2.引っ越しと同棲
TS症は性別が変わり、基本的に若返る。
なので病院に行って検査して調べてもらう、〇〇才相当、と。
そして未成年体になってしまったTS症患者は年齢制限に引っかかるようになる。
未成年の身体に悪影響を与えるとされるものはNGだ、主にタバコとお酒などがそれにあたる。
そしてそれが大きく広まってしまった事で世間の認識はTS症患者の未成年体は未成年と同一に扱うようになってしまった。
見た目が未成年なのも大きく影響していて、明らかに若いのが大人と一緒になっているのは周りへの影響も良くない事が多い。
本人は成人だと、認められていると言っても、はたから見れば未成年。
世の中とはそういうものなのだ。
◇◆◇
荷物の引っ越しは週末にレンタカーを借りて加那多に運転してもらう事で解決した。
といっても加那多のマンションも1LDKなので運べる物も少なく、俺も寮で一人暮らし、それに女になってしまって着られる服も少ないし、男服は大分処分してしまっていたので荷物は少なく、一度で運べた。
加那多は行く所があるという事でそのまま付いていく事に。
賃貸マンションなどを扱う不動産検索のお店、そこに入っていった。
どうやら事前に目星を付けていて、目的の賃貸があるみたいだ。
「あそこで2人は暮らせないからな、2LDKを借りる予定だから其処で我慢してくれよ」
「ちょっと待てよ、俺の為に引っ越すなんて、俺は別にあそこで良いんだけど」
「いや、あそこは一人暮らし用の部屋だからな、2人になった以上出ていかないとダメなんだ、それにちょっと考えて欲しいんだけど、30にもなる独身男性の部屋に突然10代女子が出入りするようになったら怪しすぎると思わないか?ノブの面倒を見ると言ったのはそういう事も踏まえてだから」
「……分かった」
そこまで言われては反論も出来ない、確かに急に若い女が一人用の部屋を出入りとか怪しさMAXだし、2人暮らしなら出ていくのも決まりなら納得するしかない。
それに直ぐに俺の次の仕事が見つかるとは思えない。
加那多がそこまで覚悟して面倒を見ると言ったとは思ってなくて、申し訳無くも嬉しかった。
俺だったら相当悩んでしまって直ぐに答えを出せなかっただろう。いや、下手すれば断っていたかも知れない。
「あと、案内の人と一緒に居る時は余計な事言うなよ」
「?……分かった」
何の事かと思ったけど、部屋を見せてもらって加那多と案内の人とのやりとりで分かった。
俺が適当に部屋の間取りなんかを見ていると
「お連れ様お綺麗ですね、娘さんですか?」
「そんなに離れて見えます?恋人なんですよ」
加那多は間髪いれず、即答で答えた。それを聞いた俺は思わず大きな声を出しそうになる。
そして店員さんが疑惑の眼差しで俺を見る、加那多を見ると怖い目つきで俺を睨んでいた、コレは肯定しろ、という事なんだろう、多分何か考えがあるのだろうと思い
「はい、カナとは恋人同士です」
と答えた。
すると店員さんは、そうなんですね、お似合いですね、と無難に流していた。
後で加那多に聞いたところ、俺たちのような年が離れてそうな2人組は要注意人物と見られるらしい。
俺たちは親子ってほどは年が離れて見えないし、答え方によっては対応が変わって最悪貸してくれないとか。
幸い加那多は独身だし、俺はちゃんと答えたし恋人ならまあいいかという事になったようだ。
加那多にはカナと呼んだのは自然で良かったと褒められた。
という事で無事に賃貸マンション2LDK駐車場付きを直ぐに決めた。
内の1部屋は自由に使って良いとの事で、非常に助かる、有り難い。
引っ越しは来週の金曜日と決まった。またレンタカーを借りないとな。
◇◆◇
レンタカーを返却し、加那多の家に戻る。
1週間だけど、お世話になる部屋だ、うん、2LDK見た後だとやっぱ狭いな。
「なあカナ、新しい部屋だけどさ、俺も少し払うわ、毎月1万だけど」
「うーん、……そうだな、別に払わなくても良いんだけど、受け取っとくよ、何も無しだと居心地悪いだろうしな」
「そういうこった、お前のヒモになる気は無いしな」
