第9話 池上先生と三浦先生

 教室で爆睡をかましてしまった。九月になり、授業が始まった。

 先生は呆れたのか。教室には誰もいなかった。せっかくなので学校を見て回ろう。


 道場を覗くと雷銅の姿は無かった。引退したのだろうか。怪我を直してもう一度、何度も勝負をするんだ。がんばれ。

 音楽室では部長が指揮を振り部員が食らいついている。上手くやっていて上々だ。

 

 他は怖くて観に行きたくない。

 高宗庵はあの人形を渡した後に修行する為にと高校を辞めた。


「私は別れたくないの。この人と一緒のお墓に入りたいだけなの。出会う順番が違っただけなのに何で私たちが慰謝料を払わないといけないの?」


 俺は初めての経験だが、よくある事らしい不倫の相談。子どもにするなよ、弁護士立てろよ。


 中では無言でうなずく、まひろが想像出来たが、この広い廊下で立つよりは中でいた方がいいだろう。仕事しているふりをしよっと。


「佐倉くんはどう思う? 国語の平山綾が池上先生の結婚相手で、化学のハゲの松山が私の今の夫よ」


 なるほど、これは困った。

 依頼者の依頼を聞くが、相対する事が分かり次第、依頼を断る。


 今回は現時点では平山先生と松山先生は不倫を知らない。なので、あくまで現時点では依頼者の秘密を守り、不倫の事実を暴いてはならない。


 どう思うと言われても。


「俺、大人のことはわかんないんです。部長もそうだろ」


「そうだね。佐倉くん」


「子どもの前でごめんなさい。いけちゃん、私たちのお家に帰ろ」

 ワクワク気分で大人は帰って行った。


「実は平山先生と松山先生。不倫に気づいてるってメッセージ入ったの」


「その場合はどうなる」


「部の担当教師に通報。後に大人が処分されます。担当教師は教頭先生です」


 いつもなら激しく生徒を問い詰める教頭先生が今日は穏やかだ。


「大人の事情でごめんね。報告ありがとう」


「嬉しそうですね。何かあったんですか?」


「ぬいぐるみ作家のなーせさんって方のぬいぐるみが可愛くて、一度学校で拾ったぬいぐるみがそっくりでまさか職員ではと疑ったこともありましたよ。そうじゃなくてもなーせさんのファンであることは揺るぎません」


 もう瀬名だって名乗っちゃえよ。職員室はある一角を除いて平和じゃないかよ。これから戦争が始まるが、俺たちが付き合うものでも無い。


「今日はソフトクリームの気分だ」


「俺はチョコモナカの気分だ」


「セットでも何でも良いわよ」


「乗った」


 そうだよな、何も解決しない。誰も幸せになれない相談を受けても解決して欲しいと願うもんな。


 本日の探偵部の営業は終了しました。またのご依頼お待ち申して上げております。

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