16.後悔、決意と行動
──加那多 View
俺は信親を愛している。
今でこそ、こんな歪な関係になってしまったけど、俺の気持ちは全く変わっていない。
だけど信親の気持ちは俺に向いていない、そもそも好きとか嫌いとかの土俵にたっておらず、親友のままだ。
つい先日にもそれがハッキリと分かり、その日の夜は我を忘れて信親に気持ちを叩きつけるような事をしてしまった。
もうあんな事は二度としないと誓おう。
自分としては信親の気持ちを理解したつもりで、受け入れたつもりでいたし、それでも好きで、愛しているからこそ、信親に幸せになって欲しいと思っている。
信親の望む事ならなんでも叶えてあげたいと思っているし、だからこそこの歪な関係を続けている。
借りを返すという、愛情を伴わない行為、それでも信親に気持ち良くなって欲しいと思っている。
だけど、一つだけ線引きしていた、これ以上踏み込んではいけないと思っている行為があった。
それはキスだ。
俺の勝手な線引きだ、だけどこの線引きをしないと俺の感情が暴走すると思っていて、そして愛を伴わない行為であれば、信親とキスをするべきでは無いと思っていた。
だからどんなに感情が昂ぶっていても、それはしないよう必死に自制した。
キスしたいと思っていたのは興奮している信親も同様で、何度かキスをしようとしてきた事がある。
なんとか察知して回避していて、最近はそんな素振りは無かった。
そして3回目で、夢中になっていて、油断していた。
突然頭に腕を回され、キスをされた。
俺が必死に押し留めていたものを信親はあっさりと壊した。
「ノブ……なんで……」
「カナとキスしたかった、興奮して、高揚して、カナの唇を欲しがったから……やっと捕まえた」
その顔は淫靡で美しく、愛とは違う、情欲に塗れ、肉欲に溺れた表情をしていた。
俺は気付いた、この表情にしてしまったのは俺だと、俺が初めてを奪った時からずっと、信親の為と思って、ひたすらに気持ち良くさせていた事の結果がこれなんじゃないか、と。
俺はただ、信親に嫌な思いをさせたくなくて、気持ち良くさせていた事が、この行為を、ただ気持ちの良い行為だと思わせているんじゃないかと。
そうであれば納得がいく、旅館での2日目、もうすでにその片鱗があり、何度も行為を繰り返した。
そして俺はその度に信親を思って天国へいかせた。
それが愛情があってその上でなら、愛情も深めるしそれは良い事だと思う、だけどこれは違う。
ただ単純に俺との行為が気持ち良いから、それだけの理由でするのは違う。
俺はまたしても間違っていた、良かれと思ってやっていた事が間違いだと気付いた。
これで2度目だ。
1度目は信親のプライドや高潔さを忘れて、一方的な、施しのような押し付けをしてしまって、こんな借りを返す、などという事をするまでに追い詰めた事。
2度目は借りを返すならせめて信親にただただ気持ち良くなって貰おうとした、おかげでこの行為には愛が全く伴わずに気持ち良いだけの行為と信親は認識してしまった事。
俺はバカだ。
俺が信親をメチャクチャにして、穢した。
悔しさと不甲斐なさで涙が溢れてくる。何が親友だ、俺は信親の事を何も分かっちゃいない。
俺みたいなやつは信親のそばにいちゃいけない!
信親の目を見ると、その瞳は情欲に塗れ、次を期待していた。
「なあカナ、いつまでこのままなんだ?……続きをしてくれないのか……?」
!!!!
