第7話 知らぬ間に貞操の危機

 対策ノートは他にもあった。三号室が筋トレ中はうなり声を出すからそういう時は呼びりんを鳴らすなとか。

 四号室からたまに夜中下手な演歌が聞こえるが次の日に同じ声の人が来ても素知そしらぬふりをすること。

 五号室は十八禁のビデオの音声が流れるが部屋の主を見ても心配しないことちゃんと成人していると、他にも特徴や性格が詳しく書かれている。


 表紙裏に二階一号室元住民、常盤壮太ときわそうたと記されている。


 ここの部屋だった人か。警察官はああ言うが、引っ越す金がないんだってことくらい察しろよ。


 それから予備校帰りにコロッケを買うようになった。自衛策じえいさくだ。

 だが、音沙汰おとさたがないのがお節介ながらに心配だ。これが本来の日常だ。あのノートのおかげで、筋トレ中の二階五号室の住民に回覧板持って行ってもきびすを返し、演歌には下手だなと思い、十八禁が聞こえてきても平気になった。


 隣の部屋は扉が直るまで河出は大家さんと暮らすらしい。しばらく帰って来なかった。これ幸いとコロッケは買うもののしばらくの平和の間に俺は自炊をしてちゃんと眠ることが出来た。


 一週間後、帰ってきやがった。扉が鳴った。開けるとボロボロに酔った河出が立っていた。


「トイレ」

 そういい俺の横を走っていき、トイレで吐き出した。


 水くらい恵んでやろう。ちゃんと水を流した河出に感心しつつ、僕は水を渡した。


「ありがとう」

 初めて聞いた謝意。酔うと性格が変わるタイプか。


「何があったんですか?」


 あとでノートを見るとこう書いてあった。河出は普段は適当で頭の悪い男だが、飲み過ぎると可愛げがある。

 ちゃんと見なかった俺が悪い。こう続けている。だが、男癖が悪く。確実に抱かれる。とても床上手とこじょうずだ。

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