13.苦悩と線引き
──加那多 View
今日は朝から可愛い信親を堪能出来て嬉しい限りだ、本当に旅行に来て良かった、結構な出費になるけど信親が楽しんでくれて、心から休めるなら安いものだ。
明日は丸一日あるし、信親は食べ物系以外は旅館でのんびりしたいと言っていたし、しっかり気分転換して欲しい。
掛かった費用なんかを信親に知られて、気を使って欲しく無いのでそこに繋がりそうな話は一切していない、信親も触れてこないし、そこまで気にしていないのかも知れない、そうだと良いんだけど。
これは俺が信親にしてやりたいだけで、気にして欲しくない、見返りとして一緒に居てくれる、それだけで良いんだから。
一緒に寝室に移動し、寝る準備をしていたら信親が声を掛けてきた。
「なあカナ、話があるんだけど」
なんだろう、明日何処かに行きたいとか、そういう話か?良いぞ、俺は信親の望む事は何でも応えるからな。
そう思い振り向くと信親は真剣な、いや切迫した表情をしているような気がする。
何か決意したような、そんな顔だ。
真面目な話か、と俺も聞く姿勢を正した。
しかし、次の言葉に俺は衝撃を受けて暫く思考停止した。
「カナ、お、俺を、……だ、抱いてくれ!」
「!?……」
少し間が出来て、正気に戻る、眼前の信親を見ると、俯き、緊張しているのか少し震えている。
今、信親はなんて言った?俺を抱いてくれ?……抱き締める?どういう意味だ?聞き間違いか、多分そうだろう、きっと俺が心の何処かで妄想していた事と間違えたに違いない。
俺は信親が言った事が聞き間違いではないかと思い、確認した。
「ノブ?えーと、ゴメン、俺聞き間違えた、抱いてくれって抱き締めるって意味か?それとも……そんな事言うはずないのにな、ゴメン、ちゃんと聞くからもう一回言ってくれ」
「……いや、聞き間違いじゃない、俺を抱いてくれ、そう言ったんだ、俺を、女として抱いてくれ」
「!?」
え?どういう事だ?なんで?
だって俺の事が好きなわけじゃないんだろ?え、なんで?
思わず口に出た。
「なんで?」
「俺は、親友同士は対等な関係だと思ってて、差が有りすぎるとそれは親友じゃなくなると思ってる。俺が女になって、カナの家に転がり込んだ、カナはそれを受け入れてくれて、わざわざ引っ越しまでしてくれて、部屋までくれた。それに衣類や道具なんかも買ってくれて、化粧の仕方なんかも教えて貰って凄く助かった。引っ越した後も、家具を買ってくれたり、2人で過ごしやすいようにソファーなんかも買って、食器や小物なんかも全部買ってくれた」
「ちょっと待ってくれ!それは全部2人で住むには必要な事で、買わないと始まらない、だから買ったんだ。それにそんな事は気にしなくていいって、何度も言ってるだろ?」
「物だけじゃない、カナは俺が住みやすいように、余計な事は気にしなくていいように、いつも気を使ってくれた、俺は只、カナに甘えて任せていれば良かった。今回みたいな旅行も連れてってくれて、……気を使って言わなかったけど、この旅館、この部屋、凄く高かっただろ?流石に俺でも分かるよ」
「それは……でも俺はただノブが気を使わなくて良いように、ただ、楽しんでのんびりして貰えるようにしてるだけで、そんな貸しにしているつもりなんてない!」
「カナ、お前には無くても俺はそう感じてる、だからずっと考えてた、この借りをなんとか返したい、と。なんでカナがここまでしてくれるのかは分からないけど、純粋に、ただ恩返しがしたいって。色々考えたんだ、だけど、この旅行で分かった、ここまでされて、俺には貯金も大して無いし、何か物で返す術が無いって、だから、もう俺にはこの方法しか思い付かなかった」
「ノブ……」
信親をそこまで追い詰めてたなんて、俺は気付かなかった。
ただ俺は、無邪気に信親の役に立ちたい、余計な事に気を使って欲しくない、快適に過ごして欲しい。
それしか考えてなかった。
でも俺はバカだった。それは何処まで行ってもただの自己満足で、そこには信親の気持ちが抜けていたんだ、俺はそれに、今気付かされるなんて。
信親はプライドが高い、だから親友という関係で対等を求め、俺が上回れば信親も努力して追いつく。
そんな性格だったから小学生から今まで切磋琢磨して続いてきたのだ、俺はそんな事も忘れてしまっていた。
それを忘れ、"気にしなくて良い"という事は、信親から見れば一方的に施されているうような状態だ。
信親ならそれを良しとしないのは考えれば分かる事だ。
そういえば家を借りた時、月1万だけど出すと行っていた、あれだって、信親なりの借りの返し方だったんだろう。
その時は信親の性格を理解して受け取ったはずなのに、それ以後は全て"気にしなくて良い"、と言って受け取っていない、借りは貯まる一方だっただろう。
信親は何とか返したいと思っている事は気付いていたはずなのに、俺はそれを見て見ぬ振りをしてずっと続けていた。
そして、こんな手段しか無い、という所まで俺が追い詰めてしまった、全て俺の責任だ。
しかし俺が、それこそ此処で"気にしなくて良い"なんて言っても、信親は納得しないだろう。
でも、これだけは駄目だ!こんな事をして欲しくて俺はしてきたわけじゃない!
「俺は女として魅力が無いかも知れないし、元男だから気持ち悪いかも知れない、だけどコレしか無いんだ、カナ、頼む、俺を抱いてくれ」
「ノブは魅力的だ、元男とか関係無く。だけど、ノブ、駄目だ、それだけは駄目だ、もっと自分を大切にしてくれ……。俺はノブにそんな事をして欲しくて今までしてきたわけじゃない、ただノブに──」
「カナ、……どうしても駄目か?抱いてくれないのか?」
「駄目だ、他の事ならなんでも聞いてあげられるけど、それだけは駄目だ」
「そうか……」
信親は深くため息をつき、ひどく残念そうな顔をした。
「カナが抱いてくれないならしょうがない、この身体を売って、お金でカナに返すよ」
「!!!!」
今、信親はなんと言った?身体を売る?それで返す?
信親の性格から、信親本人が納得するまでは借りを返し続けるだろう、それはつまり、それまでずっと身体を売り続ける、という事だ。
その絵が頭に浮かび、心が強く締め付けられ、頭を鈍器で強く殴られるような、そんな感覚だ、やめてくれ……信親。
「そんな……ノブ……やめてくれ、そんな事はしないでくれ……」
俺は涙を流し始めていた、お願いを聞いてくれない親を前にした駄々っ子のようになっていた。
「じゃあカナが抱いてくれるのか?」
「……そ、それは……」
俺は信親が好きで愛している、だけど身を引いたんだ、信親に手を出すことは許されない。
だけど……こんな二者択一を迫られたら、選択肢なんて無いじゃないか……。
「……ノブ、1度抱けば良いんだな?」
「いーや、俺が借りを返したと思うまでだ」
衝撃を受ける、でもこれは信親の性格から想像出来た答えだ。1度で返せるならもっと別の方法があるだろう、だけどこの方法をとったという事は、何度も抱かれる、そういう考えだろう、と。
しかしだからといって、簡単には納得出来ない、俺は信親を穢したくない。
これが信親でなければ、昔の俺なら、何も悩まずに済んだのに。
「ノブ……本気なんだな?」
「ああ、本気だ。カナ、こんな形だけど、借りを返させてくれ」
信親は本気だ、覚悟も決まっているようだ。
それならば俺も、覚悟を決めるべきだろう。
俺は信親を愛している、信親の為ならなんでもしてやりたいと思っている。
信親が本気なら、俺はそれに応えるしか選択肢は無い。
深呼吸し、呼吸を整える。
俺の覚悟も決まった。やるからには、全力で応えるのみ。
「分かった、ノブを抱く」
「ああ、……頼む」
信親はコクリと頷き、服を脱ぎだした。
◇◆◇
信親が服を脱ぎ始め、肌が露わになっていく。
信親は本当に綺麗だ、心からそう思い、思わずゴクリと唾を飲む。
ブラとパンツを脱ぐ時は少しの躊躇があったが思い切って脱いだ。
どうやら、あそこの毛は生えていないようで、それがまた綺麗さを際立たせている。
「綺麗だ、ノブ」
「あんまり見るな」
恥ずかしがっている信親も可愛い。
「カナも早く脱げよ」
「分かった」
俺は手早く脱いだ、とっくに臨戦態勢になっているソレに信親の目は釘付けになっている。
「カナお前、そんなだったのか……流石のデカさだな……」
「良いんだぞ、ここでやめても」
「は?いや、止めねえから」
「ノブ、こういうの、初めてか?」
信親は赤くなって応える。
「男の時も含めて、初めてだ……だから、優しくしてくれよな……」
「安心しろ、ちゃんと優しくするし、気持ち良くしてやる」
「ああ、頼む」
「今日は俺のいう通りにしていれば良いから、気楽にしてくれ」
「ノブ、最後の確認だ、本当に良いんだな?今なら無かった事に──」
「頼む」
「……分かった」
俺が20台前半までで培ったテクニックの全てを持って信親を気持ち良くさせた。
初めてでもイケるよう、細心の注意を払い、イカせた。
これは信親の借りを返す行い、だけど信親にもちゃんと気持ちよくなって欲しかった。
やらなくちゃいけない事なら、信親にはこれ以上嫌な思いさせたくない。
信親はよほど気持ち良かったのか、2回目3回目とおねだりしてきた。
俺だって、信親を愛しているんだ、こんな形になってしまったけど、抱ける事そのものは複雑な気持ちだけど、それはそれとして嬉しい。
それに俺自身も、信親がとても良すぎて、初めて味わうような気持ち良さだった。
今まで何十人と相手してきたけど、こんなに気持ち良い事は無かった、俺で無ければそれだけで信親の虜になっていたかも知れない。
まあ俺はとっくに信親の虜なのだけど。
「こんなに凄いなんて思わなかった」
「俺も此処まで気持ち良いのは初めてだ」
「……そんなに良かったか?俺」
「ああ、最高だった」
「良かった、これでいまいちって言われたらどうしようかと」
「安心しろ、これなら直ぐに借りを返し終わるさ」
「……それを決めるのは俺だ」
「そうだな、すまん」
「一応言っとくと、別にカナの事を好きになったとかじゃないからな、そこは安心してくれ」
「……ああ、分かってるよ」
安心……か、……今のは信親なりに気を使ったのだろうか、だとすれば最悪だ、俺の心にクリティカルヒットした。
もしかしたら俺の事を好きになってくれて、それでこんな事を言いだしたのかと僅かでも思ってしまった自分を殴りたい。
気付くと信親は俺の隣で眠っていた、やはり疲れていたのだろうか。
俺はあらためてこの夢のような光景を見て、深い後悔と僅かな喜びを抱き、眠りについた。
◇◆◇
朝、目を覚ますと隣にはまだ信親がいて、寝息を立てている。
昨晩は夢じゃなかったんだな、と実感すると、俺はなんて事を、と自己嫌悪に陥ってしまう。
こんな事をさせるまでに追い詰めてしまった事を、それに気付かなかった自分の不甲斐なさを。
お陰で取り返しのつかない事をしてしまった、愛する信親を自ら穢してしまった。
もっとバランスを取っていれば、一方的に押し付けるような事になっていなければ、こんな事にはならなかったのに。
後悔と自己嫌悪ばかりしてしまう。どう信親と顔を合わせれば良いのか。
「おはよ、カナ!なんか元気じゃなさそうだな……あっ、こっちは元気じゃないか~、ん〜?」
「ばか、これは生理現象だ、そういうのじゃない。ってお前だって知ってるだろうに……おはよう、ノブ」
信親と目が合わせられない、俺には笑顔が眩しすぎる。
