9.信親へのスタンス
──加那多 View
俺はあっさりと信親に振られた。
いや、状況が良くなかったし雰囲気も良くなかったのは分かってるし、いきなり結婚しようも無い。
だけど抑えらなかった、胸に秘めるはずが、いともあっさりと決壊した。
信親が綺麗すぎて、余りに俺の理想の美少女すぎて、我慢出来なくなってしまった。
手を握られて、まるで恋愛慣れしていない中学生や高校生のようになってしまった。
信親の煽りも半分程度しか聞こえて無く、抑えられずに暴走して信親を抱き締め、告白してしまった。
その後は何とか正気を取り戻し、煽りへの仕返しって事にして事なきを得た。
今思い出してもとんでもなく恥ずかしいし、振られた事のショックが俺の心臓に突き刺さる。
だけど分かった事は、やっぱり信親の心は男だったという事だ、俺は恋愛対象じゃないという事、……う……今でも思い出すと心が痛い。
◇◆◇
1週間前──
振られた後、信親が意識を失い倒れかかったので身体を支え、お姫様抱っこをする。
ベッドに運ぶ時に信親から漂う香りが鼻孔をくすぐる、凄く良い匂いがする。
これが若い女の子の体臭で、信親の匂いなのだろうか。
よくよく嗅いでみると、時々信親が通り過ぎた後なんかに香る匂いだ。
そのまま身体に顔をうずめて堪能したい。
そんな邪な思いが浮かんでくるけど、振り払う。
ベッドに寝かせて部屋に戻りソファーに座って、これから俺はどうするか、考え、そして結論が出た。
俺は信親が好きだ、愛している。
さっきは勢いで結婚しようと言ってしまったが、そこだけは自信がない、女性不信というトラウマ、付き合うという事を意識したら、身体が勝手に反応して、悪い想像ばかり浮かぶし、嫌悪感や拒否感が出る、そんな状態で信親と付き合う事が出来るかどうか。
でも振られた。お陰で今後は付き合うとか考えなくても良い、ある意味スッキリした。
俺は信親の為ならなんでもしてやりたいと前以上に思っている。
信親が俺の事を好きじゃなくても、それでも良い、俺は信親のその感情を素直に受け入れる。
好きだという俺の感情は隠して、ただ、親友という形で支えてやりたい、力になりたい、求める事を叶える手助けをして、俺を選ばなくてもいいから、幸せになって欲しい。
でも一つだけわがままを言わせて貰うなら、まだ暫くは俺と一緒にいて欲しい。
1年とは言わない、半年で良い、2人一緒に居る時間を沢山作りたい、俺は今の、女になった信親との思い出が欲しい。
本当は何かプレゼントもしたいけど、それは難しい。
気にしなくてもいいと何度も言ってるのだが信親は俺に沢山の借りを作っていると思っているようで物だと受け取ってくれないと思う。
だから、これからは一緒に何処かに出掛けたり、理由を作って旅行なんかも行こうと思う、これなら断りにくいだろうし。
◇◆◇
今後の俺の方針は決まった、だがまだ振られた事のダメージが回復したわけじゃない。
その後信親が起きて一緒に買物に出掛けたわけだが、俺は少しだけいつもより信親と距離を取っている。
といっても普段より10センチ程度の距離感なんだけど、これが結構遠いと感じる。
でも今の傷心状態の俺にはこれでもまだ近いかもしれない。
なんとなく信親も俺と距離を取りたがっているように見えた、やはり午前中の行動が悪かったんだろうか。
駅近くの家具屋に寄りたいのだけど、駐車場が空いていない、探し回るのに信親を突き合わせるのも悪いという思いと共に今なら距離を置いて、お互いに気分をリセット出来るんじゃないかと思った。
だから信親を降ろして先に行って貰い、駐車場を探す間に心を落ち着けよう。
なんとか駐車場に停めて、家具屋へ向かう、店から見て駅の反対側に停めてしまったので結構な距離だ。
心?まあそんなに直ぐリセットされるわけないよな。
途中で偶然、本当に偶然、ナンパ野郎2人に囲まれている信親を見つけて、急いで向かい、助けた。
本気で殴り合いをしたい人間などそうそう居ない、しかし今の俺は信親を助けるためならなんでもやる怖い物知らずだから、相手もそれを感じたのか逃げてしまった。
その時、助ける為とはいえ、"俺の女"といってしまった。
良い響きだ、"俺の女"、もっと言いたかったけど、後でなんて言われるか分かったものじゃない。
なんとか助け出す事は出来たものの、ノブも相当なショックを受けたのかしゃがみ込み目が虚ろになっていた。
俺もしゃがみ、肩に手を掛け、声を掛ける。
何度か呼び掛けると顔を上げて俺を見て、手を伸ばしてきた。
俺は安心させたくて手を握ってやり、もう大丈夫だから、と声を掛けた。
信親は握られた手を見ていたが、それを抱え込むようにしてから俺の手に頬ずりしだした。
その時は戸惑いもあったが信親の表情がいつものように明るくなって、"俺の女"発言に突っ込まれて、信親が元気を取り戻す助けになれて嬉しかった。
信親は立ち上がり、感謝の後、恐怖を思い出したのか涙を流していた。
泣いている女性を、いや信親をそのままにさせるわけには行かないので安心させたいと強く思い、優しく抱いた。
信親も抱き着いてきてドキリとする、心臓が跳ね上がる、俺の鼓動が、気持ちが、伝わってしまわないだろうか。
傷心は治らないけど、心のモヤモヤは解消されていて、スッキリしていた。今までのように信親と向き合えると思った。
俺たちの距離は少しだけ以前より縮まり、信親の希望により、その日はずっと離れずに側に居た。
◇◆◇
そして現在、今度の3連休に旅行にでも行けないかと1人で悩んでいる。
今からだと空いている所も少ないと思うが何処か良い所はないかと色々吟味している最中だ。
今の信親は若いから大型のアミューズメントパークでも違和感なく遊べるから選択肢にもなるし、性格からすると温泉なんかも好きそうだ、楽しく騒いでも良いし、静かに落ち着いても良い、うーん、若いって無敵だな。
俺はどんな所だろうと信親に合わせて行動するし、付き合う予定だ。だから俺の事は良いんだ。
今の信親が行きたい所かあ……どうなんだろうな、仕事探しはしてるみたいだけど上手く行ってないみたいだし、騒ぐよりも温泉旅館とかで静かに気分転換が良いかもしれないな。
誘う理由も仕事探し疲れの気分転換って事にすれば良いし。
そう思い手頃な旅館が無いかと探していると丁度良さそうな温泉旅館があった。
それなりの部屋なら露天風呂もついていて結構豪華に見える。
温泉もあるし部屋に露天風呂もある、2泊3日なら良いんじゃないだろうか。
距離もそこまで遠くなくて、チェックインの前にも観光したり名物料理を食べたり、適度にぶらつけるし、帰りも余裕を持って帰宅出来る。
良し!今日の夜にでも聞いてみて、OKなら予約をしよう。
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