第20話 妹達の密会

「確かめて来ましたわ……」


 響学校に通う生徒の学生寮。妹達は、学生寮の十人用の大部屋生活をしている。

 大部屋ということもあり、九人で生活するには十分な広さがある。元々は合宿などで使われる想定で、あまり使われていなかった部屋だ。


 そんな広い部屋であるにも関わらず、妹達は九台並んだベットのうちの中央に位置するベッドに集まっていた。


「それで、兄さんの様子は?」


 ロッカに問いかけるのはキュウカだ。


「やはり……何かがおかしいですわね。変によそよそしいといいましょうか……」


「私もご一緒させていただきましたが、よそよそしいというよりも緊張しているといった表現が正しそうです」


「緊張している? 兄貴が? だって普段の訓練とかでは普通なんだぜ?」


「ウドの言う通りです。しかし、どうやら私生活の状態の兄様はうまく喋れないといいますか……」


「あたしも普段の兄貴と話したけどよ、普通だったぜ?」


「でもそういう時の兄さんって、保護者みたいというか……」


 普段のルドと会話をしたウドは違和感を感じなかったが、サンキには思うところがあった。


「なんか心配されてる? みたいなさ。入学して三日目なのに学校生活はどうかって聞かれたし」


「そう言われると、あたしもそんな感じだったかな?」


「私も兄上と再会したときは、最初の方は少しおかしかった気がします。途中から普通の話し方に変わったのですが、なるほど……保護者ですか」


 イクスも同じような経験から思うところがあるようだった。


「とにかく、私たちも距離感を探ってるだけじゃダメだと思うの。明確な理由は掴めなかったけど、ヒントはあったわ」


 今回の話の発端は、ロッカからルドと出かけるという話を聞いたキュウカが確かめたいことがあると言ったのが始まりだ。それはルドから感じる違和感の正体を探るというもの。


「ヒントってなにさ?」


「それはもちろん、デート」


 キュウカの放った一言により数秒間だけ部屋の中が静寂に包まれた。


「で、で、で、デートだと!?」


「ま、まぁあたしは嫌じゃないけど……お兄様がそうしたいっていうならね」


「私も別にいいかな? 今度お昼奢ってもらう約束してたし」


「……兄様と……デート……」


「まぁこればっかりはパス出来ねぇか。あたしもいいぜ〜」


「私とチセはもう行って来ましたので様子を見させてもらいますわ」


「そうですわね。マインさんも一緒でしたがデートといえるでしょう」


「やったぁ〜! あたしは一緒にお昼寝デートしたいなぁ!」


「みんな、くれぐれも訓練の延長になるようなことはダメだよ! あと心配させるようなことも。あくまで素の状態の兄さんを誘ってあげて。兄さんからは誘ってこなさそうだし」


 ルドが聞いたら天まで昇って帰ってこないであろう会話内容が繰り広げられいた。


「キュウカは優しんだね〜。ルドのことばっか心配して〜」


「そんなんじゃなくて、助けてもらったお礼をしたいだけだって」


「そっか〜そうだねぇ〜! うんうん」


「もう!!」


 キュウカの頭を撫でるハーピ。見る人が見れば神々の戯れと歓喜してしまうだろう。


「そういえばこんな立派な薔薇どうしたのよ? すごい素敵じゃない」


 ふと部屋の花瓶に飾られた薔薇の束について尋ねるジーコ。部屋に戻って来た時から気になっていたのだ。


「それは兄様に頂いたのですわ」


「へぇ……悪くないセンスね」


「そういえば……その薔薇を頂くときに不思議なことがありましたわ」


「不思議なこと?」


 ロッカとチセは昼間に起きた出来事を妹達に話した。







「へぇ……薔薇の束を消したり戻したりね。イクス知ってる?」


「いえ……奏法の応用で剣を生み出すのは以前見せて頂きましたが」


「あぁ、あれね……結局あれも何かわかんないし。ホント、お兄様って謎だらけ」


「……薔薇の束を……消したり……出したり?」


 今まであまり言葉を発しなかったシロが、何かが気になるといった様子で問いかける。


「シロ、何か知ってるの?」


「最近そのような話を……聞いたような……確か——」


 そう言ってシロは自身の机の方へ行き、一冊の雑誌を持って戻って来た。


「これは……月間響力特集です。最新の歌法士や奏法士の……取材記事や、最新の響力技術についての……情報が載っています」


「へぇ。それがどうかしたの?」


「一ヶ月前の雑誌ですが……ありました」


 シロは持って来た雑誌をパラパラとめくり、とあるページを開いて他の妹達に見せた。


「【響力で精神的亜空間に物体を格納する技術、ついに発表】ですって? これって」


「恐らく……兄様が使った力だと思います……ですが、まだ発表されて……一ヶ月しか経っていません……」


「規格外さが増したな。誰が生み出した技術なんだ?」


「確か……楽聖第三位……アルファという方です……」


「アルファ……アルファ? どこかで見たことがあるような……あっ!!」


 シロが発した名前を聞いたキュウカが、突然立ち上がり自分の机へと向かう。


「これ見て!!」


 机から持ち出して来たのは、響協会と呼ばれる組織から発行された帳簿だ。帳簿には、両親が妹達の生活費として仕送りしたお金の記録が記されている。ただ、時折り両親の名前とは違う、とある人物の名前でお金が振り込まれている記録があった。


「これって……アルファ?」


「何この金額……!?」


「このお金が振り込まれて来たのは三年前から……振り込まれたお金には手をつけてないよ。ごめん黙ってて……余計なことは言わない方がいいと思って……」


 三年前はクラリネットの体罰が始まった時期だ。他の妹には、歌法士になるのに必要な情報以外は不要と思って話さなかった。


「たまたまって可能性もあるけどそれにしては……」


 帳簿に記帳された楽聖第三位と同じ名前。

 楽聖第三位の最新響力技術。

 それを扱える規格外の兄。

 あまりにも関連性がありそうな内容だった。


「余談ですが……」


 シロの口から告げられたのは、もはや確信をつくような内容だった。


「アルファと呼ばれる方が……今の楽聖第三位についたのは……三年と少し前です……当時は彗星の如く現れた天才と……話題になりました……それと楽聖第三位は……その容姿を誰も知らないと……いわれています」



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