第1話 あやかし
「‥‥‥ハッ!」
声を上げながら、せつなは頭上高く振り上げた斧を勢いよく振り下ろした。
コーン、という音を響かせて薪が真っ二つに割れる。
詰めていた息を吐きだし、せつなは額に浮かんだ玉のような汗をぬぐった。
割ったまま放置していた薪を、拾い集めて薪棚に一つずつ積んでいく。
斧を持って家の戸を開けると、土間のところで母親の八重が錆びたヤカンを手に持って立っていた。何かあったのか、尻尾が垂れ下がっている。
せつなに気がつくと、困った顔をしてヤカンを差し出した。
「ちょうどよかった、せつな。見てこれ、穴が開いちゃったのよ」
聞きながら、母親から受け取ったヤカンを高く持ち上げると底に大きな穴が開いていることが見て取れた。
「本当だ。ずっと使ってたからね」
「困ったわ。ひとまず他のを使って、買いに行かなくちゃ」
「それなら、今から私行ってくるよ。もう今日の薪割りは、終わったから」
「本当に? 助かるけど‥‥‥」
うん、大丈夫だよ、とせつなは笑いながら頷いた。
すると土間と板間を繋ぐ襖が開いて、せつなの弟、辰巳が興奮した顔で出てきた。
尻尾が千切れるのではないかと心配になるぐらい、勢いよく左右に振られている。
「姉ちゃん、町まで行くの? いーなあ。俺も一緒に行きたい!」
「ダメよ。まだせつなみたいに上手く
すかさず母親からダメだしをくらう。何時もは優しい母親だが、こればかりは譲れないのだろう。
苦笑いを浮かべながらせつなが耳と尻尾に神経を集中させると、ぼふん、と音と一緒に白い煙が上がって、せつなの頭にあった三角の形をした耳とふさふさとした尻尾が消えた。
「辰巳はまだ、尻尾が出ちゃうからね」
図星をつかれて、辰巳はウッと言葉に詰まる。視線だけを尻尾に向けて言った。
「難しいんだよ、こんな先っぽまで神経通って無いと思う」
「それが本当なら、困っちゃうよ」
せつなはフッと微笑みながら、両膝を折って視線を合わせると、辰巳の頭を優しく撫でる。
「今日は姉ちゃんだけで行ってくるから。辰巳はもうちょっと練習したら、一緒に行こうね」
「‥‥‥わかってるけどさ。帰ったら、また教えてくれるよね」
「うん、いいよ」
ずっと違和感はあった
烈火の想いを君に 小槌彩綾 @825
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。烈火の想いを君にの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます