第9話 坑道の奥へ

 オーク殲滅作戦が始まってどれだけの時間が経っただろうか。ボク達は奥へ奥へと進んでいく。順調にオークを倒している。最初の頃はただ倒していくだけでよかったけど、途中から死体を見つけられて、大勢のオークに襲撃されるのを避けるため、死体をアレンの土魔法で隠しながら進んでいった。


「オークはまだまだいるのかな」

「そうだな、地図の通りならもうだいぶ奥まで来ているはずだ。そう多くはいないだろう。退路の確保も欠かしていないし、挟撃される心配はないに等しい。もちろん警戒は必要だけど」


 アレンが作戦の経過を教えてくれる。順調みたいで安心した。

 するとアレンがこの先に大きな空間があることを教えてくれた。


「この先は大量のオークと接敵する可能性が高い。もし見つけた場合は今来た坑道に誘いこむようにカーズさんが引き付けてくれ。横道から後ろを取られることも考えられるので、クリコは後ろを警戒、僕はどちらにも対応できるよう待機している。エミリは無理をしないように、確実に一体ずつ仕留めてくれ」

「うむ、敵は一体たりとも逸らしはしない」


 カーズさんの心強い返事が帰ってくる。今回の戦闘で一番傷ついているのがカーズさんなのにそんなそぶりは少しも見せない。回復しているエミリの魔力にもまだまだ余裕があるようだ。


「では、カーズさんお願いします」


 カーズさんがゆっくりと歩を進めていく。すると先の方にひらけた空間と大量のオークが見えてきた。洞窟が騒がしくなっていることに気づいているのか、慌ただしく動くオークが十体以上いるみたい。


「これは……予想以上に多いな、装備も揃っているオークが多い。ここが一番の難所になるだろう。僕達も最大限の準備をして戦いに挑もう」


 ボク達は今までしてきた奇襲をより強くするために、多くの魔法や力を貯めた。まずボクが皆を鼓舞して身体能力の底上げをして、クリコが素早さをあげる支援魔法を掛けてくれる。そしてアレンが奇襲の準備について話す。


「よし、準備はここまでだ。後は僕が中程度の詠唱で風魔法を放つ、そこからカーズさんが敵を引き付けて坑道へと誘いこむ。クリコは全体に防御の支援魔法を掛けてくれ。それじゃあ僕は詠唱を開始する。魔法が着弾したのを見てから戦闘開始だ」


 アレンが詠唱を開始する。何度も聞いているけど難しい言葉が多くてよく分かっていない。でもアレンが詠唱する姿はかっこいい。そう思っているとアレンの詠唱が完成し、魔法が飛んでいった。


「ウィンドトルネード!!」


 前にぽっかり空いた空間の中心に、大きな渦巻が発生する。それに吸い込まれるようにオーク達がその中に飲み込まれていく。


「俺達がいなくてもアレン一人でどうにかなるんじゃないか」

「アレンはすごいなー」

「馬鹿なこと言ってないで敵に集中!生きている個体はまだいる。元気なのから突っ込んでくるからカーズが引き付けてくれ」


 遠くにいて魔法の射程外にいた無傷なオークが、ボク達に近づいてくる。重装備をした緑色をしたオークだ、なんか強そう。


「さぁこい!!!」


 カーズさんが敵を引き付ける。緑色をしたオークはカーズさんの方を向いたかと思ったけど、それを振り切るように奥の二人に照準を定めているようだ。


「させないよ!」


 アレン達の間に入りオークの攻撃を防ぐ。重たいなぁ、他のオークより装備も良さそうだ。ボクは少ししびれた右腕が気になって、左に剣を持ち替えてオークへ反撃する。オークの動作は遅い、その力はすごいけど、当たらなければどうということはない。


「ブモオオオ」


 斬りつけられて怒ったオークが、ボクに攻撃を仕掛けてくる。坑道の先ではカーズさんが残ったオークの攻撃を受け止めている。

 これなら大丈夫。そう思ったときクリコの大きな声が聞こえる。


「後ろよ!挟まれるわ!!」


 しまった。オークに挟まれて、初めての危機を感じる。

 アレンが後ろのオークへと駆け出していく。


「僕が対処する。エミリはそのオークを倒し次第、状況を見て僕かカーズの増援に回ってくれ。なに、裸のオーク一体くらい僕でもどうにか出来るさ」

「私も参加しますので、まずは目の前の敵に集中してください」


 後ろを見る余裕はない。早く倒して援護にいかなければ、そう思いオークを倒そうと剣を振るう、だが斬りつけた傷は少しずつ回復している。チマチマと攻撃していては倒すのに時間がかかりそうだ。ボクはうちに秘めた力を開放するように力をさらに込める。


