3.女物の買い物
──加那多 View
妹を拾いに実家近くの駅へ俺の車で向かう、助手席には信親が居て、何処に行くかも何をするかも教えていない。
「こっちは俺とカナの実家のほうじゃん、何処に連れてくつもりだ?」
「良く分かったな、ノブの実家だ。今からノブのご両親に娘さんを下さいって挨拶にな」
「は!?おい嘘だろ、そういうのは無しって話じゃなかったのか、それにカナでも無理だぞ!無理!降ろせ!」
俺の説明を聞いて暴れるノブ、まあ冗談なんだけど、俺も結婚とか考えたくも無い。
「落ち着け、冗談だよ冗談、ノブの実家には寄らないから安心しろ。ちょっと拾い物をしにな」
「……本当に冗談なんだろうな、俺の実家に近づいたら逃げるからな!」
「大丈夫だって、まあ、ノブも会うのは久しぶりかもな」
そう言ってノブの頭にポンと手を優しく置く。
「……頭触んなよ」
「ノブが小さくなって頭に手を置きやすくなったからかな」
「お前なあ……子供じゃないんだぞ」
そう言って手を払い除けるノブ。
以前なら気安く肩組んだりや肩や背中にポンと手を置いたものだが、払われるなんて少し寂しいじゃないか。
「いや子供だろ、16才なんだろ?」
「肉体年齢はな、心はお前と同じ30のおっさんだからな!」
「そうじゃないと俺が困る、セクハラになる」
「いやセクハラだろ、ああ、セクハラだ」
「なんだよ、別におっぱい触ろうとしてるわけじゃないから良いだろ、前みたいに肩と背中に手を掛けるのと同じ感覚だぞ」
「カナ、お前な、16才の肩や背中や頭を簡単に触れると思うなよ、高くつくぞ~」
「いやマジでセクハラとかそういう気持ちじゃなねえから、な、ノブ」
「……しょうがないな、多少のお触りは許可してやるか、親友同士だしな」
流石ノブだな!慈悲に溢れてる。
「じゃあ早速……」
モミモミ
あー、うん、やっぱデカい、そして若くて張りを感じる柔らかさだ、良いね。
触ってると運転に集中出来なくなりそうなくらい良い触り心地だ。
「!?──じゃあ早速、じゃねえ!何普通に胸揉んでんだ!!」
「ああ、ごめんごめん、背中と間違えた」
「背中ならしょうがないか、じゃねえ!このデカさで間違えるわねえだろうが!」
「そんな怒んなよ、お触り許可くれただろ、それにちょっとしたじゃれ合いだ」
「そこまで許可してない、つか運転に集中しろ、後いい加減に手を離せ」
「へいへい」
なんかこの感じ、学生時代を思い出すな、懐かしい。
これから毎日近くに居られると思うと嬉しくなってくる。
「お前の何処が女性不審なんだよ……てか何ニヤニヤしてんだ」
「いや、このやり取りの感じ、昔を思い出して嬉しくてな。それにこれは親友同士のじゃれ合いだ、他のやつにはこんな事しない」
「当たり前だ!警察沙汰になるわ!……まあ確かに学生時代はこんな距離感だったな、……はーぁ、そんな事言われたら怒れないじゃん、ほんと、そういうとこ卑怯だよな……」
卑怯と言われてもな、正直な気持ちだからなあ、本当、学生時代に戻りたいよ。
それに俺は信親が本気で嫌がってる事はしたくないとも思ってる。ずっと親友で居たいから。
「でもノブ、本気で嫌だと思ったらちゃんと言ってくれよ、俺はノブとの関係をギクシャクさせたくないからな」
「分かってるって」
俺とノブの関係は基本的に俺がノブを揶揄ったり、おもちゃにしたりが多かったけど、やり返されたりもして、本当に仲が良かった。
肩を組んだりなんかのスキンシップも多くて一部女子からは色々噂されたりもしたっけ。
またあの時のように戻れたら良いんだけどな。
そんなこんなで駅についたのでメッセを妹に送り、出てきてもらう。
◇◆◇
「っええええ!!!?本当にノブちゃん!?……めちゃくちゃ若くて可愛いじゃん!羨まし~」
この喧しいのは妹の羽黒 衣吹(はぐろ いぶき)27才未婚、俺の女性不信の一端を担っている浮気性の女だ。
とはいえ、女としてでなく、妹としてしか接してないので兄妹仲は良い。
衣吹も俺が女性不信なのを知っているので女の部分は見せないように努力しているようだし。
