第14話 八女ハーピ

 ロッカに連れられて、一班が集まっている場所に辿り着く。


「兄上……心配しました」


「もう、何でやられっぱなしなのよ! やり返しなさいよね……」


「それは難しいんじゃないかな? ほら、兄さんは隠さなきゃいけないし」


「でも……すごい歌法でした……!」


「あたしに言ってくれりゃやられる前にやってやったのによ〜」


「ロッカ、大丈夫ですか? ひどいこと言われてましたけど」


「大丈夫ですよチセ。あの程度では怯みません」


「あ、ルドだぁ! おはよ〜う」


「はぁ……全く兄さんったら……」


 出迎えてくれたのは愛しの超絶可愛い最強妹達だ。


「ごめん、訓練の邪魔しちゃって」


「仕方ないですよ。兄さんもこちらでご一緒しますか?」


 キュウカが誘ってくれたが、そもそも俺が一班に混ざっていいのだろうか? と思ったが、担当している先生を見て納得した。


「もちろん、ルド様なら大歓迎です」


 一班を担当しているのはクラリネットだ。流石は天才(笑)歌法士と呼ばれていただけあるな。


 ただ、妹達と先生がいいと言ったからってそうはいかないと思うけど。


「先生、勝手に決めてもらっては困ります」


 そういいながら俺たちの輪に入ってきたのは、中響生薔薇組一班の班長であるクラウスさんだ。


「ルドさんを取り巻く環境については私も気にしていましたが、班のことは班長に一任されています。勝手に他の班の方を入れられては統率が取れません」


「クラウスさん。貴方が仰ることはごもっともです。ですが響学校の組織規定の例外として【師弟関係を結んでいる者同士は組織規定を無視し同一組織で研鑽を行うことを推奨する】とあります」


「なるほど。ということはルドさんもクラリネット先生のお弟子さんということなのですね?」


「いえ、逆です」


 おい。


「え……ルドさんが師匠……なのですか?」


「そのとおりです」


「な、なに冗談いってるんですかく、クラリネット先生。あはは、先生ったらお茶目ですね」


 俺はそっとクラリネットに近づき耳打ちする。


(おい、話を合わせろ)


(ですが……嘘はいけません)


(嘘じゃない。というか俺は師匠になると言ってないぞ。お前こそ嘘をつくな)


(……バレましたか。わかりました)


「すみません冗談です。クラウスさんの言うとおり、ルドさんも私の弟子……ブワッハァ!! 弟子に……なります」


 クラリネットのプライドが傷つけられる音がした。自分より優秀な俺を弟子にしていると口にするのが辛かったのだろう。


「……わかりました。そういうことならルドさん、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。クラウスさん」


「はい。ですが……ルドさんは響力を持たないと聞きます。学習面では優秀な成績を収めているようですので、クラリネット先生に買われていると思うのですが」


「あ、訓練のことなら気にしないでください。私は五班でも個人的に訓練していましたので」


「なるほど……であればいいのですが」


 そう言って俺は一班のみんなから少し離れたところに行き、あぐらをかく。


 訓練といっても俺にできることは限られている。大っぴらに響力を使えないからな。ということで、自分の響力を周囲に一切漏らさない訓練でもしよう。


「のうまく しっちりや じびきゃなん さらば たたぎゃたなん あん びらじ びらじ まかしゃ——」


「ルド〜 何してるの〜?」


 俺がいなくなったことで、クラウスを中心に一班のみんなが訓練を始めたとき、ハーピが声をかけてきた。


「やぁ、ハーピじゃないか。訓練はいいのかい?」


「う〜ん。私は苦手〜」


 一班が行う訓練は、歌法を使った戦闘訓練か。しかも近距離戦。なるほど、ハーピは苦手そうだ。


「それじゃここで少し寝るか?」


「いいの〜? やったぁ〜!」


 パンと手を叩いて異世界の教科書のような笑顔を見せてくれたハーピは、そのまま俺の膝を枕にして横になる。



 もう一度言おう。にして! 横になった。これが俗に言う俺膝枕か。



 ヒヤッッホウ!!



「はぴ、はぴぴ、ハーピさんや、な、な、な、なぜ膝に?」


「え〜気持ちよさそうだったから〜! それよりもルド〜さっきの聞かせて〜?」


 下をむけば超絶可愛い最強エンジェル女神天使ハーピがそうおねだりをしてきた。いかん、この訓練は雑念があっては成功しない。いや、妹を思う気持ちは雑念ではない! だが心を無にしなければいけない。いや、この気持ちを無にすることなんて出来ない!! まぁいい。妹がご所望とあらば叶えるのが兄の役目。


「いいよ」


「やった〜!」


 俺は息を整えてもう一度訓練を開始する。


「のうまく しっちりや ぢびきゃなん」


「のうまく……しっちゃりや……じびゃきんなん……」


「さらば たたぎゃたなん」


「さばら……たたなんたん!」


 何だこのかわいい生き物。本来の大金剛輪陀羅尼だいこんごうりんだらには読経などの言い間違いをゆるそうというものだが、もはやハーピの方が正しいのではないだろうか。間違っていたのは俺の方だ。


「難しいんだね……どこの言葉? 聞いことな〜い」


「遠い遠い異国の言葉だよ。そうだ、ハーピにはピッタリだから一緒に練習してみようか」


「いいの〜?」


「うん。丁度ハーピには響力の制御を教えてあげようと思っていたし」


 この俺がアレンジして生み出した歌法陣:大金剛陀羅尼は響力を用いて響力を制する効果がある。リバウンドを制するものは試合を制するようなものだ。


 サンスクリットと呼ばれていた言語でこの世界では全く馴染みは無いが、ハーピも天才なので問題ないだろう。


「よし! それじゃ二人でれんしゅ——」


「ちょっと! 二人だけで何イチャイチャしてるのよ!!」


 ハーピと楽しくお話をしていると、超絶可愛い天使愛女神のジーコが声をかけてきた。


「何って……訓練?」


「そだよ〜」


「だったらなんで……膝枕なんてしてるのよ!!」


 あぁ、ジーコもして欲しかったのか。俺はおもむろにハーピが枕にしているのとは逆の膝を叩いた。


「わ、わたしもしたいって意味じゃないわよ!! バカ!!」


 それだけ言ってジーコは訓練に戻っていってしまった。



 ちくしょう……もう一歩で夢のデュオ俺膝枕が出来たのに……



 俺は諦めない。



 目指せノテット俺膝枕。



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