「それで明日なんだけど、ノブは空いてるよな?買い物に付き合って貰うぞ」
「ん?別に良いけど何買うんだ」
「明日になったら分かる」
「新しい部屋もそうだけど事前に相談とかしてくれよな、急に言われても困るぞ」
「悪い悪い、でもノブは引っ越す事を知ったら反対しただろ、だから言わなかった」
「まあ確かにそうだけどさ、次からは教えてくれよな」
「そうだな、善処する」
「こいつ直す気ねえな」
◇◆◇
晩ご飯は加那多が作り、一緒に食べた。
加那多は両親が離婚し、学生の頃は父と妹と一緒に暮らしていて、家事全般と料理を作っていた。
「やっぱカナの飯は上手いな、これ毎日食えるって結構幸せかもしれん」
「いや、交代でお前も作るんだぞ」
「はぁ?俺料理なんて作った事ないぞ、いつもコンビニかスーパーの惣菜なんだけど」
「大丈夫だ、妹にも教えた経験があるし、ノブにも教えてやる」
「まじかよ……」
風呂の時間、俺の髪は長く、乾かすのに時間がかかるので先に入らせてもらう。
そして風呂上がりに気付く、いつもの癖で下着しか脱衣所に持ってきて無かった事に。
1LDKの部屋には此処かトイレしか隠れる場所は無い、加那多の眼前で服を取り出し、脱衣所に戻って着るしかない。
冷静に考えよう、俺は加那多を親友として見ている。
加那多だって俺の事を親友として見ていて女として見ていない、……ほんとか?
先日に女だからと駅まで送ってもらったばかりだ、親友だけど女としても見ていたわ。
めっちゃ恥ずかしくなってきた、女になって一番恥ずかしい。
は~~ッ、大きくため息を吐く。でも行くしか無い、ずっと下着姿のままここでうずくまってるわけにも行かない。
よし!覚悟を決めた、恥ずかしがるから余計に恥ずかしいんだ、堂々としていれば多分大丈夫なはずだ。
それに加那多は親友だ、何を恥ずかしがる事がある、大丈夫、きっと大丈夫だ。よし、行くぞ。
脱衣所の扉を開け、荷物まで一直線に向かう。
スマホを見ていた加那多は顔を上げ、俺の姿を見てビックリしていたが視線が上から下まで行った後、股間を凝視していた。
めっちゃ見てる!めっちゃ見てる!と思いつつ表には出さず荷物まで歩く、そこは加那多のすぐ隣、まさに目と鼻の先だった。
加那多のすぐ隣で荷物から服を取り出す、その間も加那多に視姦されているかのように視線を感じる。
こいつ見すぎだろ!
「ノブ──」
加那多が俺の名前を呼ぶ声が聞こえたけど、服を取り出し、そのまま脱衣所へ脇目も振らず戻った。
急いで服を来て、呼吸を整える。
ヤバイ、加那多のやつ、俺の身体をジッと見てた。
めちゃくちゃ恥ずかしいし、胸がドキドキして止まらない、そして少し怖かった、襲われるんじゃないか、そんな事を頭がよぎった。
あー、どうしよう、今の状態じゃ加那多の顔が見られない、色々な意味で怖い。
このまま寝るまでの時間を平穏に過ごせる自信が無い。
何かないかと考えて、一つ思いついた。
持ってきたゲーム機で時間を潰そう、と。
そうだそれが良い、あれなら良い感じに時間を潰せるし顔を見なくても済む。
というわけで、加那多が風呂から上がったらゲームの準備するとしよう。
何食わぬ顔で脱衣所を出て、加那多に風呂が空いた事を伝える。
加那多は生返事をしたけど動かない。
そして俺に言った。
「ノブ、いくつか言いたい事がある」
「やめろ」
「まあ聞け、大きめの服を来てたから分かんなかったけど、今日確信した。本当に女なんだな。」
「……は?」
「いや、分かっていたはずだったんだけど、股間の膨らみの無さを見たらな、もう信じるしかないな」
「後は、ノブのスタイルがとんでもないって事だ、胸は大きいし、くびれと腰は細いし、そんで足が長い、スタイルが良いってレベルじゃなくて、見惚れてしまった、もっと自信持っていいぞ」
「……」
「すごく綺麗な身体だった、明日が楽しみだな」
「……」
そう言って満足したのか加那多は着替えを持ってお風呂に入っていった。
なんだろう、すっかり毒気を抜かれてしまった、股間を凝視してたのってそれを確認してたから?
