11.温泉旅行に出発
あっという間に3連休初日の朝を迎えた。
昨日は寝室で準備した荷物をキャリーバックに詰め込んでいるところを加那多に声を掛けられた。
「やけに上機嫌じゃないか、そんなに喜んで貰えるなら俺も嬉しいけど」
「まあな、そもそも旅行自体が何年ぶりかって感じだし、温泉に露天風呂だぞ、身体がふやけるまで入りたいくらいだ、ありがとな」
「お、おう、俺も楽しみだ」
「んじゃ俺は運転するから早く寝るよ、お休み」
「んー、おやすみー」
俺も忘れ物が無いかチェックして、話し相手も寝てるし、眠りについた。
んでまあ、ちょっと前に起きたんだけど、楽しみ過ぎてテンションが上がってるのか早く起きてしまった。
そして目が冴えてて中々眠れそうにない。
だから横になってぼんやりと考え事をしている。
此処の所、俺の機嫌が良かったり、喜んでいると、加那多も嬉しそうにニコニコして上機嫌になる。
俺に気を使ってくれているんだろう、相変わらず仕事は決まりそうにないし。
加那多は仕事帰りで疲れているにも拘わらず仕事探しでの俺の愚痴を聞いてくれる。
そしてノブなら大丈夫だ、って元気付けてくれて、だから明日も頑張るかって思える。
たまに揶揄ってきたりもするけど、そういうじゃれあいは必要だと思う、気が紛れるし。
加那多は本当に良いヤツだ、親友で良かったと思う。
それに顔もスタイルも格好良い方のはずだ、実際学生時代からモテていたし、女性不信が深刻化するまでは彼女もいたし、フリーの時はそれなりに遊んでいたようだし。
今思えば遊んでいたのも女性不信の裏返しみたいなもんだったのかなあ。まあ彼女出来た事のない俺には分からないけど。
一応擁護するなら彼氏持ちの女には手を出さないとは言っていた。フリー同士だから問題無いと。
それも社会人になって結婚する、とまで決めた女性に浮気されて、そもそも女性と遊ぶ事も止めてしまった。
仕事や付き合いである程度は相手するけど、プライベートの部分では一切関わらないようにしていたらしい。
それが、女の俺を受け入れて、引っ越すまでに至るなんて、加那多に相当な負担を掛けている事は容易に想像出来る。
本当、返すのは大変だぞ……。
◇◆◇
「おい、朝だぞ、起きろー、飯出来てるぞー」
「ん……ん?」
いつの間にか眠っていたらしい、身体を起こし伸びをする。
「早く準備して来いよ、待ってるから」
「分かった、待っててくれ」
ちょっと前から食事は出来るだけ一緒の時間に取ろう、という事に決まった。
まあ片付けとかもあるし、何より1人で食べるより2人で食べたほうが楽しいし美味しく感じられるしな。
元々2人で食べる事が多かったけどこのルールが出来ていつも一緒の食卓になった。
そして食事中にTVやスマホをいじるのは当然禁止、と。
手早く顔を洗い、最低限の身だしなみだけはチェックしてダイニングへ向かう。
ダイニングにはエプロンをした加那多が座って待っている。
「お待たせ、結構待ったろ」
「いや、いま来たとこ」
「デートかよ!……んじゃあ、いただきます」
「いただきます、それにしても珍しいな、ノブはいつもは俺より早いのに」
「いやー楽しみすぎて早く起きすぎた」
「あー、2度寝しちゃったか」
「まあそんなとこ」
食後はお出掛け用の準備をして、忘れ物が無いか再確認。
今日の服装は前回に引き続き加那多の趣味に合わせたシンプルで爽やかな清楚風スタイル。
黒髪ロングストレートに薄い水色のシャツワンピース、うーん、清楚。
信親が見惚れているのがよく分かる。
「どうだ?」
「綺麗……綺麗だし可愛い」
「っぱ俺は美少女だよな」
「そうだな、見た目だけは清楚系美少女、だな」
「はあ?中身も清楚だろー?」
「中身おっさんが何言ってんだ」
「ちぇー」
「良いから行くぞ」
さあ、加那多の車に乗り込んで出発だ!
