第4話 妹達の歌
妹達が生まれて三年の月日が流れた。
「みんな、準備はいい?」
「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」
返事をくれるのは九人の妹達。みんなお揃いの白いワンピースを着ている。元気な返事を聞いた俺は木製の弦楽器で伴奏を始める。
二小節の前奏の後、妹達が一斉に歌い出す。
♪〔おーやーまーにたいようさん、ひょっこりかおだして〕
流石は九つ子。何度聞いても息ぴったりで元気な声だ。
♪〔あーさーをむかえたらー、こんばんわーにさようなら〕
歌い出してから少しすると、妹達の体からそれぞれ光が溢れ出てきた。
イクスは青い光。
ジーコは赤い光。
サンキは黄色い光。
シロは藍色の光。
ウドは橙色の光。
ロッカは黄緑の光。
チセは緑色の光。
ハーピは桃色の光。
キュウカは紫色の光。
これは響力の色だ。響力の色は個性の色。系統といってもいい。
9つ子の妹達がそれぞれ全く違う系統の響力を持っているとは驚きだった。
さらに、妹達の響力が混ざり合って虹のような光となって空間に澄み渡っている。
完璧なユニゾン状態。なかなか見れるものではないだろう。
ちなみに俺は響力を発していない。妹達の邪魔になりたくないからな。ついでに俺が響力を扱えることは誰も知らない。
妹達との優しいひとときは一瞬にして過ぎ去る。歌を歌い終え、後奏の終わりを待つ妹達はどこか誇らしげな表情をしている。
そして俺の伴奏が終わると、父さんが手拍子をしながら部屋に入ってきた。
「いやぁ、今日もいい歌を聞かせてもらったよ。この歳でそんなに響力があるなら将来有望だな! ルドも、響力はないがいい伴奏だった」
「やった! 兄上、誰が一番上手でしたか?」
「絶対わたし! イクスは声がおっきすぎるもん!」
「む、そんなことはない! ジーコが小さすぎるんだ!」
イクスとジーコが言い合いを始めた。可愛い。
「どっちもすごく上手だったよ。みんなも上手だった。とても心に響いたよ」
褒められて嬉しかったのか、妹達は手を取り合ったりして喜んでいる。
「ルド、歌の練習終わりですまんが、少し来てくれるか? 話がある」
「わかりました、父上。みんなは仲良く遊んでいてね」
「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」
俺は父さんの後を追って部屋を出る。何の用事だろうか? 俺は一瞬でも妹達から離れたくはないのだが。
父さんに連れてこられたのは父さんの書斎だ。書斎に入ると、向かい合わせのソファに座るように言われる。言われるがままにソファに腰掛けると、父さんが向かい側の正面に同じように腰掛けた。
「ルド、唐突だが大事な話がある」
「なんでしょうか。父上」
「ルドは響力がまだ使えないが楽器の扱いは上手だ。すぐに奏法士としての才能を発揮すると思うが、そのために来月から響学校に行ってもらうことになった」
「それは……急ですね」
響学校は文字通り響力の扱い方を学ぶ学校で、歌法や舞法、奏法などを学ぶことが出来る教育機関だ。
父さんと母さんも昔は名のある歌法士だったらしく、自分の息子、それも長男が響力を扱えない出来損ないのままでは他所様に顔向けできないと思っているのだろうか。
響力は生まれながらに備わっているため、六歳まで響力が備わっていないとなると絶望的と考えるのが普通だが、優しさからか見放されたりすることはなかった。
もちろん俺は響力を隠しているだけだ。俺の響力は少し特殊な上に、知られると色々とまずいこともある。
だが、知られないでもまずいことになりそうだ。恐らく響学校には俺一人で入学することになる。妹達とは、離れ離れになってしまう。
俺は響力があると本当のことを伝えれば回避できるか? いや、もっと離れ離れになる可能性が高い。それくらい俺自身の響力は特殊なのだ。
ここで逃げることは出来ないか……
「妹達は、入学しないのですか?」
「やっぱりいつも聞いてくるのはあの子達のことだよな。安心してくれ。ルドが響学校に通い出す頃に、優秀な歌法士を家庭教師として迎える予定なんだ。あの子達は恐らくこの国、いや世界でも有数の歌法士になる。そのためには小さい頃から特別な訓練をする必要があるんだ」
「……それは、あの子達のためになるのでしょうか」
「どういうことだい、ルド」
「妹達は、伸び伸びと成長させてあげるべきなのではないでしょうか」
「う〜ん。言いたいこともわかるが、俺も親としてあの子達に才能があるならそれを全力で伸ばしてあげたい。これはおかしいことかい?」
「いえ、おかしくはないですが……」
「もちろんルドにだって才能があると思っている。だから響学校への入学を勧めるんだ。なに、三年もすれば妹達も入学させるから、その間少しだけの別れだよ。入学してからあの子達がしっかり学べるように、道を拓いておくのも兄の役目だと思ってさ」
父さんの言っていることはおかしくない。だが何か不安が残る。
この世界の人々は、響力の強さで人間としての優劣を決める傾向にある。父さんや母さんは優しいから何も言わないが、俺を他所に誇れる息子という風には考えていないだろう。その皺寄せが妹達にいっているような気がしてならない。
本当に俺だけ先に入学するべきなのだろうか。妹達を置いて。
「これは決まったことだ。ルド、しっかり頼んだぞ。あの子達のことは父さんと母さんに任せておけ!」
「……わかりました」
やっと出会えた妹達とお別れすることが決まってしまった。
辛い。
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