一章

第1話 天空

「歓迎する、救世主たちよ」

「・・・へ?」


金髪をなびかせながら言った言葉。

五十代くらいの年齢だが、深い力が宿っていることがよくわかる。

男は立ち上がり、俺らに向けて強い眼力を飛ばした。


「貴様らは今宵から、勇者となる。早く力に目覚め、我が国を救う手助けをしてほしい」


俺の思考は追いつかない。

いやいや、さすがに嘘に決まっている。

こんなラノベみたいな展開が起きるなんてそうそうある訳がない。


・・・ある訳が、ない。


「こ、ここはどこですか」

「ここはムギア帝国の王城、ワシの名はムギア・アルフレッドと申す。この国を治める王だ」

「に、日本じゃないんですか?」

「わしは貴様らを召喚した。だからここはニホンという場所ではない」


異世界転移。

俺はライトノベルやアニメを嗜む程度見ていたが、いざ現実に起きてみると困惑する。

あぁやばい元々頭がいいわけじゃないから蒸発しそう。


「貴様ら勇者には、この国を守るために召喚させた。それ故に、特別な力を得ているだろう。貴様らには、その力をいち早く目覚めさせてほしい」

「ち、力というのは例えば」

「魔法威力上昇やら、剣術精度上昇、数え切れん。しかし、すぐに目覚めるはずだ。その覚醒に必要とする行動を行えば、力は目覚める」


魔法、多くのライトノベルでは魔力から成り立っているが、この世界も魔力はあるのだろうか。

もしかしたら魔素かもしれない。

そんなことを考えていると、1人のクラスメイトが立ち上がった。


「もしかして、僕ら戦うんですか?」

「それ以外で召喚するわけがなかろう」

「・・・」


口ごもるクラスメイト、さすがにここまで来たのなら後戻りはできない。

ごめん、かーちゃんとーちゃん。

俺、まともに親孝行できなかったべ。


「従者よ、こいつらを訓練場へ連れて行け。今すぐに力の覚醒を急ぐのだ」

「はっ!」


従者、鎧を着た人たちが俺らを訓練場へと案内してくれた。

所々に、日本にはないものがたくさん置いてあったりもした。

クラスメイトも目を見開いて歩いている。


訓練場に着くと、従者が俺たちに言った。


「これより、覚醒訓練を始める」



~二日後~



「はぁぁぁぁ」

「篠本君、大丈夫?」

「あぁ、木村か。大丈夫だと思うか?」

「全く持って」


二日間、休憩を入れながらもぶっ続けで覚醒訓練を行った。

慣れない剣を振るった、慣れない刀を振るった、慣れないトンファーをまわした、慣れない魔法を教えてもらった、慣れない座学をした。

いろんなことをして、クラスメイトはどんどん覚醒していく中で、俺だけが覚醒をできないでいた。


木村は魔法支援の魔法を得意としていた。

俺は、何をしても駄目だった。

いまだに覚醒する気配も見えず、従者たちの目は冷ややかになっている。

またあいつか、あいつに教えんのか、お前がやれって。


静かに聞こえる小さな悪口。

もちろん俺も我慢しているつもりだ。


さすがに急に転移させてきたのはこいつらなのに何で俺が文句を言われなきゃいけないんだ。

心の中の文句はたまる一方で、その文句を出す暇もない。


「はぁ、やっぱ俺は王様と交渉して出してもらおっかな」

「で、でも。まだ篠本君が手を出してないものあるでしょ?」

「あるけどさぁ」


さすがに、俺もうんざりである。

ここまで挑戦して、失敗まみれだとどんなに鋼のメンタルでも欠けるもんは欠ける。


不満を溜め続け、限界に近くある。

そろそろ、マジで覚醒しないとやばいな。


そんなことを思っていると、後ろから王様の声が聞こえた。


「ササモトよ」

「な、なんでしょうか」

「ついてこい、拒否権などはない」

「は、はぁ・・・」


少しばかりの怒り顔で俺を呼び出した。

王様はすぐに後ろを向き、歩き始めた。

さすがに、一国の王の前で逆らうわけには行けない。

もしかしたら殺されるかもしれないしな。


「じゃ、行ってくるから」

「うん、また後でね」

「おう」


こんな出来損ないな俺にでも、優しい笑顔で俺を見送ってくれた。

・・・この気持ちは、いつ話すべきなんだろうなぁ。


俺は立ち上がり、駆け足で王様の後ろのついていった。

俺よりも体格が大きく、歩幅が大きい王様についていくのは大変だった。

目的地に到着したのか、王様はある一室の前で止まった。


「この中に入っておいてくれ」

「分かりました」


素直にその命令に従い、扉を開けた。

何もない空間だ。

