妹達との人生 初級編
第13話 Q.「兄が兄なら妹も妹ですか」A.「コロス」
「注目! 今日は中響生と小響生の合同訓練だ。小響生は先輩達をよく参考にするように。中響生は小響生のお手本となるようにすること。わかったな?」
『はい!!』
修練場に集められた小響生の薔薇組と、中響生の薔薇組の生徒達が一斉に返事をする。それから中響生の代表達が他の生徒に呼びかけ始めた。
「はい! 薔薇組一班はこっちに集まって!」
「二班はこっちな!」
「三班はこちらへ」
それぞれの班長が呼びかけ、班ごとに分かれていく。
「五班はここだ」
俺は五班なので、五班の人達が集まる場所へ向かった。五班の班長であるブルレは小響生の生徒達と話しているようだった。
「見ない顔がいるな。新入生か?」
「はい! 小響生薔薇組三年に入学しました!」
「僕は四年です!!」
「そうか。同年代に天才達がいると苦労するかもしれないが、腐らずにな」
「はい!」「がんばります!」
素直なようでよろしい。妹達と同年代とは思えないくらい幼く見えるが。
「そういえば天才達はお前の妹なんだってな、ルド」
突然ブルレに話を振られる。
「そうなのですか!」
「シスハーレさん達はすごいです! そのお兄さんも……」
誰がお兄さんだ。ケチョンケチョンにするぞ。
「生憎だが、こいつは響力を持たない無能だよ。お前達はこうならないように励めよ。あ、勉強だけは出来るんだったな」
他の五班の奴らがブルレのイジリを聞いて笑い出す。そんなに面白く無いぞ? 小響生達も引いてるし。
「それにしてもお前の妹がまさか、一班の超エリートで天才だとはなぁ。ほんと、妹に全部持っていかれちまったんだな」
そう言ってブルレは一班が集まる方を見る。
小響生薔薇組四年一班。妹達に与えられたこの響学校での地位だ。正直零班とか特別なのを作ってもいいと思う。
それとブルレ。「妹達に全部持っていかれた」は俺にとって本望だ。何でも持っていって欲しい。
「さて、こんな奴は放っておいて訓練を始め——」
「すみません、ここは五班であっていますか?」
ブルレが訓練を開始しようとすると、何者かが五班を訪ねてきた。
「なんだお前達は」
「失礼。僕たちは先日この響学校に入学しまして、小響生薔薇組五年二班に配属しています」
「二班の奴らがこんなところに何の用だ?」
二班といえば、超は付かずともそれなりにエリートで将来有望な人材が集まる所だといわれている。
「ここに……シスハーレさん達のお兄さんがいると伺ったもので」
「……へぇ。いるぜ」
その発言で何となく察しはついた。ブルレも悪い顔してるなぁ。
「それはよかった。出来れば天才の9つ子のお兄さんが、どれほどの腕前なのか、ご指導とご
次お兄さんって言ったらケチョンケチョンにしちゃうぞ。
「ほぉ! そうかそうか! おいルド、後輩の相手をしてやったらどうだ?」
取り巻き達も盛り上げに加わり野次が飛ぶ。はぁ、これはいつもの流れだな。俺の返事を待たずに、中響生五班の奴らが先導となり、俺とお子ちゃまを囲い込むように円を作った。
「すみませんね、お兄さん。お時間をとらせてしまって」
「次お兄さんって言ったら本当に怒るよ?」
「ははっ、怒って何をするというのですか? 響力も持たない……出来損ないのくせに!」
やはり中響生の誰かにそそのかされたな。別にいいけど。
そのまま二班のお子ちゃまは歌法を唱え始める。へっったぁぁぁぁ。エリートっていわれても、こんなもんだよなぁ。妹達が天才すぎるのだ。
「くらえ!!」
お子ちゃまは、歌法により高めた響力を風に変え、俺の足元から頭上に向けて打ち上げるように放った。
もちろん俺はレジスト——なんてしない。普通に打ち上げられて、普通に自由落下して、普通に地面にぶつかった。
あまり痛くは無い。痛みには慣れているし、この程度でダメージを受けるほどヤワな鍛え方はしていない。
『見ろよ! 為す術なくやられてやがる!』
『まるで打ち上げられた魚だな!』
『さすがは二班の子だ! 速さと正確さが段違いだな! あれは痛いぜぇ?』
とここまでがいつもの流れだ。無能というだけで標的にされ、少しおもちゃにされたらあとは飽きてどこかにいく。それまで適当に構ってやればいいだけ。
「はぁ。本当に無能なのですね。実は、なんて期待も少しはありましたが、がっかりですよ」
勝手に期待してくれてサンキュー。お前らに見せびらかしても何の得にもならねぇよ。
終わったならさっさと訓練でも始めてくれ。俺も有意義な時間にしたいんだ。
と思っていたが、今回は別のルートを辿ってしまった。
「あなた達は……何をしているのですか?」
突然現れた声の主は、ロッカ。
正義感の強い子だ。こういったことは見過ごせないのだろう。
「お兄様!」
と思ったら周囲の取り巻き達を掻き分けて俺の元に走ってきてくれた。嬉しい。可愛い。天使。ロッカ。
「へぇ……本当に兄と妹なのですね。才能が違いすぎるので戯言かと思っていましたよ」
「あなたがやりましたのね?」
「僕が一方的に危害を加えたように言われるのは心外ですね! 僕はただ、あなた達のような天才のお兄さんに教示頂きたいと思っただけですよ。まさかこんなに弱いだなんて……想定外でした」
本当にこういうことする奴らは口が回る回る。今のでラップでも作ったら相手を不快にするいい歌法陣が出来るんじゃないか? それと、お兄さんヤメロ。
「ふざけたこと仰いますのね。お兄様が本気なら……」
「本気? 本気なら何だってんだ?」
「……」
揚げ足をとってきたのはブルレだ。ロッカが口を噤んだのを見て畳み掛ける。
「本気じゃ無いなら見せてもらいたいなぁ! ルドの本気ってやつをよ!」
周囲の奴らもガハハハハとテンプレート顔負けの笑い方で煽ってくる。
「肉親とはいえ……そんな無能を庇うなんて……貴方達は皆同じ考えなのでしょうか?」
そういえば他のみんなはどうして——と思って一班の方を見たが、恐ろしい形相でこちらを睨んでいる。特にチセが。どうやらこの場はロッカに任せているらしい。
「……あなたに理解して頂かなくても結構です」
ロッカの手に力が入る。言えることが少ないために反論できないのだ。俺のややこしい事情のために無理をさせてしまっている。よしそろそろ謝って終わりにしよ——
「兄が兄なら妹も妹ですか。天才というのも果たして本当なのか疑わしいですね。顔がいいだけで裏口入学したんじゃないですか? あぁ、クラリネット先生の小間使いでし——」
〔
はい、ライン超えました。
「……え?」
突然、ばたりとその場に倒れ込んだ二班のガキンチョ。それを見たブルレが間抜けな声を上げていた。
『お、お、おい、何が起きたってんだよ!?』
『あの天才の子がやったんじゃ?』
『いやでもルドの奴が何かを言ったような……』
まずったな……いや、後悔はしていない。妹を侮辱している相手を生かしておくなんて論外だ。殺しては無いけど。ただの気絶だ。思いっきり恐怖を植えつけたけど。
「兄様! 行きますよ!!」
ロッカが俺の手を取って走り出した。俺は手を引かれるままに付いていく。
向かっているのは一班の方だ。俺はエリートじゃないがいいのだろうか。まぁなんでもいいか。だって今ものすごく——
ビバ青春って感じなんだもんよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!
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