第2話 魔族

魔族は座学で習ったことがある。


地下を巣食う種族だったっけか?

めっちゃ強いって聞いたことがある。

そして、主食が・・・生物の血液だった気がする。


スゥゥ、いやまだわからないなぁ。

この角が本物かもわからないしなぁ。

・・・・わからないからなぁぁ。


俺は右腕を角に当て、ひっこ抜くように力を込めた。

しかし、俺の額に痛みが走るだけであって、抜ける気配はモロなかった。

おい、嘘だろ。

犬歯、犬歯は!?


・・・抜けんかった。


「川、川で確認」


川の反射で俺の顔が分かる。

そうとわかれば速攻だ。

俺は仮面を左手に持ちながら森を駆け抜けた。


到着すると、周りはきれいで囲まれていた。

指してくる月の光をはじき返している透明な水。

すぐさま顔をのぞかせ、自身を確認した。


「・・・・ウソ・・だろ」


俺は、自分の顔をぺたぺたしながら言った。

肌の色などは変わっていなかったが、髪色が日本人特有の黒ではない。

紫へと変化していた。

瞳は真っ赤に染まり、額の角は恐怖を物語っている。

口からはみ出している犬歯はまさに吸血鬼のようだ。

もう俺はすでに化け物への一歩を飾っていた。


普通に絶望した。

追放よりもマシだが、今まで通り人間と同じ生活が遅れるとは考えられない。

あは、あははは。


俺は川の水を顔にかけた。


【聖水を確認しました。これより、進化いたします】


え、ちょちょちょ!

待って待ってまって!


俺は希望はむなしく、俺の体は前と同じように光を放った。

やむと、俺の体は何かおかしい感覚だった。

なんか、浮遊感というか、体が軽くなっている感じだ。


【進化を確認。これより、一番適しているウエポンを贈呈いたします】


勝手に俺の脳内に流れてくる音声。

俺は全くほしくないのに、ひとりでに話を進めていく。

あきれていると、音声通りに俺の目の前に1つの武器が出てきた。


棒だ。

真っ黒の棒。

棒はそのまま川へと落ちてしまった。

真っ黒な棒と透明な川が合わさっていて、川の中でもくっきりと棒が認識できる。


俺は慌てて川に手を突っ込み棒を取る。

うん、固い。

すっっっっげぇかてぇ。


・・・・・・


俺は棒を持って、昔習った・・・・ように構えた。

左足を前に出し、右足を引く。

左肩を前に出し、前に向けて棒が下になるように左手で持つ。

右肩は後ろに引き、肘を曲げて棒を上げて持つ。

しっかり握るのではなく、指を伸ばし、親指と四本の指で挟むように。


何だっけな、横無相構え・・・・・だったっけ?



俺は中学生1年のころ、いわゆる中二病だった。

孤高の俺はカッコいい。

なんてくそみたいなことを本気で思っていた。


そんな中で、一時期俺の心を虜にしたものがある。

それが棒術だ。


棒は、いたるところにある。

木の枝を折れば、ベンチの鉄棒を使えば、バットを使えば。

いたるところで戦いがあっても応戦できる。


そんなほんとにきもいことを考えて独学で習った。

棒術はあまり情報で出回っていないが、漁りに漁った。


まぁ、結構うまくなったが、棒術を独学で習い始めて2年。

中三のころだ。

いじめられた。


いじめられたせいで、俺は結局何もできないみたいなことが俺の脳裏に焼き付けられたんだ。

だから、棒術は諦めたんだ。



左手を添えるではなく握りに変え、そのまま棒を振り上げる。


ズドォォォォォォン!!!


大きな物音を立て、空を切った。

何十メートルも遠くの気が、粉々に粉砕された。


「棒術、かぁ・・・」


俺は、たった一つの真っ黒の棒を眺めながら俯いた。

これが一番適していると言われたら、これで生きていくしかないんだよなぁ。

はぁ、しかたねぇ。

リバウンドえぐいし、ゆっくりと調子取り戻していこう。


さて、次にこの仮面だなぁ。

俺の手に握られている仮面は、白と黒のシンプルな配色だ。

ちょうど半々で斜めで区切られている。


・・・・これで進化しないよな?

さすがにな?さすがに・・・

俺は静かに仮面をつけた。


ヒモもなかった仮面は、勝手に俺の顔にくっつき、そのまま固定された。


【仮面を認識、隠蔽効果を発動いたします】


隠蔽?なんか影が薄くなるから敵に見つかんないよ~的な感じか?

っていうか仮面付けると角が無くなるんだな。

これで魔族の判別も難しくなると、よくできてますわなぁ。


「よし・・・どうやって生きていこう」




人生最大の壁にぶち当たった。



~三日後~



魔族になって分かったことがある。


まず、血を飲まなければ生きていけないというのは、たぶん嘘だ。

一回血を飲んだら、一時的に身体能力が上がった。

だけど、そのあとの3日間のまなかったが、全く体に異常はなかった。


そして、飢餓の無効化だ。

全く三日間何も食べいていないが、腹がすくこともなく生きている。

栄養は取らなくてもいいのだろうか。

水は取るけどな。


そして、夜の暗視効果だ。

普通に見てれば変わらないが、森の中などは真っ暗。

しかし、その中でもある程度は見えるようになった。

これは結構ありがたい機能である。


その分、日光に少し弱い。

ほんとに少しだ。

日光を浴び続けると、ちょっとばかし体が鈍くなる。


その次、仮面についてだ。

仮面をつけていると、川に映る自分ですら感知が難しい。

そんなレベルの隠蔽効果が付与される。


つまり、今の俺は不意打ちなどの姑息なやり方の戦闘を得意としているということ。

まぁ、俺の性格に合っている。



俺はまだ川の近くにいる。

拠点を立ててもいいのだが、俺は魔族となってしまった時点で殺されるかもしれないんだ。


日中に寝て、夜に活動もしたいが、日中は人間の一番いい活動時間だからな。

日中活動だ。


今日も今日とて棒術練習。

いまだにこのフードの力を見てない。

この仮面と一緒に合ったのだからおそらく力は有しているだろう。

はぁ、人間に戻りたい。


後悔を胸に押し付けていると、前と同じようなドォォォンと轟音が聞こえた。

その音の方向を向いてみる。


所々の気が揺れ、鳥が羽ばたいている。

本当だったら、俺だって逃げている。


しかし、俺の足は震えることはなく、むしろあそこに行きたいという好奇心に駆られていた。

もちろん、行くならその分の覚悟と代償を払わなければいけない可能性もある。

腕を失い、失明し、死ぬかもしれない。

いや、もう実際追放されてるし、死んだも当然か。


俺は棒を右手で持ち、仮面をつけ、フードをかぶった。

殺る気満々だ。

何でもかかってこい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天空に居座る魔神 ふにえる @Nazonotenseisya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