002 初戦闘とステータス

ダンジョンに潜る探索者は国が発行した探索者免許をダンジョン省が各ダンジョンの前に設置している施設の受付に提示した後にダンジョンに潜ることを許可される。


グダグダと考えている間に受付に呼ばれ免許の提示を済ましたので余計な荷物をロッカーに預けて探索用の装備で「兎のダンジョン」に潜る。


ダンジョンと現世の境界を抜けると空気が変わったような感覚が初めての探索である僕に緊張感を与えた。このダンジョンの基本的な構造は現世との境界から暫くは洞窟型で、100メートルほど移動した先で草原型になる。


最初なので入り口付近に陣取り一匹を撃破することができれば即帰宅することを決めている。これから命のやり取りをすることを考えると少し恐怖が湧いてくる。


でも、僕はこの日のために屠殺のバイトで生命を奪うことの重みを経験しいざという時の殺傷を躊躇わないようにした。今更、モンスターの命を奪うことに躊躇して大怪我を負うようなことはない。


今まで僕が経験してきたことは裏切らない。そう信じて僕は盾を構えて草原に足を踏み入れる。知識としては知っていたダンジョンが明らかな異界であることを実感して緊張が高まる。


これをよくない緊張だと思い、僕は一つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。一呼吸おいて落ち着いたことで数メートル先に白い影があることに気づく。


あれが【小兎スモールラビット】なのだろう。そちらに注意は向けつつ周囲に他のモンスターがいないかを念入りに確認する。もしも戦闘中に背後から攻撃されればステータスを得ていない僕なら危険かもしれないからだ。


その対策の一つとして革防具を装備しているが、これが実際どれほどモンスター相手に機能するかはわからない。強度実験の結果下級のモンスターの攻撃では防具が破産しないと言われているが、それはあくまでも防具の話であり、僕自身は体当たりの衝撃で致命傷を受ける可能性がある。


だからこそこの安全確認は重要なのだ。数メートル先の小兎は呑気に草を食んでいる。一分ほどかけてしっかりと確認したが他のモンスターはいなさそうだ。僕は意を決して小兎がいる場所に盾と短剣を構えて近づく。


小兎は兎としては致命的なほどに危機感がなく、1メートルまで近付いても此方に見向きもしない。そして短剣で突き刺そうとしてようやく小兎は回避行動をとった。


攻撃されたことに気づいた為、小兎も勢いをつけて突進を試みる。しかし、大地の手には透明な盾であるライオットシールドがある。勢いよく突進した小兎は盾と衝突すると同時に盾を勢いよく押し込まれ大きな衝撃を受け脳震盪を起こした。


そしてフラフラとした兎に短剣を躊躇なく突き刺す。急所に正確に突き立てられた事で小兎は即死し無事に初戦闘で勝ち星を上げることができた。


兎が生き絶え、光の粒子となってダンジョンに帰ると同時に全身に高揚感にも似た熱さを感じ目的を果たすことができたと安堵する。


目的を果たしたからには今日はもうダンジョンに用はない。数メートルも離れていない出口へ足を進め無事に地上へと帰還することができた。


なぜモンスターを一匹倒しただけで帰還を選択したのか。それはステータスの獲得条件にある。本来、人類にステータスなどという超常の力はなくダンジョンが出現してから後付けで獲得したものに過ぎない。


ステータスはダンジョンという地上とは異なる理を持った世界で、その世界の生物が生き絶える時に発する魔素と呼ばれるエネルギーを大量に浴びることで肉体と精神体が魔力に適応し、その世界の理の影響を受けるようになる。


その理の影響というのがステータスなのだ。


それは肉体とも精神体とも違う魔力体とでも言えるもう一つの肉体そのものであり、肉体と精神体では成し得なかった超常の力を扱うことが可能になる。


ではステータスは具体的にどういうものなのか。それは大きく分けて三つに分類できる。一つ目がその名の通りステータスの役割だ。自分という存在が大まかに数値化されて能力値が表示される。基本的に名前、性別、種族、職業、状態、魂位、生命力、魔力、筋力、体力、知力、精神力、敏捷、器用さ、抵抗力、魅力、幸運、スキル、称号が表記される。


二つ目が、表記される項目の一つである職業に関する機能がある。これはゲームに出てくるような職業を選択して選ぶことができる機能だ。具体的には全ての人に見習い戦士、見習い術士、見習い狩人、見習い職人、見習い商人の五職業のどれかを選ぶことができるのだ。


もちろんステータスに表示されるだけのものではない。三つ目の機能であるスキルに大きく関わるので先にスキルの説明をしよう。スキルというのは技能、能力の事で例えば【剣術】のスキルを持っていると剣の扱いが少し上手くなる。でも【剣術】は最初から手に入れることはできない。


スキルは対応する職業に就いてはじめて手に入れることができるようになる。例えば見習い戦士の職業に就くと武器に関係する初級スキルが軒並み取得できるようになる。見習い術士に就けば術に関係する初級スキルを取得できるようになるし、見習い狩人に就けば探索系の初級スキルを取得できるようになる。


少し長くなったので補足をしつつ纏めよう。ステータスを獲得すれば、いつでもステータスを確認できるようになる。そして、ステータスを獲得できたと同時に職業に就くことができるようになっている。五つの職業の内どれか一つを選ぶと、その職業に対応するスキルを一つだけ獲得することができるようになる。


つまり、一匹モンスターを倒すだけでステータスを獲得し職業に就けてスキルが一つ手に入る。この職業とスキルを安全な場所で選択するために僕は即時帰宅を選択したわけだ。


因みに僕が就く職業はもう決めている。というか何年も前から決めていた。勿論スキルも。僕の探索者としての目標は死なず怪我せず危険なくだ。探索者として生きて行くことは、もう覚悟を決めているので商人と職人は今回、除外させてもらっている。術士は基本的に非力で貧弱なのでソロ向きではない。よって残るのは戦士と狩人になる。


戦士は戦闘面で安定しているだろう。けれどソロでやっていくとなると探索力に不安が残る。変えて狩人であれば戦闘も苦手なわけではなく探索系のスキルが非常に豊富だ。先の目標を遵守するには探索に優れた狩人の方がいい。よって僕は職業を見習い狩人にする。


そしてスキルだが、狩人には索敵や危機察知、聴力強化など生存力に優れたスキルが沢山ある。今回、僕は不意打ちへの対策となる【索敵】を取得する。なぜ危機を回避できる危機察知ではなく此方を取得したか。それには暫く活動を予定している兎のダンジョンの特徴が関係している。


しばらく主に探索する予定である兎のダンジョンには罠がない。一階層からずっと草原型の構造であり罠に意識を割く必要がない。暫くは罠に警戒する必要がないのだ。それならば草原という兎が身を隠しやすい環境で不意打ちを防ぐことができる索敵を取る方が良いと判断したわけだ。


今日はもうダンジョンに潜るつもりはない。予定ではステータスを手に入るとしか決めていない。予定外の行動は不測の事態や危険に繋がる。余計なリスクを追う必要はない。どうせ明日からダンジョン三昧なのだ。今日は家に帰ってゆっくり休むとしよう。

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