011 歩法

さてスキルポイントを何処に使おうか。現状、一階層であれば戦闘系のスキルは事足りている。唯一、【ラビット】を一撃で倒せない、というのはあるので【奇襲】か【投石】にスキルポイントを振るのは悪い手ではないと思う。


もし兎を一撃で倒せるようになれば少し動作が減るので狩りの効率は大幅に上がるだろう。とはいえ狩りの効率を本当に上げるとするならば【歩法】のレベルを上げるか或いは【脚力強化】や【疲労耐性】といったスキルを取得することも視野に入る。


今、候補に挙げはしたが流石に【疲労耐性】を取得するのは勿体無いと感じてしまう。このスキルは見習い狩人だけではなく戦闘職であればどの職業でも取得できるスキルになる。所謂コモンスキルと呼ばれるものだ。


勿論、あると便利ではある。しかし、このスキルは体力の上限を上昇させる系統のスキルでなく疲れによるパフォーマンスの低下を起こしにくくするというだけのスキルなのだ。なので体が疲れていない訳ではなく疲れているけど能力の低下が起きにくくなる。それだけのスキルなのだ。


体力を底上げするようなスキルを軒並みとった後に更なる保険として用いられることはあるそうだが少なくとも現時点で取るべきではない。


しかし、これに変えて【脚力強化】や【歩法】のレベルアップは少し違う。


まず【脚力強化】だが、これはその名の通り脚力を強化してくれるスキルで下半身のパワーが大きく上昇することになる。走って狩りをする時に全力で走ってしまうと体力がすぐ切れるのは想像しやすいと思う。セーブした速度でも全力に近ければ近いほど体力の消費が大きくなる。


【脚力強化】はその全力の上限を引き上げてくれるスキルだ。なのでこのスキルを身につければ今までの全力ダッシュの速度が全力の速度ではなくなる。最大体力が上がるわけでは無いが実質的に体力が上昇すると言える有能なスキルなのだ。


そして大本命の【歩法】だが、これは人間の歩行や走行といった動作を最適化してくれるスキルになる。勿論今はレベル1のスキルなので真の意味で最適な歩法ではないがそれでもこのスキルを得る前と得た後では明らかに疲労の度合いが異なっていたのも事実だ。


このスキルは自分の見習い狩人のような探索職か物理系の戦闘職が習得できるのだが中級職の戦闘・探索系の探索者であれば殆どが取得してレベルを上げているという。


このスキルの効果の幅は非常に広い。しかし厳密には効果は一つと言われており、それが先ほど述べた歩行や走行と言った足を使う動作を最適化するという効果である。しかしこの効果一つで色々なメリットがあるのがこのスキルの凄いところだ。


主に言われている効果が三つある。一つ目は足場が悪い場所での補正だ。例えば木の上といった不安定な足場でも問題なく歩くことが可能になり果ては戦闘することも不可能ではないという効果だ。


二つ目が歩行の最適化による無駄な体力の消費がなるなることだ。基本的に人間には無駄な動作というものがある。力が入りすぎていたり正しい姿勢じゃないことで余計な負荷がかかったりと言ったものだ。それが無くなる。これが長時間の間ダンジョンに潜って探索を行う探索者に取っては有用でレベル10になれば稼働時間に2倍近くの差が出ると言われている。


三つ目が戦闘時の補助だ。具体的には間の詰め方や攻撃の避け方など戦闘時に足に関わる動作へ殆ど補正がかかる。持っている戦闘職と持っていない戦闘職の間には超えるのが難しい壁ができるほどだそうだ。


このように戦闘でも探索でも有用なのが【歩法】なのだ。では【歩法】のレベルを上げるかという話なのだが少し迷う。有用なのは間違いないし狩りの効率が上がるのも間違いない。とはいえレベル4でどの程度補正がかかるかは実感しないと分からない。


しかし今、他に取りたいスキルも特にない。であればスキルポイントを貯めるという選択肢もある事にはある。別にスキルポイントは毎回消費しなければならないものではない。貯めておくというのも自分が欲しいスキルができた時にすぐに取れるメリットがある。


ここは迷いどころだが結局、【歩法】のレベルを上げることにした。それも一気にレベル4までだ。このスキルは将来的にどうせ上げることになるスキルではあったのでそれが早いか遅いかの違いだと思ったので、思い切って上げることにしたのだ。


現状、見習い狩人である内は【体力強化】のスキルを取得することはできないし狩人には他にスタミナを上げてくれるスキルは特にない。【歩法】もスタミナが上がる訳ではないがきっと昨日よりも長く走ることが出来るようになっているだろう。


今日中にレベル6に上がることは流石に無いだろうが明日にはレベル6になれるかもしれない。


それよりも後、29匹の兎系モンスターを倒すと僕は初めての称号である[兎の敵]が手に入るだろう。僕の最終目標である[竜殺し]と同じ実績称号の一つ。その格に大きな差はあるがはじめの一歩としてありがたく取らせてもらおう。


よし、では本日2回目の探索を行うとしよう。僕は気合いを入れて再びダンジョンに潜るのであった。

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