第6話
眩しい光に包まれ、トムの視界も頭の中も真っ白になった。
眩しさでしばらくの間目を閉じていたが、目を開けるといつもの村の景色とは違う場所に来ていた。
『トム、大丈夫?』
アーヤが心配そうにトムを見ていた。
トムが頷くと、アーヤは得意気な顔になると両手を広げて得意気に…
『ようこそ、マヤクルへ』
とびっきりの笑顔で、高らかと宣言した。
『まずはどこに行こうかな。トムは行きたいところはある?』
『どこって言われても…う~ん…』
グゥ~
考えていると、トムのお腹が鳴った。
『あはははは!それじゃあ、まずは何か食べに行こうか』
『…うん』
トムは少し恥ずかしそうに頷いた。
『では、まずはミィースの森に参りますかな』
『そうだね。行こう、トム』
トムはアーヤの手を掴むと、空に浮かび上がった。
雲を潜り抜け、全身に風を受ける。
村では夜だったので何も見えなかったけれども、明るい時間に空を飛ぶのは、もっと気持ちが良かった。
鳥はいつもこんな感じで空を飛んでいるのかな…トムはそう思っていた。
『見えてきたよ!』
アーヤは柵で囲われた大きな森を指差した。
『おじさん、こんにちは。3人で入って良いですか?』
森の入り口にいる、積み木のような体をした青い服のおじさんに声をかけていた。
おじさんはこちらを見渡すとトムを指差す。
『ダレ?』
『私の友達。今日初めてマヤクルに来たの!おじさんのミィースの実を食べさせてあげたいんだ』
アーヤは満面の笑みでおじさんと話している。
『アーヤ様ノ、友達。分カリマシタ、ドウゾ』
おじさんは入り口から離れると、森の中へ招くような格好をした。
『ありがとう、おじさん』
『いつも申し訳ありませんな』
『ありがとうございます』
手を振りながら森へ駆けていくアーヤ、ペコリと頭を下げるアール。
トムもアールに習って頭を下げた。
『ミィースノ実、オイシイ。ガンバッテ、作ッタ。イッパイ、食ベロ』
おじさんは声も表情も変わらなかったが、優しい言ってくれている気がした。
『うん!』
トムはおじさんに笑顔で手を振ると、アーヤを追い掛けて走って行った。
『ここなんか美味しそうだね』
アーヤが一つの樹を指差す。
『ふむ。確かに良い匂いがしますな』
スンスンとアールが鼻を鳴らし、うっとりとした目をする。
アーヤの指差す先には、大きなモコモコの綿のような実があった。
『いらっしゃい。この辺りの樹は食べ頃だぜ』
アールくらいの大きさの蜂が声をかけてくる。
よく見ると沢山の蜂が森の中で働いていた。
『それじゃあ、行こうか』
アーヤがトムに手を差し出す。
『これくらいなら、自分で登れば良いよ』
『えっ?』
空を飛ぼうとしたアーヤを横目に、トムは樹の枝に手を伸ばす。
トムは木登りが好きだった。
これよりも大きな木にも何度も登ったことがあった。
『トム、大丈夫?』
アーヤが心配そうに木に登るトムを見上げた。
『平気だよ』
トムは手を止めることなく返事をした。
そして実の近くまで登ると、太い枝に腰を下ろした。
『アーヤもおいでよ。気持ちいいよ』
樹の上からトムが声をかける。
アーヤは不安そうにトムやアールを交互に見つめる。
アールは大きく横に首を振っていた。
『ボウズ、良いこと言うな。力を使うのは便利だけど、やっぱり体を動かさないとな!』
蜂がトムの近くに来ると、話しかけてきた。
『そうだよ、おいでよアーヤ』
トムが大きな声でアーヤを呼んだ。
『…うん。行ってみようかな』
『本気ですか、アーヤ様!?』
アーヤは決心して樹に近付いていく。
アールは心配そうに震えていた。
『大丈夫だよ。慌てないでちゃんと枝を掴んで!』
『うん…』
アーヤ様は恐々と、ゆっくり登ってきた。
アールは口元に両手を当てて、心配そうにアーヤを見上げていた。
『アーヤ頑張って。上手だよ!』
しばらく時間をかけて、アーヤはトムの隣の枝まで登ってきて、その枝に腰を下ろした。
『…こ、怖かった~』
アーヤは幹に寄りかかって、大きく息を吐いた。
『普段はもっと高いところを飛んでるのに、変なの』
『飛ぶのと自分の手足で登るのとじゃ、全然違うよ!』
アーヤはプウッと頬を膨らませる。
『でも、こうやって登るのも気持ちいいね』
アーヤはトムに微笑んだ。
今まで見た中でも、一番キラキラした笑顔に見えた。
『お疲れさま~。一番良いとこ持ってきたぞ』
蜂が二つの実を持って来た。
アーヤとトムに一つずつ手渡す。
下から見た時は綿のようだと思ったが、もっとしっかりした手触りで、羊毛のようだった。
かぶりつこうかと思ったが、フワフワの毛が邪魔でどう食べれば良いのか分からなかった。
アーヤの方を見ると、興味深そうにトムを見ていて目があった。
『この出っ張りに沿って捻るんだよ』
アーヤが両手で実を捻ると、パカッと実を開いてみせた。
実を触っていると、確かに実には一直線の出っ張りがあった。
見よう見まねで実を捻ると、簡単に実は二つに割れ、甘酸っぱい匂いが飛び出してきた。
中にはカスタードクリームのようなトロリとした黄色の果肉が詰まっていた。
『美味しそう!』
『ほら、これで食べな。開け方を知らないってことは、ミィースの実を食べるのは初めてだろ?』
蜂はトムとアーヤに木製のスプーンを手渡した。
スプーンで果肉を掬うと口に入れる。
濃厚な甘さと、すっきりとした酸味の後味。
お腹が空いていたこともあり、トムは黙々とスプーンを口に運んでいく。
『気に入ったみたいだね』
アーヤがニコニコしながらトムを見ていたことに気が付き、トムは恥ずかしくなって一旦手を止めた。
『凄く美味しいよ。こんな美味しいもの食べたのは初めてだよ!』
『良かった。私も食べようかな』
アーヤも美味しそうに食べ始めた。
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