第19話 い、いも、いもも、妹デート ロッカ、チセ編
服良し。
髪型良し。
靴良し。
口臭良し。
薔薇良し。
俺のテンションは噴火寸前の火山の如く、爆発の時を待っている状態だ。
今いるのは王都の中心部にある噴水広場。ここが待ち合わせ場所になっている。
妹との——だっ!!
「ねぇねぇルド君。ロッカさんとお出かけするだけだよね? なんでそんな格好なの?」
「マイン、俺少し匂わないか? 流石に朝から六回はシャワーを浴びたから大丈夫だと思うのだが」
「ダメだ……聞いちゃいないや」
妹とのデートに何故他人が? とも思ったが、ロッカがマインも是非にと言ったので一緒に行くことになった。というか二人きりは死ぬ。
やばい、妹とのデートってどうすればいいんだ……? 手とか繋いでいいのか? いいよな、家族だし。同じ食べ物を二人で分け合ったりするのか? いいよな、家族だし。しまいには……き、き、き、キスとかしちゃうのか!? いいよな、家族だし。
「ルド君、絶対変なこと考えてる……顔が気持ち悪いよ」
「なっ!? どうしよう! 気持ち悪がられたら嫁にいけない!!」
「ルド君は嫁にいかないでしょ! どんだけ緊張してるんだよ!」
そんなアホみたいな会話をしていると、天使の声が耳を包み込んだ。
「全く、騒がしいですわね」
「本当ですわね。折角のお出かけ日和ですのに」
きたっ!! 火山噴火!! テンション爆上げ!!
聞こえてきたのはロッカとチセの声。チセ!? やったぜ! 妹が二倍だ!! 幸せは二乗だ! 緊張は十倍だ。
「よ、よ、よ、よぉ〜! ロッカに、チセじゃああああないかあぁ!!」
「ロッカに本日の予定を訊ねたら、兄様とお出かけなさることを聞きまして。よろしければ私もご一緒してよろしいですか?」
「も、も、ももちろんだよ〜!! あは、あははははぁぁあ!!」
ふぅ、今日は落ち着いて話が出来ている。大丈夫、大丈夫だ俺。
(ロッカの言った通りですわね……様子がおかしいようです)
(そうでしょう? 気になりますわね……)
ロッカとチセがヒソヒソと会話をしているのが聞こえる。まずい……匂うか!?
「そういえば兄様、その手荷物はなんですの?」
ロッカが指さしたのは俺が持っているのは薔薇の花束だ。もちろん二束。
「あ、あ、あ、あ〜これは……二人にプレゼントだ……」
まずい、徐々に声が小さくなってしまった。とりあえず渡しちゃえ!!
「あれ、さっきは一つしか持ってなかったような……ルド君、あんな大きな花束どこに隠して……」
マインが余計なことを言っているが、響力で亜空間を作って大事な物をしまっておくなんて常識だろ。妹達の誕生日に毎回プレゼントできるようにあと九百束はしまってある。みんなには百歳まで長生きていてほしい。
「わぁ! 素敵な薔薇の花束ですわ! ありがとうございます。兄様」
「急にお邪魔したのに私の分まで! 嬉しいですわ。兄様」
薔薇の花束を抱く二人。絵になる……どころじゃない。映像になる。いや、現実になる……神話になるな。とにかく最高に似合ってるよ。
「ですが……これから出歩くのには少し大きすぎるようですね」
「そうですわね。一度持ち帰りましょうか?」
「そ、そ、そそれなら、俺が預かっておいて、さ、さ、最後にまた渡すよ」
「ですが、それだと兄様の手荷物に——」
俺はロッカとチセから花束を受け取り、亜空間にしまう。
「なっ!?」
「えっ!?」
「わっ!?」
……あれ、思ってた反応と違う。
「ル、ルド君? 花束……どこにいっちゃったの?」
「兄様……一体何を?」
「消してしまったのですか?」
え、あれ……響力で亜空間を生み出す技術は、この前響学会から発表されなかったっけ……響力が演出する非日常空間の理論を応用して作られた、響力により生み出した精神的亜空間に物体を変換して格納する技術。いや、したはずだけど……
「ま、ま、マジックさ! 無くなってないから、あ、あ、あ、安心して!」
こういうときは誤魔化し一択。
「な、なんですの! 驚かさないでください!」
「兄様ったらお茶目ですわね!」
「え……あ……そうなんだ?」
ロッカとチセは俺が響力を使って何かをしたことは察してくれたようだ。マインがいるから話を合わせて誤魔化してくれた。
「それでは行きますわよ!」
そこからは他愛もない話をしながら王都の街を歩く。目的地は知らない。俺の目的地はロッカだ。ロッカの行きたいところに行く。
「そういえばロッカさんとチセさんは本当に似てるんだね! 今もどっちがどっちかわからなくなっちゃうよ」
「昔から私たちだけ特別に似ていましたわ」
「父上と母上にも間違えられたことがありますもの」
「それだけ似てたら間違えるよね〜! ルド君も間違えて怒られたことありそう!」
「は? 俺が二人を間違えたことがあるわけないだろ」
何を突然言い出すかと思えば。
「えっと……冗談だよね? こんなに似てるんだよ?」
「いえ……本当ですわ……」
「兄様だけには……間違えられたことがありませんわ」
冗談なわけがないだろ? ロッカとチセを間違えるなんて死よりも重い罪だ。もし二人を間違えたら自ら首を刎ねる。
すると、マインが急に俺の目を自分の手で覆った。
「おい、なんのつもりだ」
数秒後、マインは目隠しを外すと俺の目の前にはロッカとチセが並んで立っていた。おぉ、神々よ。
「はい! どっちがどっ——「俺から見て左がロッカで右がチセだ」——ちで……合ってる?」
「「合ってますわ」」
「本当に!? なんでわかるの?」
なんでと言われても、わかるからわかるのだが……身長も1cmは違うし、目の大きさもロッカの方がミリ単位で小さい。呼吸の深さも鼓動の速さも若干異なるし、響力も違う。逆に間違えるような同じところを探す方が難しいくらいだ。
「まぁ……あ、あ、あ、あ、あ、あ……ぁぃだ!!」
「まぁ、告白ですわね」
「兄様ったら、堂々といやらしいですわ」
ぐはっ!! 言ってしまった!! 聞こえたか!? 聞こえたよな!! 満更でもなさそう!! やったぁ〜!
「あら、もう着いてしまいましたわ」
ロッカが建物の前で立ち止まった。どうやら目的の場所に辿り着いたようだ。ここは……下着屋だ。おませさんだ。お金だそうか?
「兄様はこちらで少しお待ちいただいてもよろしくて?」
「わ、わ、わ、わかった」
「それでは参りましょう。チセ、マインさん」
ん?
「ちょっと待てぇぇぇぇぇい!!」
「? どうしましたの? 兄様」
何故だ!? 何故……
「マインが一緒はおかしい!!」
「そ、そ、そ、そうだよ!! 僕、男だし!!」
「あら?……あ、ですから先日は男子生徒の制服を……いえ、失礼しましたわ。私ったらドジですわね」
「訳ありなんですわね……私たちだけで行きましょう、ロッカ」
そう言って二人は下着屋に入っていった。俺とマインを残して。
あれ、なんか気まずいぞ。
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