第3話

 あれから次の日の昼休み。


「あ〜、やっと終わった」


「物理の授業おもんないしキツイわ……」


 4時間目の授業が終わると周りの生徒たちは待ちに待ったのか安堵の息をつき、昼食をとろうと教室中がざわつき始める。

 

 午前の授業が終わった……聞くだけとはいえ結構しんどいんだよな。

 

 ひたすらに50分授業が長い。長すぎる。

 業間にインターバルで少しの休憩を挟むとはいえ、だいぶとキツい。正直に言うと数分程度では休憩の効力を成していない。


「おい! もっと休み時間を長くしろ」


 なんて言えたら良いんだが俺は文部科学省でもないし教育委員会の人間でもない、ただの学生。いつも昼寝をしたり暇つぶしで秒数当てゲームをして真面目に授業を受けているわけではないから偉そうな事を言う権利はなおさら無いんだが。


 ひとまず、昼休憩に入った事だし俺もどこかで昼食を取ろうかと席を立ったところで──聞き慣れた、いかにもチャラそうな奴に話しかけられる。


「おい隼人。どっかに飯食いに行こうぜ〜!」


 にやにやとご満悦の表情で肩を組んでくるこいつは小学校からの親友で、悪友の──落合祐樹おちあいゆうき

 センター分けのイケメンで彼女持ちのムカつく奴だ。


 親同士も仲が良くて、ママ会的な物にもよく付き合わされていたのを覚えている。


「ああ。丁度今日弁当忘れてきたからいいぞ」


「うし! じゃあさっさと行こうぜ、超激レアで大人気のクイニーアマンが売り切れちまう」


「でも、お前いつもそれ食ってるからレアリティ下がってるだろ」


「んなわけないだろ。あれはもう俺の体の一部で心臓みたいなもんだからな」


「あっそ」


 祐樹の冗談に対してうすら笑いで返すと、俺は通学鞄から財布と水筒を取り出して一階にある購買へと足を運んだ。




   ◇ ◆ ◇




 購買で昼食を買い、俺たちは食堂の席で昼ご飯を取り始める。

 

 俺が買ったのは唐揚げとお財布に優しい食堂の激安醤油ラーメン。量はそこまで多くはないが思いの外美味しいので気に入っている。

 祐樹は言わずもがな、あれだ。


「すげぇ! これ見てみろよ」


「なんだ? ……動画?」


 祐樹は安定のクイニーアマンを頬張りながらスマートフォンでとある動画見せてくる。


「そうそう。この子くっそ可愛くね? めちゃくちゃなんかえっちな感じだしさ……」


 今流行りのアプリでダンスとか、他にもためになる知識とか幅広く投稿されている──いわゆる、数秒から数分のショート動画。


 で、今俺が見せられているのが可愛い女子高生が音楽に合わせて踊っている動画だ。


「お前……普通にキモいぞ」


「なんでだよ! 別にキモくねぇだろ!」


「いや、だって祐樹彼女いるだろ。そんなん言ってて良いのかよ」


 俺がそう言うと、『違うな』と言わんばかりに人差し指を左右に振る動作をする。


「例えばさ、推しと好きはまったく意味が違うだろ? 今のもこれと同じ感じだ」


「まったくもって理解出来ない……」


 こいつは一体何を言っているのだろう。俺が言いたかったのはそう言う事じゃなくて、彼女がいる身にも関わらず他人にそんなはしたない感情を持つのはどうなんだ? ってことが言いたかったんだが……。


「まあ、良いだろ? 俺だけじゃなくて男子高校生って全員こんなもんだし……隼人が純粋過ぎるだけだっつーの」


「そうか?」


「そうだろ」


 相変わらずの気色悪い笑みを浮かべながら動画を物色しているところで、唐突にヒョイっと祐樹のスマートフォンが宙に持ち上げられた。


「祐樹さ〜ん。あなたは何をしていらっしゃるんですかね?」


 不自然な敬語と軽蔑を孕んだ声。


「あ、これは違う……たまたまだって」


「違くないでしょ」


 宙に吊るされたスマートフォンに目を向けると、そこには冷ややかな目を向ける祐樹の彼女がいた。


 心底怒っているらしい。

 口元は笑ってはいるが明らかに目だけ笑っていない。


 彼女の名前は──あおいえま。

 同じ1年2組の同級生で俺たちと同じ小学校だった。運動が出来てコミュニケーション能力も高い。

 しかし、それよりも一番大きな特徴と言えば祐樹の彼女だということだ。


「またこんなの見てるの。懲りないなーこんな可愛い彼女がいるってのに」


 腕を組んで俺たちの目の前の席に座る。


「メンヘラ彼女みたいな事言うなよ。てか、えまは教室で飯食ってたんじゃないのか」


「今日はなんとなく購買行こうってなって、ちょうど祐樹と隼人が2人でご飯食べてるの見かけたんだよ」


「なるほどな。それよりも可愛い彼女──ねえ?」

 

 祐樹は頬杖をついて何か言いたげにボソッと呟く。


「うっわ、ねえ隼人今の発言どう思う? 彼女に対して言う言葉じゃないよね。普通なら肯定するところじゃないの」


 すると、祐樹のその発言は関係ない俺にまで火の粉を飛ばしてきた。

葵になぜか同情を求められたが恋愛経験の乏しい──もはや無の俺には正直何がなんだか分からないし場違いなので何も言えない。


「知らん」


 淡々と返す。


 頼むから痴話喧嘩は他所でやってくれないか……? 言い合いのつもりかもしれないが俺からしたらカップルのイチャイチャを見せつけられている気がして堪らないんだが?

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