衣吹を早々に車の後部座席に乗せ、出発する。
「なんで衣吹ちゃん乗っけてるんだ?」
「言ってなかったか?今から衣吹と服を買いに行くんだよ、ノブの」
「言ってねえよ!てか言え!まじで!」
「これも俺とノブの為なんだ、いいか?お前は今16才だな?」
「そうだけど」
「だろ?俺は30才でお前は16才、一緒に住むとなると、やっぱキツイんだ、世間的にもな、でも30と18ならギリギリセーフだと思わないか」
「うーんうーん、……まあ16才よりは良いか、それでも一回り違うけどな」
「だからお前はもっとまともな服を着てもらって、もう少し年上に見えるようにして欲しいんだ、せめて18才くらいに見えるようにコーディネートしてくれって衣吹にはお願いしといたから」
流石に未成年に見えるのは不味い、って事でせめて外見だけでも18才相応に見えるようにして貰うってわけだ。
で、俺には女子の服選びとか分からんから妹にお願いしたというわけで、もう要点は伝えてある。
下着から何から全部買ってもらう予定だ、俺の金で。
俺の金で、って伝えたら衣吹のやつは大喜びでOKと返事しやがった、ちょっとは手加減してくれよ。
女になった信親に会うのも楽しみにしてたかな、喜んでいるようで何より。
ちなみに"ノブちゃん"呼びは前からだ、今だとしっくりきちゃうけど。
「そういうわけだからノブちゃん、お姉さんが色々見てあげるからねー、女歴何ヶ月くらい?」
「あー、1ヶ月と少しかな」
「じゃあお化粧とかスキンケアも1から教えてあげるね、髪質も凄く良いからそれもかな~、お兄ちゃんを悩殺出来るくらいにしてあげる」
「え?」
「悩殺か、悪くないな」
面白そうなので俺も乗ってみた。
「無いよそんな事!無いから!そういうの要らないから!」
「一緒に住んでるんだよねー?そしたらさ、間違いが起きるかもよ、楽しみだねえ。まあどっちにしてもちょっと大人っぽく綺麗にして18才くらいには見えるようにはしないとね」
「間違い、起きるかもなあ」
「衣吹ちゃん、よろしくね」
あ、信親のやつスルーしやがった。
「財布はお兄ちゃん持ちって話だから遠慮なく選べるね!」
「え?悪いよそれは」
「良いから。ノブ、俺が強制してるんだからこれくらい出させろ、その代わりちゃんと着てくれよ?」
「うーん、そういう事なら分かったよ、でも俺が選ぶからな!」
「ちゃんと大人っぽくて可愛い服選んであげるから期待しててね、お兄ちゃん!」
「そうだな、ちゃんと大人っぽくして目的を果たしてくれたならそれで良いぞ」
「カナが言う大人っぽくって、意味違わないか?」
「大丈夫大丈夫、お姉さんに任せなさい!」
「あ、お、お願いします」
余り女慣れしていないノブは衣吹に押されっぱなしのようだ。
果たして自分の着たい服が選べるか見ものだな、衣吹のペースに呑まれそうだけど。
◇◆◇
季節は秋で、段々と涼しくなってきて、衣替えの時期。
秋物コーナーやら冬物コーナーを後回しにまずは女性下着専門店に入る衣吹とノブ。
ふと思い立ち、衣吹に声を掛ける。
「なあ、俺も付いて行って良いか?」
衣吹は少し考え笑顔で答える。
「うん、良いよ~」
悪い事を考えてる顔をしている。
「いや待て!なんでカナも来るんだよ!」
「良いじゃん、スポンサー様だよ」
「衣吹良い事言うじゃないか、そうだぞ、俺も選んでやるから」
「いやいや!お前が選ぶのはまともなヤツじゃないだろ」
「何を言う、ちゃんとノブの事を考えて選ぶに決まってるじゃないか」
「カナは絶対エロさ優先で選ぶだろ」
「ちゃんとしたやつ選ぶって、まあ気に入らなかったら付けなきゃ良い」
「……いやダメだろそういうのは、買ってもらったのに悪いだろ」
「ノブ……」
本当にノブは律儀で優しいやつだ、良い奴だなあ、おかげで俺におもちゃにされがちだけど。
「ちょっと~、まだサイズも測ってないのにイチャイチャしないでくれるかな?ほらノブちゃん行くよ!」
おっと、信親姫は衣吹に連れ去られてしまった。
