17.意味の変化と結末


「俺は……羽黒 加那多は遠山 信親が好きだ、心から愛している。これからも一緒に、俺の傍に居て欲しい。親友として、恋人として、俺にはお前しか居ない!俺と……結婚して欲しい!!」


私の答えは決まっている、加那多が私を求めるなら、それに全力で応えたい。

ちょっと結婚とまでは思って無くて、そこだけビックリしたけど、なんの問題も無い。


私は指輪を手に取り、応えた。


「はい、私、遠山 信親も羽黒 加那多が好きで、心から愛しています。私こそ、加那多と一緒に居たい。これからも親友として、恋人として、妻として、よろしくお願いします」


私達は涙を流しながら抱き合い、キスを交わした。


少しの後、お互いの左手薬指に指輪を通し、もう一度抱き合った。


◇◆◇


キスを拒む加那多に対し、興奮した俺が無理やり頭を抱き、キスをした後の事。


加那多は涙を流していて、その表情を見ると悔しそうな悲しそうな顔をしていた。

俺には何故泣いているのか、何故そんな表情をしているのか分からなかった。

俺は加那多とキスが出来て嬉しかったし気持ち良かったのに何故。


そして、動きが止まってしまっていた事も。



暫くの時間、動きが止まっていたので俺は促した、催促をした。


「なあカナ、いつまでこのままなんだ?……続きをしてくれないのか……?」

「……ッ」


少しの沈黙。


「ノブ、俺はお前が好きだ、愛している」

「!?」


急に何を!?


しかし俺が何か言おうとするその前に信親がキスをして唇を塞ぐ、しかもそれは俺がさっきやったような拙いキスでは無く、大人の、それも激しく貪り、交換し、求めるようなキスだった。


酸素不足と気持ち良さで頭がボーッとして、何も考えられなくなり、加那多の唇が離れた後に囁かれた言葉もハッキリとは聞こえなかった。でも多分、好きとかそういうニュアンスの事だなとボーッとした頭で感じた。


その後も俺の事を好きだと何度も言い、褒めちぎり、愛してると囁く。

行為そのものと合わせ、その言葉でさらに気持ち良くなっていた。


そして加那多のその言葉は本気なのだろうか、とぼんやりと思った。


昼間は今までと変わらず、夜になると俺が借りの話しをする前に行為を始める。

しかも行為前に必ず愛の言葉を囁いて、好きだ、綺麗だ、愛してると言うような事を伝えてきて、俺を心地良くさせてくれる。

行為中にも何度も愛を囁き、行為後は俺を抱き寄せ、ピロートークで愛を囁き、軽くキスを交わらせて眠りにつく。


そんな事を続ける内に俺も気分が高まり、愛の囁きに俺も返すようになった。

始めは演技だったと思う、昂らせるための。

しかし直ぐにそれは気持ちが籠もるようになっていき、最終的には本気で愛を伝えていた。


いつの間にか、加那多に愛を囁かれる事が嬉しく気持ち良くなっていた。

もっと愛して欲しいと思うようになった。


それと同時に、俺の心で加那多への愛情が段々と形になっていくのを感じていた。

今までそれは他の男は嫌だけど、加那多は嫌じゃない、という程度しか感じていないものだった。

それが好意に、そして愛へと変わっていった。


その頃には昼間もイチャイチャしだすようになり、加那多が俺を本気で好きで、俺も加那多の事を好きになっていた。

決定的だったのは手を繋ぐ事を躊躇していた時に、強引にキスされた事は俺の中では衝撃を受けた、そういうのも悪くないと思ったし、加那多の男を感じて、自分の中の女を感じた。

その時には元男とかそんな事はもう頭には無かった。ただ、加那多が好きで、そして、加那多の女になりたい、求められたい、それだけだった。


外出時にも手を繋ぎ、抱き合い、愛を囁くようになると、自然と一人称が私に変わっていた。

何時までも俺では加那多が恥ずかしい思いをすると思ったし、もう俺と言うのが不自然と感じるほどに男という意識は減っていた。


私は加那多の親友で加那多の女、だから私で良い、とそう思った。


今思えば、加那多にキスされるまでの私は情欲に塗れた、肉欲だけを求めて愛の無い行為をただ気持ち良いという理由だけで繰り返していただけだった。

それを加那多が変えてくれた、私に愛を教え、愛のある行為にして、私を心から愛してくれた。


だから、加那多が許してくれるならずっと此処に居て、加那多と一緒に居たい。

それに加那多の女性不信を私が直したい。

そう思っていたら、クリスマスイブに一緒に出掛けようと言ってきた。


私は直ぐにOKした。

だってイブに一緒に出掛けるって、それって多分、告白とかそういう事だよね?

