第8話 なぜ吹奏楽部に入部したのに
どうやったのか小さいが冷蔵庫がやってきた。コーラ冷やしているよ。飲んでやろっと。あっ。
「うわっ、久しぶりにこのタイプだ」
「何よ」
「なぜ吹奏楽部に入ったのに彼女が出来ないのか」
もういい、このパターンは何度もいらない。どうせこじらせ男子が妄想を繰り広げているのを悩みとして聞かないといけない。
「失礼する。ここは探偵部でいいか?」
僕は申請書やメールのチェックを始めた。まひろに全て押し付けて、帰りにコーラでも買ってやればいい。
「一年生の時に吹奏楽部に入った。周りの先輩が女子が多いから簡単に話が出来ると言ってきたので入ってしまった」
はいはい失敗談お疲れ様。青春の妄想産業廃棄物は山に捨てておけ。
「最初、僕と同じくやましい気持ちで入った者は多かった。ある者は恋人を得て、ある者は恋に破れて退部して行った。僕は部員が少なくなり出した時になって、欲望のままに活動した自分を恥じた」
恥じた分だけ評価してやるよ。
「トランペットに全ての青春を捧げることに決めてから毎日練習に励んだ。苦しい基礎練も、教本も、集められる物はアルバイトをして集めた」
ん? これはまさかゴミでは無いのか。メールの処理が優先事項だ。
「先日、全日本ソロコンテストで優勝した。さらなる高みを目指すべく、毎日トランペットを吹いている。部長に任命されたのが今年の春。合奏指揮もして、やる気のある子たちには練習法を伝授し、やる気がない子たちには楽器の面白さを伝えようとしている。部活動推薦で大学からも話がきている」
あー、これはアレだ。察した。
「これだけ頑張ったのに僕に彼女が出来ないのはなぜですか?」
「部長さん、頑張り過ぎて天上人になってるの」
「そんな、ただ僕は」
「スタートがやましくても頑張る君は偉いよ。いつかきっと君を見て、君を想ってくれる女の子が見つかるよ。君は君の道を走り抜けよ」
「元気が出ました。ありがとうございます」
改めて顔を見ると夏休み前に表彰されていた青年だった。精悍な顔つきに御礼を言う時のえくぼが特徴的な笑顔。ごめんね、悪く思って、他が最低過ぎたからさ。
「私だけが働いた。あんたは机の上の画面を見ていたらいいもんね」
「作業しながら聞いていたさ。いい案があるのだが」
「何よ」
「スーパーでラムネの缶が安く売っているだろ。あれ買って冷やせておけば冷たいラムネが飲み放題」
「半分持ってやる」
本日の探偵部の営業は終了しました。またのご依頼お待ち申して上げております。
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