身体は見てスタイルを確認していて、それに綺麗な身体って、そんな事言われた事ないんだけど。
いや、確かに女物が恥ずかしくていつも身体のラインを隠すようなダボッとした服着てたけどさあ。
エロ目線でベタ褒めされてもなあ、まあ少しくらいは嬉しいけど。
それに気になる事も言っていたな、明日が楽しみ?どういう意味だ?
それにしても加那多は女性不信なのにねたは女性ってマジだったんだな。
ちゃんと女性の身体に興味あるなんてな。
なんというか、変わってるな。
……っていうか、俺がそういう目で見られたって事!?
……ヤバイな、ああ、うん、ヤバイ。
キモいと思う、うん、しかしそう思いつつもそこまでの嫌悪感を感じない俺がヤバイ。
まあ男が若い女の身体に性的興奮を覚えるのは当たり前の事だしな、それにおれもおっさんだから気持ちが分かるというか、うん。
でも俺に対してか……まあこれはアレだ、加那多への恩返しって事にしとこう、うん。
そして加那多が風呂から上がり、何か言ってくるかと思いきや全くそこには触れない。
そのほうが有り難いけど。
結局加那多と目を合わせる事が出来ないままな俺は、持ってきたゲーム機を取り出して準備していた。
「これからはノブと毎日顔を会わせるんだな、なんか高校生くらいに戻った気がする」
「そうだなー、社会人になってからは一緒に遊ぶ機会もぐっと減ったしな、2ヶ月に1回会うかどうか、って感じだったな」
「回りも結婚とかしてどんどんと疎遠になってな、友達は続いてるけど寂しい限りだ」
「まあ俺はカナが近くに居て助かったと思ってるけどな」
「俺はまあ、な、正直言うとノブが女になったのが嘘だったら良いのにって思うけどな」
準備していた手が止まる。
「すまん、やっぱ迷惑だったな」
「──いや、ゴメン。今のは俺が悪い、そういうつもりで言ったんじゃ無いんだ。ノブはノブだもんな、親友の信親だ。ゴメン」
「……しょうがない、許してやる、早く俺に慣れてくれよ」
「そうだな」
やはり加那多の心の傷は深く、女を受け入れたくないんだろう、でもこれは慣れて貰うしかない。
俺だってもう住む所も無いし、今頼れるのが加那多しか居ないんだから。
「さて、準備出来たし、久々に一緒にゲームしようぜ」
「ゲームか、久しぶりだなー、何年ぶりか」
その日は2人で夜遅くまで何年か振りにゲームで盛り上がった。
段々と加那多の顔を見れるようになり、学生時代に戻ったような感覚になっていく。
楽しいなあ、これが毎日なら良いんだけど。なんて思った。
寝る時は加那多が俺にベッドで寝ろと譲らないので諦めてベッドで横になる。
なんだろうね、凄く加那多の匂いが充満している。この枕か。
嫌な匂いとは感じないのでいいんだけど、なんだか気になる、やはり自分の匂いじゃないからか。
中々寝付けず、それは加那多も同じだったようで横になりながら暫く話をしていて、どちらともなく眠りについた。
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