そういえば私も加那多も好き好き愛してると言ってても、ちゃんとした告白をしてないしされてない、となるとイブは間違い無くそれだと思う。ああ、楽しみだ。


◇◆◇


私は加那多のプロポーズを受けて、今はお互いの薬指に指輪をしている。


プロポーズを受けた後、加那多は女性不信によるトラウマが蘇る事が無くなっていた。

安心は出来ないけど、私がいる限りもしもの事があっても大丈夫だと信じよう。


今は年末、実家に帰る所だ。

加那多と私の実家は小学校が一緒で家が近い。だから加那多と私の実家に寄るつもりだ。


一度、加那多の実家に帰り、挨拶をした。


衣吹ちゃんが事情を知っていて、加那多も父親には事前に話をしてくれていた。

加那多の父親が、いやこれからは私にとっても義父はすっかり変わってしまった私を見て始めは驚いたものの、すぐに暖かく迎えてくれた。


まあ驚くよね、息子の友達でよく遊びに来ていた男の子が、16才の女になってるんだから。


加那多が事情を説明して結婚の話をするとやはり驚き、そして理解してくれて、喜んでくれた。


そして冗談めかして、若い奥さん貰えて羨ましいと言って場を和ましてくれた。

加那多は毎日大変だと言うし、義父は、毎日は若いな、なんて話している。


恥ずかしくて私の顔はずっと真っ赤なままだ。


衣吹ちゃんは、ほらね、私が言った通りだったでしょ、と勝ち誇っていた。

そして、おめでとうノブちゃん、とお祝いしてくれた。



そして、次は私の実家だ。

私は女になってから実家とはまともに連絡を取ってない、いや元気してるかとかそういう程度のはしてたけど、女になった事は全く触れていない。

だからまだ私の事を男だと思っているはずだ。


事前に今日、加那多と行く事は伝えてある。


緊張感が凄い、めっちゃドキドキする。もう帰りたい。助けて加那多。

そう思っていると加那多が察してくれたのか、抱き寄せてくれて、大丈夫だから、俺に任せて、と囁いてくれた。

加那多の腕に抱き着き、安心感を得る。はあ、好き。


チャイムを鳴らし、まずは加那多に出てもらう。いきなり見知らぬ女が出るより良いだろう。


「あら加那多くん、いらっしゃい、あら彼女さん?うちの信親もそれくらいモテればねえ。あの子ったらまだ帰ってきてないのよ、一緒じゃなかったの?」


勝手な事を、確かに加那多はモテるけど。


「ご無沙汰してますおばさん、先に上がってて良いですか、少しお話もあるんで」

「良いわよ、少し話って、もしかして結婚とか?」

「まあ、それは中で」


リビングに通してもらい、2人並んで腰掛ける。

一応TS証明書は持ってきていて、何時でも出せるように準備している。

というか、無いと信用して貰えないと思うし。


母がお茶を持ってきてくれて、腰を下ろした。


「実はおばさんに大事なお話があります」

「あら何かしら」

「この子、実は信親です、証明書もあります」


慌てて証明書を出して、机の上に置いた。

まだ事態が飲み込めてないのか、母は無反応だった。


「母さん、ただいま、こんな姿になっちゃったけど、信親です」

「……ちょ、ちょっとまってね、整理させて」


母はTS証明書を手に取り、確認した。


「ごめん母さん、9月になった時にすぐに連絡すれば良かったんだけど、中々言いづらくって、今ごろになった。」


母さんはようやく事態を飲み込めたのか、言葉を発した。


「本当に信親なのね?」

「うん、証明書通り、間違いないよ」

「うん……うん、なっちゃったものはどうしようも無いね、まあでももっと早く言って欲しかったな」


「ごめん、それで母さん、大事な話なんだけど……」

「ノブ、それは俺に言わせてくれ」

「あ、うん」


「おばさん、信親と結婚前提でお付き合いしています、おじさんが帰ってきてからあらためて話しますが、結婚を許可して下さい」

「え?別に許可なんて……あ、今は信親16才だから親の許可がいるのね」

「はい、その通りです」


「なるほどね、今はどういう関係なの?」

「私は9月に女になって、会社を辞めて、寮を出て、今は加那多と一緒に住んでる」

「加那多くんに迷惑掛けてない?」

「あ、うん、……沢山掛けてる。私が住めるように引っ越しもしてくれたし、家具も、衣服も買ってくれた」


「あんたそれ、加那多くんに大きな借りよ?結婚したからってそれを忘れちゃ駄目だからね」

「え?じゃあ……」

「まあ他の男なら直ぐには答えはでないけどね、加那多くんなら大丈夫でしょ、家も近いし」

「ありがとう母さん、私、加那多と結婚します」

「ありがとうございます、信親を大事にします」


「今日はゆっくりしてって、もう少ししたら父さん帰ってくるから、そしたらもう一回説明してね」

「分かりました」


「私も結婚相手が加那多くんなら息子が減った感じしないし、むしろ娘が出来て嬉しいかも」

「そう言ってもらえるとありがたいです」

「信親、明日買い物に付き合いなさいよ、色々買ってあげるからね」


その後、父さんも返ってきて、同じ事を説明し、加那多だから、という理由で無事に許可を貰えた。

これで晴れて加那多と結婚出来る。



同い年の親友と年の離れた夫婦、2つの関係を持った私達、これからも困難があってもきっと上手く乗り越えていけると信じてる。

2つの関係で結ばれた私達はそこら辺の夫婦より強い絆で結ばれているのだから。


=================================

このお話はここで完結です。

後半の流れは私は好きなんです、過去3作みたいな高校生親友では出来ない展開なので。


次もTS作品をつくっていきますのでその時はよろしくお願いします。

それまで過去作も呼んで頂けると嬉しいです。


お付き合い頂きありがとうございました。

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会社員がTSっ娘になって親友宅に転がり込む話 エイジアモン @eijiunknown21

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