第4話

「えまも一緒に飯食うか?」


「え、うん。食べる食べる」


 食堂で思いもしない葵との遭遇に、俺たちはそのまま3人で昼食をとることになった。葵がどさっと先ほど買ったパンやジュースを無造作に机の上に置くと話し始める。


「最近二人とも学校の調子どうなの?」

 

「調子って?」


 葵の問いに対して俺は訊き返す。


「例えば、普通に学校であった出来事とか変化とかさ他になんでもいいけどなかったの?」


「俺の親みたいな事言うなよ……」


 冗談抜きに20回は聞いたぞこの質問。

 そろそろ耳にタコが出来そうだ。


 俺がリビングに居るとき、一緒に夕食をとっているときなど、日常的に母さんからうんざりするほど訊かれている質問である。


 新入生になって学校が始まったとなると親が興味本位で、勉強の事とか友達との話、とかそういうのを訊きたくなる気持ちも分からなくもないが、思春期真っ只中の子供としてはプライベートの事なのであまり踏み込まないで欲しいとは思う。


 そういった質問を訊かれる度に『特にない』と答えるので、無意識に今回も


「特にな──」


 いつものごとく、事前に準備されていた模範解答で返そうとしたが、どういうわけか途中で言葉が詰まった。

 

 ふと瞼の裏に浮かぶ。

 そういえば、ここ最近あったな……と。


「もしかして、なんかある?」


「いや? 特に?」


「え〜、なんでよケチくさいな。小学校からのよしみなんだし教えてくれたっていーじゃん」


「本当になんもない」


「告られたとか?」


「アホか」


 そんなこんなで葵の質問攻めを上手くかわしていると祐樹が言葉を発した。


「変化つったら隼人は隣にいる立藤さんとかだろ。そうそうクラス一の美少女と隣の席になることなんかないしな!」


「あ〜、ほんとだ。確かに!」


 そんな俺が思っている立藤の話題はこちらから振らずとも自ずと出てきた。

 

 別に不思議な事じゃない。

 あいつは今じゃクラス一の美少女と称されている身なので目の届かない場所でも話題にされることもしばしばあるだろう。


 もしかすると、学年中に──いや? 学校中にまで広がっている可能性さえある。


「じゃあ、ひとつ訊きたいんだけど隼人って立藤さんと話したことある?」


「なんだよその質問。まあ、一応自己紹介とかでちょっとだけだが喋った事はあるな」


「へーそうなんだ。わたしはまだ話した事ないから一回自己紹介しなきゃって思ってるんだけど可愛いし、人気者だしで声かけられないんだよね……!」


 意外にも立藤と関わった事がないらしい。

 陽キャの葵の事だから入学式初日にして絡みにいったと勝手に思っていたが。


「だからさ、どうやって話そうかって悩んでたんだけど」


「そこまでして話そうとしなくていいんじゃないか? 友達って別に作るもんじゃねえだろ」


 祐樹は紙パックのオレンジジュースをすすりながら言う。

 

 俺もその意見には同感だ。

 別に無理に話しに行く必要はないと思っているが世の中にはみんなと友達になりたいと思う人もいる。

 

 しかし、葵の場合は後者だ。


「やっぱりみんなと友達になった方が良いじゃん! あんな可愛い子と友達にならない方が損だしさ」


 葵はう〜ん、と顎に手を当てて悩む素振りを見せたあと何かを思いついたのかニヤリと白い歯を見せた。


「じゃあさ……わたしと立藤さんが話す機会作ってくれない?」


「……は? なんで?」


 そろそろ話が終わると思いきや、突飛な言葉が投げかけられる。


 いやいや、なんで俺が機会を作らなきゃならないんだ?

 葵が自分から話しかけに行けばそれで済む話じゃないのか?

 それに、そもそもちょっとしか話した事が無い奴に頼む事じゃないだろ。


 様々な疑問とツッコミが頭の中で交錯し、混乱する俺を他所に葵は追い討ちをかける。


「ってことでお願いします!」


「おかしいだろ。俺より適当な人物だっているんだからその人に頼めば良いわけで、それ以前にお前はコミュニケーション能力あるしすぐ話しかけれるだろ?」


「だから、さっきも言ったようにあの子可愛すぎて声かけられないんだよ! 他の子は普通に話しかけてるけどわたしには無理だよ……」


 答えになってないし言っている意味がよく分からない……可愛すぎて話しかけられないとかいう点も特に。

 お前は国民的アイドルを目の前にした熱狂的なファンなのかよ。


 この状況に飽き飽きした俺は祐樹に『どうにかしてくれないか?』という意味を含めた視線を送ると諦めろと言わんばかりに首を横に振る。


「でも、意外とアイツ話しやすいからそんなにビビる必要ないぞ」


 このままでは無理矢理、面倒事を押し付けられると思った俺は逃げるように話を逸らす。


「え、ほんとに!?」


「あ、ああ……すぐ仲良くなれると思う」


 なんて、適当な事を言ってしまって逆に面倒になりそうな予感がしたが葵の性格上、今更止めてたとしても引き下がらないだろう。


「よ〜し、立藤さんを誘って4人でご飯行こうよ。今日の放課後にいざ、決行!」


「おい、なんでだよ!」


 という事でなぜか、放課後イベントが強制的に発生した。

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隣の立藤さんには『弱点』がある。 ありせ @Naeshiro

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