「うううううう、がぁあああ」


 狂戦士化による強化を得て、オークをどんどん追い込んでいく。周りの音がよく聞こえない。目の前のオークを倒すことしか考えられない。威力の増したボクの攻撃がオークの右腕に大きくめり込んだ。

 それをさらに力を込めて、右腕を切断させた。

 でもそんなことを気にもせず、オークの左腕から攻撃が繰り出される。無防備になったボクの顔面にその拳が当たった。

 ボクは吹き飛ばされた。でも痛みは感じない。はっきりとした意識の中で、右腕を失い戦闘能力を大きく失ったオークに攻撃を畳みかける。片腕を失ったオークの攻撃は遅くて、あっという間に倒すことが出来た。前方にいるカーズさんにはまだ余裕がありそうだった。ボクは急いで後ろのアレン達を助けにいこうと振り返る。


「アレン!」


 そこには頭から血を流し、オークを倒しているアレンの姿があった。それをクリコが回復している。


「だから言っただろ、オークの一体ぐらい僕だけで大丈夫だって、いたっ」

「アレンさんしゃべらないで、頭のケガは何があるか分からないんですから」

「ごめん、クリコ」


 クリコがアレンの傷口を触って回復魔法をかける。

 二人は大丈夫そうだ。狂戦士化していた思考がスーッと冷めていくのが分かる。


「後ろは任せたよー」

「ああ、任せろ。クリコ、再度警戒お願いします。僕が守りますから」

「無理はしないでください。持ちこたえればエミリさんが間に合いますから」


 二人の会話を聞きながら、未だに坑道内で敵を防ぎ続けているカーズの援護に向かった。



「おおエミリ、後ろは大丈夫か?俺はまだまだ耐えられるぞ」

「……うん!二人は大丈夫、ここからはボクも加勢するぞー!」


 カーズが引き付けているオークを尻目に、アレンの魔法でひどいケガを負って動けなくなっているオークにとどめをさしていく。これで人数差はない、ボク達は難敵を相手に勝利できた。


 順調だ。このままいけば作戦も完了できる。

 

「おや、お前さん達、無事だったか」

「おじいちゃん!そっちも大丈夫だった!?」


 右の横道からおじいちゃんのパーティが出てきた。どうやら道が繋がっていたようだ、それほど奥地に来たんだなと思った。


「こちらは思ったより敵と会わずに済んだんじゃ、おお、その緑色はソルジャーオークじゃな、他にも多くのオーク、厳しい戦いだったじゃろう。よく戦ったのう」

「えへへ」

「おじいさん方、ご無事でなによりです。僕達と合流できたということは右側の殲滅はほとんど済んだと思っていいですね」


 アレンとおじいちゃん達が今までの状況を説明しあう。どうやら僕達の役割はほとんど終わったようだ。

 そう思っていると遠くからかすかに剣がぶつかり合う音が聞こえた。


「アレン、左の道で誰かが戦ってるよ、あっちだとスコザさんがいる方向じゃないかな」

「俺には何も聞こえないが、エミリは耳がいいな、ほんとに戦っているのか?」

「可能性は高いでしょう。こちらも合流出来ましたし、とりあえず向かってみましょう。人数が多いほうが安全です」


 おじいちゃんとボク達は一緒に左の道を走っていった。さすがにおじいちゃんたちは足が遅いけど、それに合わせて走る。


「さすがに年寄にはこの長丁場は堪えるのぉ、終わったらゆっくり温泉にでも浸かりに行こうかの」

「ボク達もいこーよ」

「そうだな、慰安旅行をしてもバチは当たらないだろ」

「おい、剣の音が聞こえているぞ、やはり誰かが戦っているようだ」

「急いで向かいましょう」


 戦闘の気配を察知してボク達は大きな広場に出る。

 そこにいたのは巨大なオークと戦うスコザさんのパーティの姿だった。

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