第7話 ルムール要塞にて
四人が各地を回り、時に魔物を討伐し、時に勘違いをして、時にクリコが陰で笑っていたり、厳しくも楽しい旅が続いていた。
王都から西にある国の関所、ルムール要塞で会議が行われていた。
「オークの拠点はここで間違いないな」
「はい、なんども偵察し確認しております。多数のオークの出入りがあり、オークキングの姿も目撃されています」
「オークキングだと!ただえさえ巨大な鉱山跡だ、どれだけのオークがいるか分からない。被害が出る前に見つけられたのは僥倖だったな」
要塞にて幹部たちと報告にきた兵士が、目の前の議題に対して対策を考えている。
「こちらの兵力だけでは不足していると思われます。王都に増援を頼みますか?」
「いや、他の方面の対処で手一杯だろう。こちらは山脈があり天然の要塞として魔物の侵攻を押しとどめている唯一の方面だ。出来るだけ中央の手は煩わせるわけにはいかない」
「しかし兵力が足りないのも事実、予備兵をかき集めても厳しいだろう」
「それでは勇者パーティを利用してみてはどうかな?」
幹部の一人の声に全員がそちらを見る。
「周辺の町にいる勇者パーティに助力を乞うのだ、彼らも王国の為に戦う戦士だ。小回りも効くし、なにより彼らは強い。これ以上の案はないと思うが」
「少なくともこれ以上にいい案は今のところはないな、よし近くの町に伝令を走らせろ、集められるだけのパーティを召集するんだ」
「はっ!」
返事をした兵士が要塞にいる伝令係に会議の結論を伝えにいく。
この召集によって4組のパーティが集まった。エミリ達もそのパーティに含まれていた。
クリコが思案顔で掲示板に貼ってある用紙を見る。
「オークの拠点壊滅作戦、しかも主力戦力としての参戦ですか、これは責任重大ですね」
「アレンがいるなら大丈夫だよ、オークってすっごく頭が悪いんでしょ、頭脳でアレンが負けるわけないじゃん」
「力が違うだろ、しかも女性を繁殖用に攫う魔物だ。あまり勧められたものじゃない」
「しかし、このまま放置していればやつらは更に数を増し、被害がどこまで広がるか分からないじゃないか」
ただえさえ、王国は全面的に魔物と対峙することになっている。そこに唯一警備が薄くて助かっている西側の山脈に、魔物が住み着いたとなれば、王国の今後の未来に暗い影を落とすことになる。
「大丈夫だよ、ボクは男みたいなもんだし。でもクリコは危ないかも、参加は見送る?」
「いえ、参加しましょう。女性にとって、もっとも脅威であるオークの殲滅は聖書にも書かれていますから」
聖書にはそんなこと書かれてはいないが、オークによって凌辱されてきた女性を彼女は何人も見てる。心が壊れたもの、オークの子供を孕み自殺してしまったもの、家族から捨てられたもの、すべての人が不幸になっていた。
「エミリが男みたいなのは否定しないが、一応女なんだから気を付けろよ、狙われるのはクリコだろうけど」
「む、女性に対してその物言いは感心しないな」
「あ、すいませんカーズさん」
「謝る相手が違うのでは?
「ごめん、エミリ」
「別にいいよ、ボクがそう見えるのは事実だし」
カーズに窘められ、アレンがエミリに謝罪する。エミリは本当に気にしてない。小さいころから遊ぶ相手は男の子だったし、大きくなってからも男衆に交じって力仕事をしていた。下手な男性より男らしかった。
しかしエミリが男と間違えられるか?と言われればそういうわけでもない。身長は百五十㎝程度で小柄な彼女は、内に秘めた力とは裏腹に女性らしいプロポーションをしている。好む服装も短パンやTシャツのような露出の多いものが多く、彼女のことを好意的な目で見る男も少なくない。
逆にコリンはその背丈は女性にしては高く、聖職者ということで服装もシスターが着るものと変わりがない。一応旅をするのに不都合がない程度に短くされているが、肌を見せるような服装ではない。淑女然としているのはどちらかと言われれば全員がクリコを選ぶだろう。オークも大人しい女性を狙う、抵抗されると面倒なことを理解しているからだ。
オーク討伐の依頼を見てから一週間、期日になったのでルムール要塞に参上した。。
他に集まっているパーティはいないのか、そう思い彼女らが要塞の中に入り周囲を見渡すと、武僧のような集団と、少し年を召した集団の二組が見えた。
エミリは武僧達に話しかける。
「こんにちは、オーク討伐に集まったパーティーですか?」
「おっす、そうです。私達願恩僧院の武僧です。修行の一環としてこちらに参上しました」
「強そうだね、この作戦が終わったら一つ手合わせお願いしてもいいかな?」
「おっす、こちらこそよろしくお願いします」
六人で構成された全員武僧の集団、勇者パーティとは別口で参加を決めた人達だ。武僧の多くが”拳舞の心得”の加護を持っている。気力という人体に眠る秘めたる力を使い、肉体を強化し、時に傷口を塞ぐ。まるで魔法使いだ。しかし素手での戦闘に限定されるという少し変わった加護だ。
続いて老人に足を突っ込んでいるくらいの人達にエミリが話しかける。
「おじいちゃんたちこんにちは、大丈夫ですか?間違えてないですか?これはオークの拠点に攻撃しにいくん作戦ですけど」
