第8話 オーク殲滅作戦

 オークを倒すには清々しいほど晴れた日、鉱山跡周辺には大勢の兵士と四組のパーティがいた。

 それぞれが正面から見て左端に武僧集団、左中央にスコザ、右中央にエミリ、右端の坑道におじいちゃん達、それぞれののパーティが突入する為に準備を整えている。

 アレンが最終確認を行う。


「一応内部の地図は貰っているが、かなり前のもので、新たな坑道が掘られていたり、逆に落盤して通れない可能性がある。あくまで補助として考えて進んでくれ。挟まれないようになるべく手前からしらみつぶしに探索していく。」

「りょーかい!皆も気を付けてね」


 エミリが皆を鼓舞する。今から始まる激しい戦闘を前に、身体能力の強化をさせる。加護の効果だ。


「みなのもの、準備はいいか、これより作戦を開始する!」


 軍の司令官が号令をかける。無論オークには聞こえないようにだ。何体かのオークは坑道から出ており、無用な音を立てて警戒されては作戦に支障が生じるからだ。


「勇者パーティ前へ、オーク殲滅作戦、開始!」


 それぞれのパーティが、目標の坑道に向かって走り出す。エミリ達の前には一体のオークがいる。特に武器も持たず防具も来ていない野生のオークだ。


「いっくよー!」

「だから俺の前にいかないでくれ!」


 いの一番にエミリが駆け出す。まだ坑道内ではないからこれでもいいが、本来最前線を支えるのはカーズの役割だ。しかしまだ広い坑道前の空間では、この奇襲に大きな価値があった。


 エミリが速度を落とさないまま、オークへと肉薄する。後ろを向いていたオークはそれに気づかず、剣先が自分の腹の前に出ていることで、ようやく敵襲を受けたことを確認する。


「ぶひぃい」


 小さく悲鳴をあげるが、そのままエミリは剣を上に向けて切り上げ、オークを倒してしまう。


「エミリ、単独での奇襲はここまでだ。あとはカーズさんを先頭に慎重に進んでいくぞ」

「分かってるって、アレンは心配性だなあ」

「ほら返り血、これからまだまだ戦いは続くんだ。綺麗になんてしてる暇ないからな」


 そう言ってエミリの頬についた血をアレンがぬぐう。ありがと、とエミリは感謝の言葉を述べる。


「ほ、ほらカーズさんがもう前にいる、さっさといくぞ」


 素直な反応にアレンが少し照れる。その後ろでクリコはにやにやと笑っている。しかし今から始まるオークとの戦いに向け、甘い感情を捨て去り集中力を高めていく。


 エミリ達の長い戦いが始まろうとしていた。



 坑道に入ってすぐ、3つの分岐点が訪れる。これは事前に地図で見たとおりだ。


「地図の情報が確かなら左右の坑道は行き止まり、中央の道が奥へと続いていく。まずは右から確認していこう」


 どこにオークが生息しているか分からない。挟み撃ちを避けるため、まずは閉ざされている道を進む。最悪前と後ろから挟まれても、奥に向かって進めば壁を背に戦うことが出来る。前後から攻撃されるよりは安全に戦うことが出来る。退路はなくなるのだが。


 右の坑道は地図通り行き止まりだった。それを確認して来た道を戻る。


「次は左だ」


 アレンの指示に三人も動く。カーズを先頭に進んでいく。

 そのカーズが急に立ち止まる。


「待て!明かりだ、どうやら奥になにかいるぞ」

「よし、これより前方にオークがいるものとして行動を開始する」

「念のため、防御を固めておきますね。神の奇跡よ、このものを守り賜え」


 クリコの支援魔法によって皆の防御力があがる。


「さぁいくぞ」


 カーズが明かりに向かって駆け出す。その目の前に食事をするオークが三体、目についた。


「数は三、まだこちらに気づいていない。このまま俺は突っ込むぞ」

「了解、エミリはまだ待機、カーズが敵を引き付けている間に相手の後ろに回り込んで各個撃破、こちらも詠唱を始める。

「今は待機、カーズがいったら突っ込む。今は待機、カーズが…」


 エミリがぶつぶつと作戦を復唱する。こんな戦闘はこれから何度も起こるはずだ。間違えないように、先走らないようにアレンの言葉を繰り返し口に出す。

 カーズが咆哮を上げて敵の敵愾心を自分に向ける。


「さぁこい!!」


 突然の大声にオーク達が反応する。侵入者だ、排除しなければ。そう思ったオーク達が立ち上がりカーズへと向かっていく。手元にあるこん棒をもって腰蓑の以外は裸のオークが二体、剣を持ち鎧を身にまとったオークが一体だ。


「防具を着ていない奴から先に狙え!」


 アレンの指示にエミリが素早く動きオークの横につく。少し興奮状態になっているエミリだがアレンの言葉は聞こえている。


「オークも、殲滅、だよ!」


 横薙ぎに払われた剣がオークの首に半分ほど食い込む。意識外からの攻撃、そして致命傷を受け、斬られたオークが崩れ去る。


 先ほどまで横にいた仲間がいない。装備をしたオークが仲間が急に消えたことに危険を察知し、突撃をやめ後ろへ下がる。もう一体のオークはそれに気づかず、カーズに向かって突っ込んでいく。


「ふん!」


 別にカーズは弱いわけではない。守りに特化した加護とはいえ、その剣術は騎士団の兵士としては指折りだ。オークを相手に戦闘を優勢に進めていく。


「風の精霊よ、僕の呼びかけに応えたまえ、アクアカッター!」


 アレンの短い詠唱から放たれた水の魔法がオークへと直撃する。武器を持った右腕を切断されたオークを、エミリとカーズが挟撃しとどめを刺す。オーク三体との戦いは無傷で終わることが出来た。


「少数戦なら問題になりそうにないですね」


 そう言ってクリコが体力を回復させる魔法を全体に付与する。威力は抑えめで魔力の消費も抑えられている。


「こんな戦いばかりではないはずだ、十体以上の集団と戦うこともあるかもしれない。出来るだけ狭い坑道内で相手の人数を限定させて戦うことを心掛けよう」


 アレンの方針に皆が頷く。

 坑道に巣くうオーク達との戦いは始まったばかりだ。

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