第5話 責任、取ってよね?
◇
それからというもの、オレと茜さんはどういうわけか隣町の爆発が起こった物騒な現場に訪れていた。
いや、なんでだよ。ほんと、どうしてこうなった?
「はぁ……」
まあなぜ? と聞かれれば、突然正体不明の爆発が街中で起こり、影人が五体も出現。現場に一番近かった茜さんが召集を受けたからというのが答えになる。
その時丁度、茜さんは我が家の玄関にてギアを正式に結ぶためオレと会話していた。
そう、つまりはそういう事である。
偶然にも訪れた実力を測れてしまう絶好の機会に茜さんがオレを逃がしてくれるわけもなく、炎の海での戦闘を強制され、仕方なくやっている。
「茜さん、右の影人はオレが仕留める」
正直言うとオレ一人でも目の前の影人五体を片付けられるが、彼女の実力も見ておきたい。
「分かった。私は左ねー」
オレは燃える家屋の中、右に佇む三体の影人の方へ走って接近、そのまま蒼きオーラを纏う右手の手刀で切りつける。
「青閃」
切り付けた一帯は空間ごと切断を受け、現実世界そのものに切れ込みが入る。
影人三体の切断面から血が噴き出たかと思うと、今度はその黒いボディが光の塵となって消えていく。
代わりに虹色に輝く魔石のようなものを落としていった。
これがいわゆる「
さすが、相変わらずの輝きだ。懐かしいな。などと思っていると、
「へぇ……一級レベルの影人を秒殺。蒼斗くん凄いじゃん」
空間切断を広範囲に受け、三体諸共切断されるそのシーンを見ていたかのような口振り。
「え、茜さん。左の影人は?」
先程確かに左側に居たはずの二体の影人。それが居なかったのだが。
まさか。いやまさかな。
「え、もう倒したけど?」
うん、やっぱりおかしい。
影人は
何が言いたいかと言うと、この茜さんとかいう
文字通り瞬殺した、ということ。
信じられない……人間業とは到底思えないが。
「私の実力を確かめる暇なかったでしょ?」
炎の中、首を傾げながら妖艶な笑みで訊いてくる。
「え、いや……どういう意味だ?」
「うーん、君自身が一番理解してると思うけど?」
この人、相当場慣れしてる上に人の行動や狙いをよく理解している。
こちらの意図を一瞬で見抜かれた。
なんだ、この人はエスパーなのか?
いや、
「それに蒼斗くんさ、これからギアになるんだから私に実力隠すのは無しだよ?」
げっ。
「なんのことだ……?」
「バレないとでも思った? 影人三体を相手する時、わざわざ接近して空間切断なんか使わなくとも、蒼斗くんなら遠距離から倒せたはずでしょ?」
彼女の表情を見ると、初めて少し怒ったようなそんな顔を見せた。
もしかして実力隠したからちょっといじけてる?
その真偽を確かめる前に、灼熱の炎に包まれそろそろ熱く感じてきたのでいったん外に出ようか。
闇夜へ出ると、ついに消防車も到着。現場の消火活動の間、その端の道路でオレと茜は並んでいた。
「統也くん、私のことまだ信用してない?」
「うん、正直な」
いきなり訪れて、いきなりギアになってほしいと言われた。たとえそれが超絶美少女である君からの提案でも、というか美少女だから怪しいのだ。
「疑う」ことは簡単だが「信じる」ことは難しい。人間とは元よりそういう生き物だろう。
オレにとって一番大切なのは白愛の安全。彼女を守れれば別に贅沢は望まない主義。
だがそれでも茜とギアになることを決意したのは偏に彼女が「
「でも茜さん、君を信用しなきゃとは思っている。君がオレの妹・白愛と同じ異能『雷電』を扱う霧神家のもう一人の生き残りである以上はな」
それは、汎用性が高い電気性質の異能を操る最強の異能家。
「やっぱり知ってたんだね」
「まあな、君の綺麗な瞳を見ればすぐに分かることだ」
彼女の「紅い瞳」……これは霧神一族特有の瞳である。何より霧神という名前で分かるだろう。
「君、そうやって女性を口説くのよくないよ? コンプレックスである紅い瞳を褒めるとかズルいからね?」
いや、別に口説いてないんだが。
単純にオレの感性は他の人間とは違う。差別するようなクズと同じにしないでもらいたい。
この瞳をルビーのようで綺麗だと思える。ただそれだけなのだ。
「綺麗だから言ってるんだ。本当にな」
言うと、心なしか茜さんの顔が赤くなっている気がした。
炎が反射しただけかもしれないが(ここ重要)。
「蒼斗くん、私、君とギアになってもいいかな?」
改まって言ってきた。そらくこれが最後の確認。口調からそう読み取れる。
「ああ、さっきの戦闘で確信した。おそらくオレと肩を並べられる人間がいるとすれば、それは唯一君だけだ」
本心から思っていたことを言葉にするのは、なんだか少し恥ずかしかった。これが女子に告白する男子の気持ちか(違う)。
しかしこれで良かった。
オレは妹の白愛を守りたい。茜はそのための重要な戦力になる。何よりオレと肩を並べて戦えたという事実が、腹から湧き上がる高揚を隠せない。
「オレには君が必要だ。君じゃないと駄目なんだ」
気づけばそう口走っていた。
「私、そんな恥ずかしいこと言われたの、生まれて初めて。……責任、取ってよね?」
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