第13話 僕さ、君が好きなんだ

「晩飯どうする」

 俺は河出に訊ねた。こちらには金が少ない。現役の模試もし試験監督しけんかんとくのバイトをしているが、それだけでは心もとない。正直、今日の晩御飯はパンの耳だろう。

 では、なぜたずねたかというとペアマグカップドッキリがあるからだ。


「スーパーでたこ焼きの粉買って帰ろう。タコだけではなく、チーズとか入れてさ」

 初めて会った時は無愛想でプライドが高く、非常識な人間だと思った。酔って人を襲う危険人物。


 それがこんなに笑うんだぜ。かれても仕方ないだろう。


 部屋に着いたら、すぐにたこ焼き器を温めた。


「油は?」


「うちにあると思う?」

 自炊をしない男の部屋に食用油を置く習慣は期待できないのは察知していた。


「仕方ねぇな」

 そう言って皿の入った紙袋を部屋に持ち帰って、耐熱皿だけ机に置いた。再び、油とカップの箱を持って、河出の部屋に帰った。


「危ないから火切ったよ」


「めずらしいな、そこに気を使うのになぜ食用油は無いのか。疑問だ」


「なんだ、その袋」

 俺は包装を解いた。


「ペアルックだ。お隣さんでわりと仲良くなったし、その好きな人がいるなら、二つやるから彼女にやれよって妹が」


 ははは、と。笑って、たこ焼きの粉をボールに入れて水と卵を入れた。どうせこの男は卵の存在を忘れるだろう。後ろから抱き着いてきた。


「僕さ、君が好きなんだ」

 どういうことだ。


「おかゆ、美味しかった。男が襲ってきたときに助けてくれてかっこよかった」


「やめろ。それは河出が弱っていただけで勘違いなんだ」


「違うよ。だって、他の人はすぐに消えた。ここまで僕と一緒にいてくれたのは君だけだったんだ。ありがとう、あとごめんなさい」


 震える腕を引き離せなかった。俺は馬鹿だ。

 河出を見る時は常に性的な目で見ていた。酔っていない時のありのままの河出を僕は愛しただろうか。

 腕をほどいて、河出を見た。河出の頬に垂れる涙を俺は自分の指で拭った。


「泣くなよ。分かった。また遊びに行こうな」


「好きの返事は?」


「お前も男なら分かるだろう。言ったら収まりがつかないことくらい察しろ」


「僕はいいよ。受け止めるから」

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