第3話 妹達の名前

「オギャー! オンギャー!」


「よーしよし、ジーコ。いい子いい子だねぇ」


「ギャー! ンギャー!」


「どうしたロッカ、あ、おしっこしたのか」


「あーうーあー」


「シロはお喋りが上手だな」


「ほんと、ルドがこんなにも頼もしいなんてお母さん嬉しいわ」


 俺は日々、妹達のお世話をしている。


 母さんはしっかり者くらいに思っているだろうが、兄としては当然の責務だろう。お世話をしているなんて大層なものじゃない。俺は生きる活力を受け取っているのだ。


「ルドはあんまり泣かなくて手がかからない子だったから、本当に助かるわ」


「僕は兄ですから。当然です」


「そうね。自分で名前を決めてあげるほど、愛おしい妹達だもんね」


 三歳の誕生日プレゼントとして半ば強制的に獲得した、妹達の命名権。父さんと母さんは快くその提案を受け入れてくれて、妹達に命名する権利を得た。


 どうせなら「9」という数字にちなんだ統一性のある名前がいいと思った俺は、前世で中二病だった頃の知識をフルに活用し、九星というものから名づけることにした。


 陰陽道で使われていたこの九星は、占いなどで使われていた信仰みたいなものだ。正確には中国を起源とした九星と五行や方角などを組み合わせて九星図を作ったといわれている。


 「一白水星いっぱくすいせい

 「二黒土星じこくどせい

 「三碧木星さんぺきもくせい

 「四緑木星しろくもくせい

 「五黄土星ごおうどせい

 「六白金星ろっぱくきんせい

 「七赤金星しちせききんせい

 「八白土星はっぱくどせい

 「九紫火星きゅうしかせい


 これら9つを基準にして、


 長女「イクス」

 次女「ジーコ」

 三女「サンキ」

 四女「シロ」

 五女「ウド」

 六女「ロッカ」

 七女「チセ」

 八女「ハーピ」

 九女「キュウカ」


 という名前に決めた。9つ子なので姉も妹も関係なさそうだが、そこは母さんのお腹から出てきた順で決めている。


 イクスは、長女としてしっかりと妹達を引っ張っていって欲しいと願っている。イクスが道に迷うことがあれば俺がイクスを支えよう。


 ジーコはイクスとは違う方向で姉妹を導いて欲しい。姉妹で一番のオシャレさんとかになってくれるといいな。俺はいつもジーコに可愛いと言い続けよう。


 サンキは好奇心旺盛で、猪突猛進が似合う我が道を行く女の子になって欲しい。俺もサンキの興味あることに興味がある。


 シロは少しおとなしめで、でも誰よりも努力家になって欲しい。俺はいつだってシロの可能性を信じ続けるだろう。


 ウドは一番の姉妹思いな子になって欲しい。ウドには負担をかけてしまうかもしれないが、ムードメーカーという言葉がぴったりな女の子がいいな。俺もウドに負けないように妹達を思い続けるよ。


 ロッカは少しいたずら好きな子だけど、弱いものには絶対に手を差しべる正義感のある子に育って欲しい。ロッカが差し伸べた手が誰かを守れるように、俺も精一杯サポートしよう。


 チセはそんなロッカと共に自分の正義を貫いてほしい。ロッカが手を差しのべるのであれば、チセは背中を押してあげる。そうやって二人でたくさんの人を救って欲しい。俺はチセの足が止まりそうな時に、背中を押して一緒に歩こう。


 ハーピは姉妹で一番マイペースで、少しほんわかしているけど一番芯のある子に育って欲しい。みんなが色々と考えすぎて足を止めてしまいそうな時は、ハーピが一番確信をついた道の歩き方を見つけて欲しい。俺はいつだってハーピが歩く道を照らし続けるよ。


 キュウカは、そんな個性的な姉達をまとめ上げる、一番のしっかり者になって欲しい。一番の妹にそれを求めるのは酷かもしれないが、キュウカならそれが出来ると信じている。



 もちろん、俺が思っている通りになんていかないだろう。みんな似ているがみんな違う、一人だって替えはいない大事な妹だ。


 いろんなことを感じて、いろんな世界をみて、自分が信じる道を歩いてくれるならそれでいい。俺はそんな妹達の手助けをできるだけで十分。手助けも求められないなら見守るだけでもいい。


 ただ、妹達に向けられた悪意を退けられる程度の力は、既に身につけている。何があっても絶対に守ってあげるから、安心して成長して欲しい——










 そう思っていたはずのに、何故こんなことになってしまったのか。



 十年後、俺は自分の愚かさを呪いたいと、心の底から思うのであった。


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