……俺は、また間違える所だった。
今度は間違えて、逃げる所だった。
もし逃げたら、今の信親は間違いなく他の男の所へ行くだろう。
今の信親を放って逃げるなんて、無責任で、もっと信親を不幸にするだけだ。
……。
決めた。決心した。……もう信親に対する感情を隠して支えるとか力になるのは止めだ。
信親に俺を好きになって貰い、この愛の無いSEXを、愛のあるSEXに変える。
俺には信親が必要で、信親にも俺を必要として貰う。
信親を、俺の親友で、俺の女にして、俺が全ての責任を取る。
そして、一生俺の傍で幸せになって貰う。
それが俺に出来る事だ。今度は間違えない。
◇◆◇
愛を伝え、愛のある行為に変える。
それは直ぐに始めなければいけない、信親が肉欲に染まりきって手遅れになる前に。
まず手始めに、行為前と後に信親への愛を囁き、それに加えて行為中に好きだ、愛してると俺の愛を伝える事。
そして信親からも俺への愛の言葉を返す様に促す。
始めは演技かもしれないけど、続ければ俺の愛が通じて情が移り、きっと本気になる、本気で身体を重ねるとはそういうものだ。
男は無理だと言っていたけど、俺との行為は大丈夫だと言っていた、それはつまり、押せば行ける、いや、強引にでも押し通して俺の事を好きにさせる。
まずはキスを解禁して、愛し合うとはどういうものか分からせてやる。
こうする事で、段々と好意があるから行う物、という風な認識に変えさせようと思う。
そして俺の女だと分からせる。
「ノブ、俺はお前が好きだ、愛している」
そう言って直ぐに唇を塞ぎ、反論を封じる。
そして本当のキスを教えて、唇を離した際にも愛の言葉を囁いた。
信親の耳には届いているだろうが今は反応が無い、まあ初めての本気のキスだしまだ意識が気持ち良さで朦朧としているかも知れない。
始めはこんなものだろう、まず俺が変わった事を認識さえしてくれればそれで良い。
そして愛の言葉を紡ぎながら交わり、事後もノブを抱き寄せ、睦み合い、軽くキスをして眠りについた。
翌日朝からは今まで通りに戻り、一緒に出掛けたりした。
昼間はまだ何も変化を加える必要は無い。
そして何日かが過ぎ、行為前後の愛の囁きが当たり前のものになり、信親も返しに好きと言うようになり、信親から率先して好きと好意を伝えてくるように変わった。
その頃からは普段の行動にも変化を加えるようにした。
座った時なんかにも手を握り、キスをして、抱き合うようにして愛を囁くようにした。
信親は始め躊躇していたが強引に唇を奪い、愛を囁くとしっかりと俺の手を握るようになった。
当然お風呂に入る時もお互いの身体を洗い、キスをして、湯船で愛を囁く、場合によってはその場で交わる。
そうして、食後なんかの座っている時も対面座位やバックハグの姿勢になってイチャつき過ごす事も増えた。
週末、一緒に出掛ける際にも変化を加えた。
外でも恋人繋ぎをし、イチャつき、人目の無い所ではキスをし、抱き合うようになった。
概ね、俺たちは愛し合う恋人同士のように見える。
このままいけば、次はちゃんと告白、そしてプロポーズする。ちょうど12月、良いイベントがある。
◇◆◇
そんな日々を過ごし、信親も料理が上手くなり、最近は俺の弁当を作ってくれる様になってきた。
仕事探しについては話し合って、正社員は諦めて、バイトを探すことになっている。
とはいえ、今年いっぱいは続けるようだけど。
多分俺の事を好きでいるだろう、十中八九間違い無い。
さて、そういうわけでクリスマスイブに一緒に出掛ける約束をしている。
流石に信親もこの日に何が起きるか察しているだろうと思う。
イブの日に一緒に出掛けよう、と話した時は喜色満面の笑みで快諾してくれた。
信親と一緒に住み始めて、もうすぐ丸3ヶ月、長いようであっという間だったような気がするけど、これで一つの決着が着くと思うと中々感慨深い。
24日が近づくに連れて俺の女性不信のトラウマが蘇る頻度が増えて、その度にその不安から信親を激しく求めていた。
信親は微笑みながら俺を宥めるように優しく包み込む様にしてくれて、俺を安らかにしてくれる。
こんな俺でも信親は受け入れてくれるのだろうか。今更になって凄く不安になっている。
そして24日の夜、街を見下ろす展望台に俺たちは居て、向かいあっている。
「ノブ、いや信親、今更と思うかも知れない、だけど言わせてくれ。俺たちは小学校からの親友で、学生時代はずっと一緒で、社会人になってからは少し距離が離れていたけど、ノブが女になって、また俺たちは急速に近づいた。一緒に暮らし始めてからもうすぐ3ヶ月、色々有ったけど、楽しい日々だった」
「俺は、もう女は好きにならないと思っていた、付き合えないと思っていた、だけど違った。この世に1人だけ、例外が居た。それは親友の信親、だった」
「俺は……羽黒 加那多は遠山 信親が好きだ、心から愛している。これからも一緒に、俺の傍に居て欲しい。親友として、恋人として、俺にはお前しか居ない!俺と……結婚して欲しい!!」
俺は手の平に婚約指輪を乗せ、差し出し、信親の反応を待った。
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