……今は本当に女だから冗談になってないな。
その後、Gカップだという事が判明した、デカすぎだろ。
身長が152センチで胸がG65、トップは90とは衣吹情報だ。これがトランジスタグラマーというやつか、あれ?足が長くて小顔なのは違うんだっけ?まあいいや。
とにかく男受けするスタイルだと思うぞ。
んでノブは俺が選んだスケスケ下着や紐のような下着を尽く却下した。
衣吹にお気に入りを幾つか渡してこっそりと購入させたけど。
◇◆◇
「そろそろお昼にしようか、昼も俺の奢りだから安心してくれ」
「やったー、お兄ちゃんの奢りかあ、何食べようかな」
「ちょっと待ってくれ、流石に昼飯まで奢ってもらうのは俺が気まずい、服も、服選びも、移動も全部頼りっきりなのに何も出さないとか、逆に俺が苦しいからせめて昼飯は俺に出させてくれ」
信親の気持ちも分かる、今日は全部俺たち兄弟におんぶに抱っこになっている。
親友としては何かを返してバランスを少しでも取りたいという気持ちなんだろう。
「そうだな、じゃあ昼飯はノブの奢りな」
「ノブちゃんの奢りね!何をご馳走になろうかな」
パスタと本格ピザのイタリア料理店がお昼になった。
ここでは昔話が花を咲かせて盛り上がり、俺たちの長い付き合い(もう20年になるのか…)を振り返り、そしてまたこんな形でも一緒に居られるようになった事を噛み締めた。
信親の仕事……決まっても一緒に居られれば良いんだけど。
まあそういうわけにも行かないか、信親の人生があって、恋愛して結婚なんかもするだろうしな、俺のわがままを通していい事じゃない。
信親の仕事が決まって出ていく迄の間だけでも、学生時代のように一緒に居られる事を楽しむとしよう。
◇◆◇
上着に関しては完全に衣吹に丸投げした。
女性の服はトータルで見るものらしいからな、俺が口出ししないほうが良いだろう。
案の定着せ替え人形の様になっていたけど、衣吹はもちろん、ノブも段々と乗ってきて、満更でもなさそうで良かった。まあ元が良いからな、少し胸が大きすぎてそこは苦労してたけど。
時々「お兄ちゃんが」とか「カナは」という単語が聞こえてくる、何を話しているんだ全く。
これを機に綺麗な服や可愛い服を着る事に目覚めるかもな。
まあ顔とスタイルは良いんだし、慣れれば何でも着こなしそうだ。
更に髪留めなどの小物から小物入れやバッグなども購入し、想像していたよりも出費が大きかった。
やっと終わったか、と思っているとまだ終わりじゃなかった。
次は化粧品やスキンケア用品など、シャンプーやコンディショナーなどなど。
全てが終わった頃には信親は当然の事ながら衣吹も疲れ切っていた。
流石に一日で全てを揃えるのは大変だったようだ。
「衣吹、今日は助かったよ、ありがとな、また相談するかも知れないけど、その時はよろしくな」
「衣吹ちゃん、今日はありがとうね、分かんない事あったら聞くから」
「うん、任せて。何でも聞いてね」
実家まで送り、衣吹を下ろして別れの挨拶をする。
「それじゃあまたね、お兄ちゃん、ノブちゃん。──2人はお似合いだからね!」
「衣吹ちゃん!何言って……!」
そう言って家の中に入っていった。
衣吹のやつ適当な事を……。
「はは、お似合いだってさ」
「30と16でお似合いも無いだろ、ほら、行くぞ」
「……そうだな、傍から見たらロリコンと哀れな美少女だもんな」
「ノブ、お前なあ……」
「んだよ、事実だろ」
本当に衣吹は余計な事を言ったなあ。
「少しでもそう見えないように今日色々買い物したんだろ、早く乗れ」
「へいへい、まあ時間は有るし色々勉強しますかね」
俺たちは帰路でも色々話しながら自宅へと帰った。
荷物を全部下ろすのに車と部屋を何往復もして、そして置き場に困る事態になった。
買ってきた服を広げる事も出来ない状態になっていて、次の金曜まで我慢するか、という話に落ち着いた。
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