「ああ、間違っておらんよ、ワシらは昔は勇者パーティとして活動してたんじゃが、衰えには勝てずに引退したもの達じゃ。今回のオークの拠点の話を聞いて、期間限定で復帰したんじゃよ。若者に危険な仕事は任せたくないしの」
「素晴らしい!!貴方たちのような方々を守ってこその騎士というものなのに!そこ心意気決して無駄にさせはしません!」
「ちょっと落ち着いてくださいよカーズさん、おじいちゃん達引いてますよ」
「うむ、すまない」
クリコが興奮したカーズを制止する。
元騎士団の血が騒いだのだろう。熱血漢なところは彼の長所であり欠点でもある。
そこに緑色の髪をした優男が入ってきた。
「やあやあ、随分男くさいところだねここは」
「なんだあれは、あれも勇者パーティなのか?」
アレンが疑問を口にする。
後ろに4人の女性を引き連れた男がそれに答える。
「聞こえているよ、僕こそが勇者スコザその人さ、君たちも聞いたことあるだろう?」
この男、実は有名人である。悪い意味でだが。
スコザのその女癖の悪さに辟易している人は多い、パーティの仲間はすべて女性なのは当然として、行く先々の村や町で女性と遊び歩いている。それだけなら勇者の資格をはく奪させればいいだけなのだが、質の悪いことにこの男実力だけはあるのだ。
その悪名を知らないエミリがアレンに尋ねる。
「アレン、あの人有名なの?」
「ある意味有名だな、エミリは知らなくていいよ」
「やや、そこの君なかなか可愛いね、最近見ないタイプの女性だ」
「あー寄らなくて結構です。うちは間に合ってるんでそちらの女性たちとちちくりあってください」
「うーん、さしずめ君がナイトってことかな、いいね障害がある恋の方が燃えるってものさ」
「あの人ボクに恋してるの?」
「真に受けるな、ほら、さっさといくぞ」
アレンが汚いものを見るかのようにスコザを睨みつけ、仲間たちを率いて距離を取る。
そこに要塞の軍人達が建物から出てくる。ぞろぞろと兵士達出てきて各パーティに用紙を渡してくる。作戦の概要が書かれた紙だ。しばらくしてからその中で一番偉そうな男が、集まったパーティに向けてお礼の言葉を述べる。
「この度は集まってくれて心から感謝する。中にはわざわざ引退していたのに来てもらったものもいる。依頼書にも書いているが、オークの拠点を先週発見した。数は不明だが、相当数がいるものと考えられる。今回の作戦は今後出るであろう犠牲をなくす為に必要なものだ。私達の部隊が逃がさず殲滅させるために後詰めで待機しているので、諸君らには先陣を切って場を荒らせるだけ荒らしてほしい。またオークキングの存在も確認されているため、発見した際は無理をせず撤退してもらって構わない。以上だ、何か質問はあるか」
アレンが挙手をして軍人の説明に質問を求める
「オークキングは戦わないでどうするんですか?」
「こちらの部隊で対処する予定だ、鉱山跡のため、最悪生き埋めにさせればいい。多少の犠牲は出るかもしれないが、諸君らにそこまでの責務は求められない」
「なるほど、では先陣を切れとのことですが、どのように戦えばよろしいですか?」
「それぞれ異なる洞穴から入り、目につくオークを片っ端から倒してほしい、無論無理な戦闘をしろというわけではなく、退路を確保して出来るだけ安全に戦ってもらって欲しい。こちらはあぶれた穴から出てきたオークを各個撃破していく」
「わかりました。僕からは以上です」
「他に質問のあるものは、無いようならこれでおしまいだ」
その場で他に質問するものはいなかった。
やることは目の前の敵の殲滅、非常に単純だ。
「オークキングと出会ったらどうするアレン」
「そりゃ逃げるさ」
「えー戦わないの?別に倒してもいいんでしょ」
「質問でも聞いただろ、軍の人達が対処してくれるって。俺たちが無理して戦って負けるほうがよっぽど困ることだよ」
「その場の判断はアレンさんに任せますね、よろしくお願いします」
「分かりました。基本的には撤退ですけど、状況次第では戦闘の可能性もあるので忘れないでおいてください」
「信頼しているぞ!アレン!」
バシッとカーズに背中を叩かれよろめくアレンは、もう少し鍛えないとなと密かに思った。
その晩、エミリ達はオーク戦について基本的なことを話し合った。戦闘体制はいつも通り、カーズがメインタンクをはり、エミリが遊撃として敵を攻撃し、アレンが敵を殲滅する。クリコは余裕があれば支援魔法を切らさず、味方のケガに注意して戦闘を俯瞰する。
問題になるのはアレンの攻撃だ。洞窟という狭い空間、鉱山跡という脆い地盤、ただ高火力な魔法を打つだけでは自滅の可能性がある。
「爆発系は使えないな、風や水を中心に援護するよ。今回はエミリの殲滅力に期待するよ」
「任せて!オークは女性の敵?なんでしょ」
「ええ、やつらは一匹たりとも逃してはいけませんよ、エミリさん」
そういうクリコの顔は暗く、ふつふつとした怒りに燃えていた。
そして次の日、オークの拠点殲滅作戦が実行された。
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