第3話
『僕は…』
『あっ、待って』
名乗ろうとしたところを、女の子に止められた。
『こんなに暗くちゃ顔も見えないよね』
『そうですな。もう見られてしまったのですから隠しても仕方ありませんな』
アーヤの声にウサギが応える。
そう言うと、ウサギから光が溢れてきた。
ロウソクよりも明るい、けれども納屋全体を照らすこともない。
光はトムたちの周りだけを昼間のように明るく照らしていた。
『すごい…これは、何?』
村の中では見たこともない。
いや、物知りな村長からも聞いたことすらないことが立て続けに起こっていた。
光に照らされ、お互いがよく見えるようになった。
アーヤは短い髪の女の子。
ゆったりしたワンピースを着ていて、腰の部分を紐で締めている。
ウサギは、なんとタキシードを着ている。
そしてウサギの片手には、光輝く石が乗せられていた。
『この石、珍しいよね?こっちの世界にはないもんね』
アーヤはトムの顔を見つめながら、イタズラっぽい笑顔を見せた。
『改めて、私はアーヤ。あなたの名前は?』
『僕は、トム』
トムはアーヤを見ながら微笑み返した。
アーヤを見ていると、自然と笑顔になってしまう。
『私は、アルクレオ・ライポーン・セーンジャン伯爵と…』
『覚えにくいからアールでいいよ!』
ウサギの自己紹介をアーヤが遮る。
『トムも、その方が良いよね?』
『うん。その方がいいかな』
アーヤが笑顔で訊ねてくると、同意したくなる。
不思議な魅力がある女の子だった。
『むぅ…仕方ないですな…』
アールは耳の付け根をポンポンと叩くと、残念そうに同意した。
『私、実はこの世界に落とし物をしちゃって探しに来たの。アールが持っているピュア・ストーンっていう石なの。それで、もしかしたらこの中にあるんじゃないかなって思って入ってきたんだ。驚かせてごめんね』
『無断で入ってきてしまい申し訳ない。ここで我々に会ったことは秘密にして下され』
アーヤとアールは深々と頭を下げた。
『ねぇ、トムはこの石を見たことはないかな?』
アールの持つピュア・ストーンを指差しながらアーヤが近付いてきた。
『こんな珍しい石、見たことがないよ』
『そっか…ありがとうね。それじゃあ、私たち行くね』
アーヤは笑顔で手を振る。
トムは戸惑ってしまった。
このワクワクする思いを、アーヤとの出会いを、ここで終わりにしてしまうことが残念に思えたのだ。
『僕も、一緒にその石を探すよ!』
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