信親が裸のまま立ち上がり、伸びをする。朝の日差しが美しい裸体を際立たせ、黒髪が煌めき、女神かと思うほどに綺麗だ。
「なんか、……まだ此処に居るみたいに感じるな、……あ!か、軽くシャワー浴びてくる、カナも浴びたら朝食だな!」
「ああ、朝はレストランでブッフェ形式のバイキングだ」
「この旅館のだから豪勢だろうな、楽しみだ!」
信親は下腹部を擦りながらそう言い、慌ててシャワーへ向かっていった。
信親は表向きには全く昨夜の事を気にしていないように、むしろあえて元気に振る舞っているようにすら見える。でもなんとも無いって事はないはずだ、俺に気を使ってそうしているだけだろう。
入れ替わりでシャワーを浴び、身体の汚れを落とす。
今日どうするかを聞いたら午前中はのんびりしたいという事だった。
レストランに行き、朝食をとる、信親が美味しい旨いと喜んでくれて俺も嬉しい。
最近の信親を見ていると、なんとなく精神状態も若返っているような気がしてくる、俺と同じ30のおっさんがこんな言動をするだろうか?と思うような事が増えて、俺も若い娘を相手しているような気になってくる。
それ自体は悪い事じゃない、でも、出来れば芯は親友の信親のままで居て欲しいと願うのはわがままだろうか。
◇◆◇
信親と一緒に部屋に戻ると寝室の布団は新しい物に変わっていた、流石高価なお部屋。
信親を見るとタオルを取り出し、縁側の扉を開けた。
「なあカナ、一緒に露天風呂入ろうぜ、嫌なら……分かってるな?」
「まじかよ……分かったよ」
おかしいな、俺は貸しをつくった側で信親は借りを返す側、俺のほうが立場は上のはずなのに、信親のほうが切り札を持っていて、俺は逆らえない。
別に信親のやりたい事をやらせてあげたい俺からすればそれは問題じゃないけど、こういう事になるならちょっと困る、俺の決心が、スタンスが、信親との向き合い方が揺るぎかねない。
露天風呂は自宅の風呂と違い、2人で入っても十分余裕がある作りだ。
朝から露天風呂と考えれば十分な贅沢と言えよう。
さらに信親のような美少女と混浴なんて、こんな機会は中々ないだろう。
「カナはこっちに座ってな、足を広げてくれ」
「あ、ああ、こんな感じか?」
「そうそう、で俺がこう間に入る、と」
「おい!こんなに広いのにそんなに密着しなくても良いだろうに……」
信親は俺の足の間に入って、俺の胸板に背中を預けてきた。
だけど、信親の安心するような、心地よさそうな顔を見ると文句も言えなくなった。
「はー、落ち着くなあ、それになんか安心するな。……なあカナ、昨日の温泉に入った時さ、思ったんだよ、幾つも温泉があって、楽しかったけど、1人だとなんか物足りないなって、それってさ、コレだったんだなって、今分かった」
「家だと風呂は別だけどな」
「うるさいな、良いんだよ。露天風呂で肌を合わせてさ、人肌と風呂の暖かさを同時に感じて、身体と心の芯から暖まる感じ、カナはしないか?俺はするけど」
「うん、ノブの言いたい事分かるよ、この景色に風呂と人肌、落ち着くし暖かくなる、うん、確かに」
「まあカナはそんな事言いながらしっかり硬くなってるけどな」
「おい!折角良い感じだったのに水を差すなよ、しょうがないだろコレは、それに俺から手を出すつもりは無いから安心しろ」
「ふふ、分かってるって、そんじゃ借りを返そうかな」
「お前それ……はぁ……分かったよ」
露天風呂で貸しを返してもらった。
当然しっかり感じさせて天国にイカせた。
俺の最後の一線、それは唇、キスだけはしていない、そこだけは、俺が奪うわけにはいかないと思うから。
信親が俺の事を好きならともかく、そうじゃないんだから、そこは俺なりのケジメのつもりだ。
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