第2話 遠いコンビニと燃ゆる我が家

「ということで一階の一号室に大家さんがいますので、困ったら大家さんに」

 外は暗くなり始めていた。今日、越したので名実共にここが自分の部屋だ。そう思った。


「アンタ、誰だい」

 一階の一号室の前にいた女をおばあちゃんみたいな人物を想像していた手前、やや驚いた。オネエみたいでも、青年でもなかった。神経質そうな女だった。


「名前、歳、性別」


「あのなんで性別まで?」


「見られたら困るものもあるだろう。部屋に入る前はちゃんと通知してやる」

 あー、困った困った。この前男は女連れ込んでいて、もう大変。


「あの二階の一号室に引っ越してきた。伊福部明いふくべあきらです。二十一歳、男です」


「学校は?」


「その浪人生でして」


「そうかい。私はもうそろそろ出かけるから、あとは隣に聞いておくれ」

 呼びかける前にさっさと部屋に入ってしまった。



 荷物はすでに入れていた。布団に机に参考書、さて勉強すっか。

 食材は事前にカップ麺を仕入れてあった。湯が沸かせる家で良かった。さて、水を。出ない。

 あ、契約するのを忘れていた。電話をかけようにもどこにかけるか分からない。


 お茶くらい買いに行こうと自転車にまたがった。コンビニはとマップアプリで調べると機械音声が「近くのコンビニまで車で十五分です。経路を表示しますか?」と。


「しねぇよ。バーカ」

 さすがにお隣に「水を貸してください」というのはいかがなものか。


 駅前にコンビニなかったよな。確認すれば良かったコンビニ近くにありますかって、自販機くらいあるだろ。駅まで徒歩十五分は確かに嘘を言っていない。自転車で五分ほどだった。水やジュースを買えた。でも収入が仕送りだけでは心許ない。この辺あるのかバイト先。



 そうその皮算用にスキがあった部分だ。光熱費や家賃はともかくお金を稼ぐ必要性と買い物に行く手間を考えていない。予備校帰りに買うしかないだろう。それにしても駅前にコンビニが無いのは困った。食費どれくらいかかるだろ。アルバイト先も探さないといけない。



 けほけほ。咳をしているとなんだか焦げ臭い。辺りを見回わたすともうもうと煙っていた。なんだこれ、そう思って顔を上げるとちょうど引っ越したばかりの我が家から煙が出ていた。

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