部屋全体に埃がかぶっており、ある一つの魔法陣が床にある。


俺は何も考えずに部屋の真ん中で胡坐をかいた。

部屋を眺めるだけで、することがない。

すると、扉一枚隔てて王様の声が聞こえた。


「出来損ないは、いらん。従者よ」

「はっ」


・・・ちょっと恐ろしいことが聞こえたが、気にしないが吉。

そんなことを思っていると、下の魔法陣が著しく灯始めた。

なんだ?と疑問を思考に回し立ち上がろうとした瞬間

俺の視点が暗転した。





「んんぅ」


目を覚ますと、俺はあおむけの状態で横たわっていた。

いってぇ、と体の節々にある痛みをこらえながらさっきまでのことを思い出す。


確か、俺の下にあった魔法陣が光ったんだよな。

そっから暗転したから。


「・・・」


俺はすべての状況を理解してしまった。

俺は捨てられたんだ。

能力を獲得できずに、ただただ国のお荷物でしかいれない俺を捨てたんだ。


いや、今俺は怒りを出すときじゃない。

まずここはどこだか知る必要がある。


俺は立ち上がり、周りを見渡す。

響き渡る小鳥のさえずり、右から聞こえる川の流れる音。

怒りに煮えたぎる俺の心を癒してくれるほどの綺麗さだ。


風景に見とれていると、後ろからドォォォンと大きな地響きが聞こえた。

後ろを見ると、何匹もの生き物が逃げ回っていた。

何事だと俺は目を凝らす。


化け物だ。

日本にいるんだったら見ることのない、化け物だ。

やっべぇ、怖すぎて声すら上げられない。

俺の生存本能が、あいつから逃げろと悲鳴を上げている。


俺は動物たちと同じように逃げ回る。

後ろを振り向くことがなく、一心不乱に森を抜ける気で走った。



気付けば、夜だ。

何分も、何時間も、走っては歩き走っては歩きの繰り返し。

体力も限界を迎え、体が栄養を欲している。


周りにはいろいろな木の実が散らかっている。

空腹で死にそうな俺は、迷うことなく口にした。


「っ!オ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!」


口にした途端、口いっぱいにエグみが回った。

苦い?まずい?甘い?酸っぱい?

体が理解できないほどの味覚が、俺の味覚神経を大きく刺激してくる。


俺は吐いた後にそのまま仰向けになり、夜空を眺めた。

これだけを見れば、ただの美しい景色だって言うのに、状況が状況なため、俺の体は休まってくれない。


ため息をつきながら、俺は目を瞑った。



目を開けると、まだ夜だった。

いや、正確に思い出すと、二十四時間ぶっ通しで寝ていたのだろう。

訓練でまともに寝てなかったからな。


上半身だけ起こし、目をこする。

空腹だが、それ以外は割と健康状態だ。

今のうちに、森からの脱出を考えたほうがいいだろう。

ここどこかわからんし。


立ち上がり、木の実を踏みつぶしながら歩いていく。

一分、十分、三十分。

時は進み、俺の思考もまともに機能がしなくなっていく。


すると、俺の視界に、1つの衣類と1つの仮面が見えた。

何の洋服か、分からない。

が、俺の洋服は走った時の汗が滲んでいたりと汚いため、この衣類は普通にありがたい。


俺はすぐさま紫色のローブを拾い上げた。

ローブを拾い上げると、一枚の紙が落ちてきた。

俺は慌ててそれを拾い上げると、文字が書いてあった。



【これを拾い上げし者に継いでもらう。我の遺志を継ぎ、この世界に正しき道を切り開いてくれることを願う】


日本語ではない。

この世界に来た時から不思議だったが、言語という隔てがない。

全く見たこともない文字なのに、なぜか理解ができてしまう。


道を切り開く、正直全く意味が分からないが、着させていただく。

俺はローブを羽織り、仮面を持った。



【魔族の衣類を着用。これより覚醒し、魔族の眷属へと進化いたします】

「ふぇ?」


あまりにも予想外の出来事すぎるせいか、俺の口からはふざけた声が出てきた。

すると、俺の体から、黒い光が輝きだした。

その光はすぐに収まるが、全く変わった感じはない。


ん?

違和感が走ったのは、俺の歯と、よくわからない場所だ。

すぐさま違和感を解消するため、俺は謎の感覚の場所を触ってみる。


俺の上の犬歯は大きくとがり、吸血鬼のような仕上がり。

額からは1本の角のようなものが生えていることがよくわかった。




スゥゥゥゥゥ、俺魔族ってやつになってね?

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