第4話 ゴーヤは塩コショウが一番合う

「俺です。自分の家が燃えていると思って」


「あぁ、そうでしたか。すみません、うちの先輩が」

 宮本は河出の背中を押して頭を下げさせようとしたが、河出は拒んだ。


「謝る意味が分からない。消防士さんは来た。でも結局、何も人的被害も物損ぶっそんも無かった。僕たちは七輪炭火で秋刀魚を焼いて、温かいご飯と共に食していただけだ。どこに悪意があるというのだ。そもそもこの何とかさんがお節介せっかいなだけじゃないか」


 怒りがわいた。こんな頭のねじが外れた正直に頭を下げない男にだ。こんな隣人がいるなんてどうかしている。


「普通は自分の家が燃えているかもしれないと思ったら、通報するだろ」


「燃えてなかったから良かったじゃないか」


「君たちね。喧嘩けんか仲裁ちゅうさいで私たちがいるわけじゃないの。河出さんもこの男性に迷惑かけたのだから、謝って」

 渋々こちらに向かって頭を下げた。申し訳ございませんでした。を、言う気はないらしい。


「私たちは帰るので、今度七輪で焼く時は場所考えてね。あと、それと大家さんは」

 河出は頭を下げたまま固まった。


「大家さんに連絡しておかないと、こっちも帰ることが出来ないね」

 素早く頭を上げた河出に少し驚いた。塩顔我関しおがおわれかんせずだったが急に動揺しだした


「おい、お前」


「お前じゃない。伊福部だ」


「いくふべ。僕の代わりに大家に電話しろ」


「番号が分からない」


「なんで入居の時、聞いておかない。役立たず。あのどうしてもですか?」


「どうしてもです」

 消防士さんたちに急変が少し面白いらしい。表情に余裕が出ている。


「あーもう分かった」

 河出は少し話し、少し大声で説明。一生懸命に謝罪し、顔色は白くなったり震えたりした後に、電話口から「もういい。せっかくいいところだったのに」と、声がした。


 小さな声で、消防士さんにはい、と河出が渡した電話にスピーカーオンで消防士さんと話し始めた。


「またですか。この前も七輪でバーベキューして怒ったところなんです」


「だって、ゴーヤは塩コショウで焼くのが一番だろ」

 河出は偏屈で性根が曲がっているが、ゴーヤで人生得している。


「悪かったね」

 騒動の次の日、予備校に行こうと出たところに大家に声をかけられた。

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