◇◆◇
高速道路に乗って長時間、途中でサービスエリアに寄って少し休憩したりして、なんとかお昼すぎに到着した。
昼飯は現地で食べたいよね、という事で探し中。
手打ちそばが食べられるという名物料理のお店に入り、ざるそばと天ぷらの定食を頼んで食べる。
うーん、天ぷらが美味しい!加那多も天ぷらが旨いと言っていてご満悦のようだ。
天ぷらなんかの揚げ物は当然まだ俺には作れないし、そもそも加那多も揚げ物はフライパンで揚げられる程度の物しか作らないらしい。
なので殆ど作ったりせず買ってきた物になるんだけど、やっぱり買ってきたものだとしなってて少し残念になる。
というわけでやっぱり揚げ物は揚げたてが一番だな、という感想だ。
お腹も満足して、次は何処に行こうかとお店で話し合う。
まだまだチェックインには早いし、色んな所を見てみたい。
定番の足湯も行きたいし、道の駅も回ってみたい、観光地も見てみたいし、今日と明日で回るか。
いっその事そこそこに回って旅館で温泉に浸かりながらのんびり過ごすか。
加那多はリラックス出来るようにのんびり過ごすのが良いんじゃないかと言う。
どうするにせよ、俺の気分転換が目的だから好きなようにすれば良いと言ってくれる、合わせる、と。
なんだか合わせて貰って悪いなあ、なんて思いながらも適度に回って適度にのんびりしたいと思う。
そう考えると、名物の食べ物食べて旅館でのんびりするのがが良いバランスだろうか、後は少し観光名所を見るくらいかな、正直、観光名所はよっぽどじゃないと見てもなあ、なんて思ったりする。
「こんな感じが良いんだけど」
「つまり良いとこどりだな、良いんじゃないか。俺も頻繁に移動するの面倒くさいし」
「じゃあまずは足湯行きたい、次になんか食べるもの」
「分かった、じゃあ出ようか」
こっちに着く前に車の中で少し口論があった、何かというと、こっちでの勘定は全部加那多が持つと言うのだ。
なので俺はそれは駄目だと言ったのだけど、加那多は俺が誘ったし、ノブにはこっちでは何も気にせず過ごして欲しい、という思いがあるらしかった。
それに加えて、若い女の子に払わせるのは余りにもみっともなく見える、と、それには確かに、と納得した。
だけどそれじゃ俺の気が済まないので、自分の分は自分で出す、という事で少しの口論へ。
結果的には旅行や旅館での費用と各食事や食べ物代は加那多が、それ以外は各自で、という事になった。
なのでここの食事代は加那多が払う。
それでもバランスは非常に悪いけど、頑として加那多が譲らなかったからしょうがない。
なんというか、加那多は俺に楽しく、ストレス無く過ごして欲しい、という思いが俺の想像より強くあって、その為に旅行に来たのだ、と言われたら、俺も強くは出られなかった。
そして口癖のように言う、「俺がしたい様にしているだけだから、気にするな」と。
いや無理だからな?子供ならそれで納得するかも知れないけど、曲がりなりにも俺は30で分別を持った大人だったんだから。
それに親友なんだぞ、対等な関係のはずじゃないか。
そういうわけで此処の料金は加那多が払う事に。
先に店の外に出て、出てくるのを待つ。
加那多が会計を終わって出てきたので、満面の笑みで、出来るだけ可愛く迎え、そしてお礼を言う。
「ごちそうさま!天ぷら美味しかったな!」
おや、加那多からの反応が無い。
口を押さえてそっぽを向くとはどういう事だ。
「ゴホン、ん、ああ、気にするな」
何か食い物が喉にでも詰まったのか?少し顔が赤いし、気をつけろよな。
そして足湯に。
靴と靴下を脱いで足湯に浸かる。
あ~、これ気持ち良いかも~、足だけ浸かるってこんな感じなんだな~。
足を上げて、指を閉じたり開いたり、足の指をストレッチするように動かしていると加那多がジッと俺の足の指を見ていた。
「ん?どうした?」
「……ん!?あ、ああ、あー、うん、それさ、俺がやると指つりそうだなーと」
「あー、これなー、確かに男の時だと俺もつると思う。でも若いって凄いな、凄い余裕だよこれ」
そういってぐっぱぐっぱと足指を閉じたり開いたりして、器用さを加那多に見せつける。
何故か加那多は視線を逸らした。
「あー、ノブ?あんまりそういう事はやらないほうが良いと思うぞ、……なんか、こう……うん」
「なんだそりゃ、……まあ確かに足湯だしな、バチャバチャやってると迷惑か、だな!」
「ああ、そうしてくれると助かる……」
そうだな、年甲斐も無くはしゃぎ過ぎて回りがちょっと見えなくなってたな、うん、いい大人が迷惑を掛けたらいかんな。
足湯を上がった俺たちは次に名物の温泉饅頭とか温泉卵なんかを食べ歩いて時間を費やし、旅館にチェックインした。
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