第6話 それぞれの視点

 初めは少し侮っていた。自分より小さな女の子、本当にこんな子が勇者なのかと。

 その思いはすぐに間違っていたと気づかされることになる。その膂力は自分にも引けを取らない、むしろそれ以上かもしれない。これまで鍛えてきた自分の力に少しばかり自信を持っていた俺は、その小さな体に秘められた力に驚いた。


 剣術は素人の剣術と言っても過言ではなかった。普通の町で暮らしていたのだろう、兵士の真似事、狩猟を中心とした剣術は対人戦という点、効率という点からも劣っていた。しかしそれもほんの少しの期間だけだった。わずか一週間という期間で、しかも直接教わることもなく、彼女の動きは上級の近衛騎士と比べても遜色のないものへと昇華されていた。


「自信なくすよ」

「ほんと、すごいですね」


 王都から出発する前、二人が用事があると言って出て行ってしまった。暇な時間出来てしまったので、親睦を深める意味を込めてクリコと二人で夕食をとっている。


「一週間前、二人の初めての訓練を見たとき、やはり騎士の方は強いなと思ったのですが、エミリさんがこんなに早く強くなってしまうなんて、才能ですかね」

「そんな一言で片付けられしまうのは困るな。彼女は夜遅くまで訓練をしていたよ、努力あってこその才能だ。すごいと言えばアレンもそうじゃないか」

「簡易ですけど回復魔法まで使えるようになるなんて、私が加護を授かってから実際に発現させるまで二年もかかりましたのに」

「でもクリコの回復魔法はもっとすごいだろう?あれほどの大けがをあの短時間で治す僧侶が何人いるか、はぁ前途有望な若者たちばかりで参ったよ。俺がしっかり守らないとな」

「私は攻撃に関しては全く役に立たないので、皆さんの強さが羨ましいですよ」


 皆違ってみんないい。俺たちはいいパーティになれそうだな。そう思えた一週間だった。




 私達の旅が始まって一か月くらいたったでしょうか。

 最近気づいたことがあります。

 アレンさんとエミリって本当に付き合っているのでしょうか?


 初めは小さな違和感でした、いくら恋人同士とはいえイチャイチャするの、はばかれるでしょう。私たちの見えないところで恋人らしいことをしてると思っていました。しかしエミリはいつも剣術の訓練をカーズさんと行っていますし、アレンさんもたまにその訓練に参加されたり、暇があれば魔術の研鑽を怠らないようにしています。

 

 あぁ真面目な清い付き合いなのね。そう納得していました。

 だって付き合っていないわけがないじゃないですか、少なくともお互い好きあっていると。生まれたときから幼馴染で、故郷の町を命懸けで二人で守る。そこに何もないわけがないじゃないですか。

 でもそれからしばらく経っても二人きりになることはありませんでした。

 そしてある村で宿に泊まった時、寝る前に話をしていたエミリから、予想もしない話を聞かされました。


「アレンの好きなタイプってクリコみたいな子なんだって~」


 ?。なにを急に言い出すのでしょうか。彼はいつもエミリを目で追っていますし、私のことは戦闘の時に警戒してくれる程度です。彼の役割は敵の殲滅ですので、私に注意がいっていることだけでもありがたいことです。前衛の二人には及びませんが、彼は剣術も修めており、私が安全に戦闘に参加できるのは彼の配慮のおかげでもあります。


「アレンさんはエミリのことが好きだと思うのですが……?」

「ボク?ないない!前にアレンに好きな人がいないかって聞いたことあったんだけどいないって言ってたし、クリコみたいな大人しくて清楚な子がタイプだって言ってたよ」


 アレンさん……それは悪手ですよ。何を思ったか知らないですけど、エミリは素直な子なんですから、照れ隠しかなにかは知らないですけど、嘘は言っちゃだめです。

 細かいことは分からないけど、アレンさんがエミリを好きなことは確実です。それとこれは気づいていないだけかもしれないけど、エミリがアレンさんのことも好きなのも分かっています。私がカーズさんを回復するときは何も気にしないのに、アレンさんを回復するときはいつもこちらに目を向けているのを知っています。その目は嫉妬というには可愛らしいほどの小さすぎる輝きが灯っていることも。


 うーん、これはどうしたものでしょうか。

 恋愛ごとで揉めることは往々としてあることです。無駄につついて大惨事を起こしても困ります。私は今の生活を割と気に入っています。教会の中では見れなかった景色、厳しいことや残酷なこと、この世の中の悪いとこも見えますけど、安全な王都で暮らしていれば知ることのできなかったことが、この旅には溢れています。



 うん、一旦保留しましょう。幸い誰もこのことに気づいていませんし、私が何も言わなければ何も起こることはないでしょう。もし何か起こったとしても、それは自然なことで私のせいではありませんしね。

 なによりこのじれったい二人を観察するのも旅の楽しみとして見るのも悪くないかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る