第5話 結成の日、そして旅立ち ~side アレン
勇者パーティの結成が決まってしまった。王からの呼び出しがある時点である程度予想できていたことだが、やはり断ることは出来なかった。
なによりエミリの後押しが大きかった。本人がやる気になってしまったら、僕に止めることは出来ない。あいつはやると決めたら頑固なのだ。クソっ、勇者として活動するならばどんな危険があるかは分からない。エミリを守り切る自信がない。僕は自分の力のなさを嘆いた。
「こんにちは、騎士団から派遣されてきたカーズと申します。加護は”堅牢の盾”です。この度は勇者パーティへの参加、謹んでお受けいたします」
「教会から召集されたクリコと言います。加護は”癒しの光”、よろしくお願いします」
パーティとして活動するにあたり、追加で補充された人員の二人が挨拶をしてくれる。カーズは20歳で、父親が騎士団の兵士で幼いころから鍛錬を積んでいたらしい。その体躯は丸太のように太く、自分が小枝に思えるほどの差がある。
17歳のクリコは孤児院育ちで、5歳の祝福の儀で癒しの光の加護を得たため、教会へと引き取られシスターとして日々教会の仕事をしていたとのこと。荒事に参加したことは少なく、色白な肌はこの過酷な旅に耐えられるか不安にもさせる。
「エミリと言います!一応勇者ってことになっていますが、そんな大層なものじゃないので気軽に接してくれると嬉しいです」
「僕はアレンと言います。賢者の称号を承りました。魔術全般、戦術戦略にも長けていると自負しています。このパーティの司令塔として活動したいと考えています。どうぞよろしくお願いします」
四人で挨拶を交わす。今のところ皆好印象を持てる仲間と言っても問題なさそうだ。何より守りの要になる剣士と癒しを持った僧侶というのが頼もしい。勇者パーティはその構成人数にバラつきはあるが、この4人ならバランスの取れた構成になったと思う。
「まだお互いのことをよく分かっていませんし、これから一週間程度は王都で生活するのはどうでしょうか、近くの村で害獣駆除なども出来ますし、力量を把握しておくことが大事になるかと思います」
「そうだな、勇者とは手合わせをお願いしたい。町を守ったというその力、見させてくれ」
「私の役割は回復で、直接的な戦闘にはあまり参加できません。この細腕ですし。教会で行っている診療所での仕事を見てもらえるといいかもしれません」
「ボクは問題ないよ」
「では、明日から行動を開始しましょう。今すぐ旅立つ訳じゃないですが、別れを済ませておくといいと思います。こちらの事情で申し訳ないですが、王都を出て最初は僕達の生まれた町に立ち寄ってもらいたいと思います。連絡がいっているかもしれないですが、直接伝えたいので」」
王都での一週間はあっという間だった。エミリとカーズの手合わせは、初めはカーズが優勢だった、しかし鮮麗されたその剣術をエミリはぐんぐんと吸収し最後の方ではカーズを圧倒するほどに腕前を上げていた。加護の差もあるだろうが、やはりエミリのセンスはすごい。カーズはそれでも充分な剣術の腕を持っていたし、そもそも守りの加護なのだ。一対一の戦いよりも、仲間を守れる多数との戦いこそが彼の本域だろう。
クリコの回復魔法も大したものだった。その高い魔力で、事故にあいひどい骨折していた患者を、ものの数分で回復させていた。疲れた様子もなく、彼女の能力の高さが窺える。
なによりこの一週間で親睦が深まったようだ。エミリとカーズの間に敬語はなくなり、気の知れた友人のように接している。僕とは少し違った彼女の対応に少し嫉妬してしまった。いかんいかん、これから旅を続けるのに、いつまで過去の事を引きずっているんだ僕は。
そして遂に旅立つ時がきた。荷物を背負い込み、王都を後にする。
最初の目的地、僕達の故郷に向かって歩き出した。
町にはすぐに着いて、お互いの両親に話をしにいった。エミリの親は少し涙ぐんでいて、心配で仕方がないといった感じだ。僕の両親はしっかりエミリを守るんだぞ、と強く背中を押してくれた。
僕達が町の人たちに挨拶している間、カーズとクリコが復興の手伝いをしてくれていたらしい。いい仲間を持ったなと最後の宴で友人に言われた。ほんと、いいやつだよなあ…
故郷の町に別れを告げて僕達は北に向かって旅を開始した。
北の方角は先日魔物の大群が襲ってきた方角だ。近くにあった村や町にも被害が出ているかもしれない。その実情を確認しようと全員の了承を得て歩を進める。
予想通り、旅を始めて一週間、近くの村や町は甚大な被害を受けていた。魔物が通り過ぎていっただけで済んだ村もあれば、魔物が襲ってきた痕跡のある村もあった。命を落としたものも多く、残った魔物に苦しめられている人たちもいた。
「ここまで支援が回ってきてませんね、それだけ人手が足りていないのでしょう」
「騎士団は南の侵攻に人数を割いている。反対のこちら側が手薄になってしまい申し訳ない」
「カーズさんの責任ではないですよ、すべて魔王が悪いのですから」
殊勝に頭を下げるカーズさんに僕は慰めの言葉を掛ける。全ての元凶は魔王なのだ、エミリが勇者として駆り出される原因になったのも。
「誰かいませんか~」
エミリが人気のない村で人が残っていないか探す。もしかしたら隠れて生き延びた人もいるかもしれない。一縷の望みにかけて、大きな声で生存者を探す。
「ガルルルル」
エミリの声に反応してきたのは狼の魔物だった。十体ほどの集団は、大きく青いたて髪の狼をリーダーとしているようだった。
魔物が襲い掛かってくる。僕達も周囲の警戒はしていたので、魔物の襲来に慌てることはなかった。カーズが最前列へと飛び出し、一番手前の魔物をその大きな盾を取って吹き飛ばすと、敵の敵愾心を引き付けるように大きな声で叫ぶ。
「さあこい!!!」
その声につられてほとんどの狼がカーズへと向かっていく。その数を捌ききれるはずもない、そう思うのが普通だが、カーズは一言小さな声でつぶやく。
「バリア」
薄い小さな膜が彼を覆う。噛みついてくる狼の攻撃は彼の皮膚に届いていない。驚いている魔物達、その隙を僕達が見逃すはずもなく、エミリの剣、僕の魔法で次々と魔物達を倒していく。残ったのはリーダーと思われる大きな狼だけだ。
一瞬で自分の手下がやられてしまったことに憤慨したのだろうか。はたまた他の仲間を呼ぶためか、大きな声で狼が叫び声をあげる。
その咆哮は耳を塞ぐほど大きく、皆怯んでしまう。四人相手に勝てると思っているのか、知能が低いだけなのか、こちらに向かって魔物が走ってくる。他の狼の魔物に比べて二回りほど大きいそれは、近づいてくると中々の迫力だった。
「俺を見ろ!!」
カーズが叫ぶが、少しそちらを向いただけでこちらに真っすぐ向かってくる。
クリコのほうだ。
この場で一番弱いものを本能で感じ取ったのだろうか。戦闘経験の少ない彼女を攻撃対象に選んできた。僕はクリコの前に立ち、簡単な魔法の詠唱を始める。
「させないよ」
それを狼の横からエミリが蹴り上げる。空中に少し浮くほどのその蹴りは、敵の動きを止めるには充分過ぎるほどだった。
「エアカッター」
風の刃が狼の魔物に迫っていく。その刃が喉元に当たったかと思うと、その首は両断され敵は絶命した。
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