集められた高響生薔薇組の生徒達が一斉に返事をする。それから各組の班長が他の生徒達に呼びかけた。


「はい! 四年一班はこちらへ!」


「二班はこっちだぜ!」


「三班はこっちへ」


 それぞれの班長が呼びかけ、班ごとに分かれていく。


「五班はこっちに来てくれ」


 懐かしいなこの流れ。合同訓練に参加するのも五年ぶりか。というか俺は何班なんだ? この後マインを連れて妹達に会いにいきたいが、落ち着くまでは普通に訓練に参加しよう。


 ということでとりあえず五班の方へ向かおうとしたが、あることに気づいた。五班の班長がブルレじゃなくなっている。あれ誰だっけ。確かブルレの取り巻きをやっていた内の一人で……リーンだったか。というかよくよく考えたら五年ぶりに戻ってきてからブルレの姿を見ていないな。


「第三位はこちらで一緒に見学らしいですぜ。ってどうしたんですかい?」


 五班の方へ向かおうとしていたところ、ランブルに声を掛けられた。どうやら俺は別枠になってしまったらしい。


「いや、何でも無い。俺がいた頃と班長が変わっていたらから気になっただけだ」


「あぁ〜怪我でもしたんすかね? 高響生となるとミュートとの戦闘も多くなりますからね。戦線離脱する奴がいてもおかしくないですよ」


 確かに。高響生ともなればミュート襲撃の際に、下響生と学校を守るために戦わなければならない。そうか。ブルレはやられてしまったか。いちいち癪に触ることをしてくる奴だったが、別に嫌いではなかった。虚勢を張っているのも面白かったし。


 それに、知り合いがミュートの被害に遭ったという話を聞くのは初めてかもしれない。何だかんだ、まずい状況は裏で片付けたりしていたからな。



「そうだな。それよりも、少ししたらマインを借りてもいいか?」


「私がどうかしたの?」


 一応担任であるランブルにマインを借りる許可を貰おうとしたところ、丁度マインが近くにいたようだ。


「あぁマイン。訓練が少し落ち着いたら付いてきてくれるか? 妹達に会わせたくて」


「妹さん達?? ロッカさんとチセさん?」


「いや、今回は他のみんなもいるよ」


「そうなんだ……うん。いいよ!」


「すまない、手間をかける。そういえば、五班は班長が変わったんだな。ブルレは今どうしてるんだ?」




 何気なく。何気なく聞いた一言。



 まさか、こんな言葉が返ってくるなど想像もしていなかった。







「ねぇルド君……ブルレって、誰のこと?」


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