第7話 十七歳にしておばちゃんの憂鬱
冷凍庫が欲しい。そうまひろはつぶやいた。
「自販機も食堂も近いし、廊下もクーラーが効いている。アイスならここに持ち帰ってゆっくり食える。それでいいだろ」
八月に入った辺りから廊下にもクーラーが設置された。電気代は大丈夫なのか。そう思いはしたものの、大企業が多い街なので、法人税でクーラーをつけることが出来たのかもしれない。
「十七歳にしておばさん、どう呼ばせるか研究中の三年生」
「冷凍庫つけたら、このアイスを急いで食う羽目にならないのだぞ」
まひろは依頼者が来る三秒前に平らげた。頭が痛むらしい。
「ちわー、探偵部に持ち込む話かどうか悩んだけど、ここしかなくてさ、ちょっと
依頼者はこの街に数多ある大企業の息女だった。姉が三年前に結婚し、春に子どもが生まれた。兄弟や姉妹、親戚に子どもがいるが、よく出来た子どもたちで、みんな依頼者を「お姉ちゃん」と呼ぶ。
ところが姉は子どもと依頼者を会わせる度におばちゃんですよーと言うらしい。
「私はおばちゃんじゃないし、お姉ちゃんだよ」
うーん、困った。目配せしたまひろの真意を読んだ。これぼかりはお家の事情だ。もちろん解決しない事を前提に愚痴を言いに来ている依頼者だ。
聞いてしまったら、助けてあげたい。
「潮時かもね。兄貴も結婚したし、大学は出してもらえそうだけど、政略結婚はありえる。これくらいの事は今から増えて行く。悪かったな、ありがとよ」
「三日待ってもらえる?」
出た。三日戦法。
依頼者を帰らせた後、どこかに電話をした。センサーがどうとか、無線が何とかという話をしている。
「三日待ったわけだけど、何かいい案でも思いついたの?」
この部屋にあってもどうしようもない物が一つ、クーラーの下に置かれていた。熊さんのぬいぐるみだ。
「このカードを胸に入れて、スイッチはお尻にあるから押してそこの男に渡して、そしたら」
ぬいぐるみから、お姉ちゃんお姉ちゃんと聞こえた。
「それでお姉さん近づいて」
ぬいぐるみは沈黙した。
「これはどういう原理で」
「赤外線センサーの応用で発信機をつけている人が近くにいるとぬいぐるみは音を出し、センサーを持たない人が近づくと音は鳴らない。そこまでの説明しか出来ないの」
「探偵さんすごい」
「でも無くしてはいけないわよ。絶対に子どもが話し出すまでは無くさないでね。私が海に落とされるから」
冗談には思えない。
探偵さんありがとう。大事に使うねと言って依頼者は去って行った。
「電器屋の親戚を持つと子供騙しも簡単に通じるのね。あの電波十回しか出せないの。センサーのぬいぐるみ側が使い物にならなくなるらしいわ」
「それじゃあ」
「夢を見て姪にぬいぐるみをプレゼントとした幸せな女の子の完成よ。今日はサイダーで乾杯よ。お金は出してね」
本日の探偵部の営業は終了しました。またのご依頼お待ち申して上げております。
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