第6話 鬼
◇
月虹学院の教室内、ホームルーム。一体どこが
「―――つまりだな、この安全地区・東京に影人が多々出現するという異常事態が発生しているわけだ」
「せんせーい、それって昨日の昼間に現れた影人もそうなんですかー?」
一人の女子が訊いた、その昼間の影人とはまさにオレがボコったやつではないか。
可哀想に。アリは何も悪くないのに通行人(オレ)に踏まれるのだ。
まあいいさ。どうせ人食いアリなのだから。
「へへっ、影人なんざ俺の敵じゃないぜ! 片手で軽く捻り潰してやる!」
朝から元気いっぱいのモテ男A。声を大にして承認欲求を満たすための発言を繰り出す。さすが陽キャの鏡だ。
一方オレはこの男に今日もこき使われ、蹴られる毎日の始まり始まり、と。
「―――というわけで、みんなも寄り道せずに出来るだけ早く下校するんだぞ?」
担任のこの忠告、正直意味ないだろ。
だってオレはボッチで最速下校(ギネス世界記録)という必殺技を繰り出していたにもかかわらず、昨日はその影人にばったり出くわした。
なんという不運……。絶対おかしいよな。
しかしその分の埋め合わせも存在した。
そう、それは霧神 茜の存在。
昨日の茜はこう言ってたな。
「――ごめん、物凄く話変わるんだけど、こんな街中で立て続けに影人が出現。この異常事態、蒼斗くんは何が原因だと思う?」
本来影人はこんな場所にはいない。「消滅地域」と呼ばれる北緯40度以上にのみ隔離されているはず。
「さあ……人為的なものだと予想する。ただ言えるのは、この爆発が起こった民家、おそらくは五人家族だったんだろう」
「さすが物知りなんだね、私のギアは」
腰を低くして上目遣いしてくる茜だが……可愛い。そしていい匂い……。
これはもう不可抗力でオレの頬が熱くなる。
すると急に目の前に、鬼のような形相の白愛が現れる。
え……? なぜここに?
違うんだ白愛! これは炎の反射で頬が赤くなっているんだ!(消火終了後)
「オレは、やましいことは何もしてないぞ!!」
そう叫びながら、気付いた時には既に立ち上がっていた。教室内で。
ん、そうか、オレは夢を見ていたのか。
夢と現実が、入れかわってる~!!!
精一杯ふざけた内容で脳内を埋めて現実逃避したが、担任という鬼はオレの前に来て容赦なくげんこつを決めてくる。
「ほう、朝っぱらから居眠りとはいい度胸だな、柊」
そう言いながら。
瞬間教室内からはオレを馬鹿にしたような嘲笑が広がる。この現状が確実にオレの心を抉ってくる。ただでさえ蔑まれ、いじめの対象だというのに。
しかし挫けるわけにはいかない。
この学校で卒業しなければ能力レベル「-1」のオレが異能士資格を貰えるはずがない。スカウトなんて近道などもっとあり得ない。
でも茜が約束してくれた。……この学校を無事卒業すれば、本物のギアになってくれると。
それまでは仮のギアとして契約してくれると。
ん、待て。どうして彼女はオレをスカウトしない? 極秘機関所属だからか?
などと気づけばオレの脳内は彼女のことばかり。いかんいかん。
「柊、お前な、こんなだらけてると本当にギア決まらないぞ?」
説明しよう。「ギア」とは基本18歳までに契約するもので、同性と組んでも異性と組んでもいい異能士専属パートナーの名称。その二人は協力し合い、助け合い影人の討伐に勤しむ。
本格的なギア契約は本部からの許可が必要で、ギア同士の強さ・バランスを鑑みた科学的な戦闘データを基に合格か不合格か決まる。
18歳までに決まるとか言ってるが、これは名目上の話。実際の異能開花者はほぼ高一・高二、早い者は中二・中三で決定しておくもの。これがギア仮契約の真実。
「先生、『
今度はクラスの優等生・モテ男Bの登場。この人が一条 冷華のギアになる予定の委員長男子。普段はイケメンでクールぶっているが、その正体はとんでもないゲス野郎である。それは今のセリフよりQED。
このモテ男Bは一条 冷華ほどじゃないがレベル『6』という学生にしては脅威の数字を有している。正直昨日の茜『10』を見ているのでもう何とも思わんが。
「ん~、そうだな。よし柊、廊下へ行け」
さすが、的確な判断ができる超・超・超賢い担任教師である。
くそが。DT教師め(本音)。
◇
時を同じくして――。
影人討伐組織『
「――おい
「ん……なに?」
不機嫌風味のポーカーフェイスで振り返り、聞き返す霧神 茜。
彼女は柊 蒼斗を前にした時とはまるで別人のような不愛想な態度でその長身男と接する。
「いいか! お前は俺のギアになるべき存在だ! それが、どうしてどこの馬の骨とも分からんような男子と仮契約を! 認めんぞ!」
それを聞き、隠す気もなくしかめっ面をする茜。
「あなた、そればっかりだね。人の気持ち、考えたことある? 私のこと鬼だ鬼だって蔑んでおいて、力が欲しくなった途端私とギアを組もうって? それは流石に虫が良すぎるんじゃないの?」
サイボーグのような淡々とした声で言う茜。
しかし長身男は食い下がる。この女を抱きたいという淫らな欲望もあったのだろう。
「お前とギアになれる存在なんて、この世のどこを探したっていないさ。諦めろ。なんせお前は正真正銘の『赤鬼』なんだからな!」
茜はそれ聞き、鋭い紅瞳で彼を睨みつけた。瞬間、空間は緊張という糸で固められ、長身男は金縛りを体感し委縮する。
赤鬼というワードは茜にとってのいわゆる「地雷」。彼女の前で言ってはいけない言葉ダントツのナンバーワンである。
「なっ―――!!」
茜がもろに出すその殺気、それが空間を赤いオーラで埋め、一帯を縛った。
彼女は赤い角を二本、額から生やし、犬歯から牙をも生やす。その姿はまさに鬼そのものだった。
否定しようもない妖しい赤鬼。その身体には僅かながら赤い電気が「敵意」とばかりにじりじりと音を立てる。
「鬼、鬼ってうるさいな。じゃあ聞くけど、鬼である私があなたとなら釣り合うって言いたいの?」
彼はみるみるうちに冷や汗をかく。その恐ろしさに思わず震え、後ずさる。
「その程度の覚悟で、私のギアになれるとでも?」
くだらないと茜は彼に背を向け、去っていく。
(言ってるでしょ? 私と肩を並べられるのは――
茜は何事もなかったかのように角と牙を収め、ハイヒールをコツコツと鳴らしながらその無機質な廊下を去っていった。
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